空を飛ぶという事












今更だが、なぜ最初からリネット達に【重力】の事を言っていなかったと聞かれるかもしれないが、これに関しては単純に“なぜそうなるのか”を説明できないからだったりする。



空気の中にある酸素や窒素、二酸化炭素などの元素記号に関してどのような方法でその存在を見つけることが出来たのかを説明できる人が前世の日本にどれほど存在する?



【重力】…これに関して有名な話はニュートンのリンゴが木から落ちるのを見て重力の存在を発見したのは色んな人が知っているだろう。


だが、その重力がどうして地球から発せられ、人が地表に引き寄せられているのかを何も知らない異世界人に説明できる人がどれほどいるのかという問題だ。



多分に漏れずライアは重力がなぜ地球や星に存在しているのかよくは知らないし、空気抵抗や質量の関係で物を投げれば斜めに、放物線を描いて落ちる事はわかるが、物が落ちる正確な場所を数式で導く事などは知らない一般人なのだ。



故にリネットから「どうしてわかったのです?」と一言聞かれるだけで口を閉ざす以外選択肢が無くなるので、今までそう言った知識を披露しなかったわけだ。






ただ今回に限れば、口を滑らせてしまったがうまい事疑問に思われる事無く説明出来たし、精々リネット達にも「そんな思い付きもあるか」程度に思われるくらいで済んだはずだ。



(我ながらあっぱれな危機回避!)



そんなライア達は、早速ライアの考えを証明する実験に取り掛かる為、ワイバーンの魔石を持って来る事になったのだが…。





「ふぉぉ!?ほぉぉ!すごいです!!ボク、空を飛んでいるのですぅ!!」



「リネットさぁん!俺もやる!俺も空飛びたいです!!!」



「これは世紀の発見になるかも知れない!よし、追加のワイバーンの魔石を取って来て私も空を飛びに!!」





あっさりともの浮かす実験は成功した。



というか小さい物を浮かせる実験がなぜか術者本人が浮かんでしまうアクシデントを起こし、本来の意味で実験は失敗しているのだが、人が空を飛ぶという現象はあまりの衝撃に錬金術師3人中3人が大興奮のあまり失敗を大成功と脳内で変換するほどの事象だったのだ。




「おぉぉぉぉ!すごい!魔石に魔力と発動イメージを明確に込めさえすれば、自由に飛び回れますよ!」



「あははははは!楽しいのです!すごいのです!!」



「自由……このまま外に飛んで自由を謳歌して来ようかな?」




工房の中をお互いぶつからないように空を飛びながら自由に動き回る。




「これで外に行くとなれば、めちゃくちゃ気持ちが良さそうですね……いっその事3人一緒に行ってみますか?」



「おぉぉ!それはいいのです!絶対気持ちがいいのです!」




「あ、2人とも!」



モンドの発言を聞いたライアとリネットは便乗し、外に飛び出そうかと工房の出入り口に向かおうとすればモンドから静止の声が上がるが、既に意識は外にあったのでライア達は気が付かない。




工房から外に出るには屋敷を経由しなければならないので、工房の扉を抜けたライアとリネットはすぐさま屋敷で働くメイド達と出くわす。




「あ、ヴァーチェ!ミオン!」



「ん?……え!?ライアさん!?なにしてるんすか…ってか飛んでる!?」



「ラ、ライア様!?リネット様!?どういう事ですか!?」




ヴァーチェとミオンの驚いた顔に少しだけ悪戯心が満たされるのを少しだけ悪く思いながら、外に向かう為、スピードを緩めずに「ごめんねーちょっと外行ってくるから―!」と駆け(?)抜ける。




「え、アッ!ラ、ライアさん!下!下!」



「ライア様!リネット様ー!お2人ともスカーt……」




「…??」



「2人とも何か驚きとは違う何かで叫んでいたのです?……まぁ後で聞けばわかるのです」




ライア達が過ぎ去った後、急にヴァーチェ達が叫んでいた気がするが、外の自由に目がくらんだライア達は止まらない、止まる気が無い。




そのまま外に繋がる玄関の近くに来れば、今度はパテルとプエリ、それにクストにとぉさんの4人と出くわす。




「あ、皆ー!見て見て―!空を飛ぶ魔法で今から外に行ってくるんだー!」



「「「ライア(さん)!?」」」



「わぁ!ライアねぇちゃん空飛んでるー!いいなぁ!」




さすがに空を飛ぶという異常事態に比較的年齢が高い男性組が驚愕の表情を浮かべる中、まだ6歳の女の子であるプエリは純粋に羨ましそうにこちらを見る。




「この魔法が安全に機能するのが確定したら、プエリちゃんも後で飛ばせてあげるよ!楽しみにしてて?」



「うん!!!」




プエリの純粋な顔に絆され少しだけその場に静止して、プエリとそんな約束をする。




「あれ?でも……ライアねぇちゃんたちのパンツ見えてるけど、その恰好で空を飛んでもいいの?前に女の子のパンツは他所様に見せちゃいけないって教えてくれたのに?」




「ふぇ?」





そのプエリの疑問と同時に後ろから追いかけて来ていたモンドとヴァーチェ、ミオン組が走って来る。




―――ダッダッダ!


「ライアさん!さすがにスカートでそれはダメっすよ!」



「ライア様!リネット様!せめて男性陣の居ない場所でするか、ズボンの着用をお願いします!」



「あぁ……ごめんね?工房を出る前に指摘すればよかったんだけど……あまりに空を飛ぶのが楽しくて」




その瞬間、ライアはふと空に浮いている自分の下に立っているパテル達の方へと顔を向ける。



「「………」」「ラ、ライア!と、とぉさんは見てないぞ!?真っ赤な可愛いパンツなんてじっくり見てないからな!!」



パテルとクストは顔を赤らめながら親子揃って明後日の方向を向き、とぉさんはライアに勘違いをして欲しくないのか未だスカートの下が見える位置に目を向けながらそのような事口走る。






「「ひ、ひにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!??」」




ライアとリネットはさすがは夫婦と言った所以なのか、全く同じ反応をしながら工房まで素早く逃げ出していくのであった。









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