設計図の問題点











「困ったのです……」



「うぅ~ん……やはりここが問題になるね」



「ここをどうにかしないとどう考えても飛行船製作は失敗するでしょうね」




ワイバーンの【重力】属性の魔石を使った飛行船計画、その土台と言える飛行船の構想を考え始めてすでに1週間。リネットとモンド、そしてライアの錬金術師の3人は飛行船の設計図らしき紙を広げたテーブルの前で頭を抱えていた。



「動力である魔石の在庫は問題なし、飛行船の製作に使う素材や建材なんかも【働きアリハウスマン】経由で確保済みですが…」



「飛行船を空に浮かべて姿勢を維持させる方法が思いつかないのですよ……」



「風の影響は船体の重量の増加と船体の形状を風の影響の少ない流線形マルっぽいにした事で問題は無いが、その流線形にしたせいで新たな問題が出るとはな…」




現在、ライア達の前に広げられている設計図には楕円型で直径200~300メートルはありそうな巨大な飛行船が描かれている。



奇しくも、形そのものは前世のバルーンタイプの飛行船と瓜二つになりはしたが、中身は全くの別物だ。



中はガスをため込む空洞などではなく、人や荷物を大量に積載させる事が可能な倉庫や客室、それに後程商会やギルドなどから申請が来てもいいようにテナント部分や今は構想段階のアミューズメントエリアなどをぎっしりと満載する予定なので、どちらかと言えば前世の豪華客船の様な物である。



そんな利便や人の楽しみなどをふんだんに詰め込んだ飛行船は風の影響を出来るだけ無効化する為に楕円の流線形に設計されている。



しかし、その形を取った際に【重力】の魔石の特性的に球状の物を浮かせると、くるくると回転してしまうのだ。



少しわかりにくいかも知れないが、宇宙飛行士の事を思い出してほしい。



彼らは宇宙空間の無重力の中、身体に少しでも衝撃が当たれば上下左右にくるくると回ってしまう。



あれと同じ現象が飛行船にも起きてしまうという訳だ。




しかし「それは楕円やらその他の形でも同じなのでは?」と思う人もいるかもしれないが、それは【重力】の魔石自体が対象物に対して“無重力”を与えているのではなく、浮く為に“上”に向かう重力を“対象の中心部分”に発生させているので、厳密にいえばこの間のライア達が空を飛んだ時も両手両足の部分は普通に下に向かっての重力の影響を受けていたのだ。



故にライア達が空を飛んだ時は違和感なく進みたい方に重力を発生させて進めたし、頭と足が反転するようなハプニングも無かった。




だが、今回の楕円型の飛行船に限れば少々話が変わる。



飛行船の前後の円が伸びている部分は特に問題が無いのだが、横の特に伸びてもいない部分はほんの些細な影響で簡単にくるりと回ってしまうのだ。



そうなれば飛行船の中は全てひっくり返り、人が乗っていれば大惨事間違いなしという訳である。




「横に大き目の羽を付けるという手もあるが…」



「そうすれば風の影響が心配になりますね……さらに重量を増やしますか?」



「さすがにこれ以上となると飛行船の大きさがこの街で扱いきれない大きさになるのです……出来ればもっと別の方法が欲しいのですよ」




飛行船はすでに収容可能な人員は1000を優に超えるほどの大きさだ。



この街も想定よりも大きくなったとはいえ、飛行船を開発するのに十分な土地を確保するのも一苦労である。




「……うぅ~ん……ダメです……設計図作りが楽しすぎて最近は徹夜のし過ぎで頭が回らないのです」



「同じく」



「えぇ……せめてきちんと寝てくださいよ2人とも……」



リネットとモンドの弱気な発言を聞いて、恐らくこのまま話していても埒が明かないなと感じたライアは、一旦アイディアが生まれるまで休憩しようと提案すれば「まぁ飛行船をどうにかしないと何も進まないからね」と賛同を受け、モンドは眠る為に寝室へ行き、リネットは工房の空気に触れていたいのか、近くにあるソファーにライアを座らせ、ライアを膝枕にして仮眠をとる。




「……寝室できちんと寝た方がいいんじゃないですか?」



「……こんな楽しい事をしている時に工房を離れるなんてボクには出来ないのですよ……それにこんなやわこい膝で眠れるのは婚約者の特権……です……これを…使わないのは……もったいな…い………」




「……ふふ、何ですか、やわこいって……」



ライアは己の膝で眠ってしまった婚約者の頭をあやす様に撫でつつ、工房独特の理科室の様な匂いを感じながら時間を潰していくのだった。












―――――――――

―――――――

―――――











「いっその事、他の人達に相談してみるのはどうです?」



「他の……確かにボク達だけじゃ気が付けなかった事を気付いてくれる可能性もあるのです……それに、今のままじゃ何も進まないですしね!」




数時間後、ライアの膝で眠っていたリネットが目を覚まし、眠気が晴れたような顔をしていたので、飛行船の話をしながらソファーでイチャついていると、ふとそんな考えがライアの脳裏によぎる。



ライアの提案はリネットにしても悪くはない考えであった為、特に反対することなく了承する。




「なら早速聞いてきます」



ライアはそう言って、この街の各地に点在する分身体達の視点に集中し、色んな人に話を聞く。




『え?この間からライアさん達がやってる飛行船って奴ですか…?……すいません、俺はよくわかんないです』



『ん?どうしたライア?………ふむ……つまり、この間のライアのパンツが見えたあれを大きな球体でやるのか?……いてッッ!?あ、すまんッライア!!別にとぉさんはその事をッ!いたたたた!!』



『くるくる回る……なるほど……ちなみに、その宙に浮ける魔道具はツェーンちゃんにお貸しいただけるのでしょうか?……空飛ぶ歌姫……これはイケるッ!!!』




『ごらぁ!!そこの木材はカンナ掛けがまだ終わってないの見てわかるだろう!!あ、すいませんインクリースさん……その飛行船…?ってのはよくわからないですが、水に浮かべた球のようにくるくる回るってんなら重りか糸で上から引っ張るのはダメなんですかい?』




仕事部屋で合成魔石を作っていたリグ、街で管理している畑で働いていたとぉさん、楽団のトップであるカルデル、そして街で家の建設をしていたバンボと4人に話を聞いて行き、ようやく問題の解決になりそうな案が出て来る。




「重り……引っ張る……そうか、要は釣りの浮きと同じにすればいいのか……」



「なにかいい話は聞けたのです?」




ライアの思考が顔に何かしらの直感が働いたのか、リネットはワクワクとした期待顔でそう話しかけて来る。





「恐らくですが……行けると思います!」










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