ワイバーンの魔石











「今日も大量なのですよ!ワイバーンの素材が余っているという事実に驚きが隠せないのです」




ツェーンのライブが大成功した次の日に開拓民達が王都へ旅立ってから数日。今この街は特に何かが変わった様子がある訳でもなく、冒険者はダンジョンへ旅立ち、それ以外の住民は家づくりや農業、その他の仕事へ向かう日々。



そんな中ライアがしている事と言えば、街の運営に関する書類仕事や工房での研究、パテルとプエリの修行に付き添ったり、スキルのレベルアップ修行にダンジョンで経験値集め&ワイバーンの素材回収などなど、分身体を使って様々な事をこなしていた。



その中のダンジョンでの経験値集めとワイバーンの素材回収に関してなのだが、実はこの1年ほど続けて行っていた弊害として、工房の倉庫が一杯一杯になってしまったのだ。




「私も最初はワイバーンの素材なんて滅多に見られない物なのに!と触れるのにビクビクしていたが、これほど毎日持ち込まれると慣れるものだね」



「モンドさんは最初からワイバーンの素材を嬉々として使ってたじゃないですか?この前の事忘れてないですからね?」




最初はライアもモンドもリネットも全員、ワイバーンの魔石や素材を好きに出来ると喜んで実験を繰り返していたが、さすがに工房の倉庫全てがワイバーンの素材で埋まる事態に困惑の気持ちが生まれたのだ。




「しかし、確かにこれほど大量のワイバーンの魔石や素材を売りさばく訳にもいかないですし、自分達で魔道具に作り替えるといっても、そこまで数が必要でもないのです…」




「贅沢な悩みだけど、ワイバーンの魔石は一つだけで十分な出力の魔石だし、今まで滅多に取れるものでは無かったからね」




現状、今ライアの屋敷に保管されているワイバーンの魔石は総数約450個、皮膜や牙と言った素材は時間経過とともに使えなくなったものを抜いたとしても200匹分ぐらいの素材が保管されている。



仮にこれら全て売りに出したとしたら国の国家予算が傾くほどの資金が手に入るのはほぼ間違いないだろう。



もちろん希少故の高値であるのはもちろんなので、1年前のリネットに金貨6枚で売った時よりは安くなるだろうが、微々たるものだろう。




「すみません、プエリちゃんや俺のレベル上げにワイバーンって結構おいしくて、つい狩り過ぎちゃうんですよね……今まで全然上がらなかったレベルも2も増えてますし、プエリちゃんに関しても6歳だというのに大人顔負けの32レベルですよ!すごくないですか!?」



「「いや、レベル32の6歳児ってなんですか化け物ですか?」」



ライアの言葉にリネットは「え、お父様の騎士の中でも30レベル越えってだいぶベテランのはずなのです…?」と困惑の声を上げ、モンドは「プエリちゃんは将来何を目指す事になるのかな…?」と何かを危惧するように呟いているが、ライア自身が50レベル越えなのでそこらへんあまり気にならないのかポカンとした表情を浮かべている。




「……いや、まぁ今はプエリちゃんの事はいいのです……ひとまずワイバーンの魔石だけでもどうにか消費したいのです」



「素材の方は牙や竜骨を抜けば大体腐って処分する事になりますし、お肉は普通においしいですからね」



「しかし、ワイバーンの魔石の属性は【軽量】……貴族の超重量の装飾を施した馬車や加積量を超過した荷馬車などに使用する魔道具をどう消費するのかと言われると、困るものだね……私は薬関係以外はそれほど得意じゃないからね……」






と、話は少し戻り、ワイバーンの魔石の消費方法に関しての話になる。



今まできちんとワイバーンの魔石や素材がどのように使われていたのかの説明をしていなかったので、改めてワイバーンの魔石や素材がどのような使われ方をして、なぜ高価な値段で取引されているのかの説明をしておこう。




ワイバーンとは火竜や他の地竜、水竜と言った俗にいう【竜種】と限りなく近い【亜竜種】と呼ばれる魔物である。



【亜竜種】とはワイバーン以外にも、コカトリス、シードラゴン、麒麟と前世でもかなり有名な名前の存在がいるらしいが、この大陸にはワイバーンが偶に見つかるだけで、他は別大陸やそもそも伝説が残っているだけで絶滅したと言われている魔物ばかりである。



ワイバーン以外にも【亜竜種】が居る事は一旦おいて置くとして、ワイバーンの特殊属性に関しての話に移行する。




ワイバーンの特殊属性は【軽量】……物の質量を軽くし、約1トン程ありそうな大きな荷馬車を片手1つで持ち上げれる程軽くする能力を持つとされている。




(……これに関しては【軽量】じゃなくて【重力】か【斥力】みたいなものだと俺は勝手に思ってる……この世界は未だ重力の事に関しては調べられていないし、そう言った知識が無いから“ただ軽くなる魔法”として【軽量】と名付けているのだとリネットの話を聞いて感じた事だ)




これに関しては前世の記憶と知識がある故にライアが気が付けた事なのだが、ワイバーンと戦っている時にその巨大な肉体を【軽量】の魔法で肉体を軽くして、あの素早い動きをしているのではなく、進行方向に“落ちる”重力を生み出し、あの超スピードを生み出しているのではないか?と疑問を持ったライアはほぼほぼワイバーンの魔石は【重力】だと思っている。





とまぁそんな考察を入れた所で【軽量】の効果は物を軽くするという使い道が主なのは変わらないので、そこはいずれ調べるとして、今はおいて置こう。




【軽量】の使い道としては先程モンドが言ったように、お金持ちの貴族が己の財力をアピールする為に自走不可能なほど巨大な馬車を作り上げた際に、この【軽量】の魔石で作った魔道具で馬車全体の重量を軽くし、馬に引かせる事を可能にしたり、加積量超過の商会の荷馬車などに備え付け、大量の商品を運ばせるといった使い方が主である。




ワイバーンの魔石は一つで1トンほどの重量を無い物としてくれるほどの出力があるので、数が増えようとも家を運ぶ訳でもないので、自ずと使用する際は魔石1個で事足りてしまうのだ。







「うぅ~ん……これだけの数があるのですし、一般の人が使える魔道具などを考えてみるのもいいです?」



「さすがに一般市民が買える程まで値段を抑えるとなると王都の方で問題になると思うし、現状ワイバーンが溢れているのはライア君1人が暴れた結果だしね……将来を考えればあまり安売りするのは得策じゃないと思うよ?」



「それもそうなのです……せめてライア以外が月に2,3度ワイバーンを狩って来れるくらいにならないとダメなのですよ……」



話せど話せど、今まで希少存在であったワイバーンの魔石の使い道が簡単に思い浮かぶ訳もなく、皆で頭を悩ませる。




「……いっそ【重力】的に気球……いや、飛行船とか作れたら面白そうだけど……さすがに突飛かな……」




「……ん?【重力】とはなんです?それに飛行……船?とはいったい?」



ふと、ライアは自分の考えで勝手に【重力】と脳内変換されていた言葉を口に出してしまい、それがリネットの耳に入り、質問を投げかけられる。




「あ、すいません……【重力】……ってのは自分なりに考えていた考察で……」



リネットに重力の意味について聞かれ、前世の知識を偶然を装い閃きとともに考察していた設定で所々ぼかしながら説明する。




「……なるほどです……“軽く”するのではなく上に“引っ張る”魔法という事なのです?……そして飛行船は引っ張る力を上だけでなく、横に作用させて空を飛ぶ船と……」




ライアは比較的単純で、科学式などを使わないで思い付きで喋っているつもりでリネットに説明しきると、それを聞いていたリネットとモンドは何やら思考顔になり、真剣に何かを考え出す。




「そうです……もし仮に“軽く”する魔法ではなく“引っ張る”魔法であれば、イメージ付与の仕方で色々と出来る事が増えるです…?」



「今までは超重量の物を人の手で押せる程軽くしていたけれど、比較的軽い物に上方向へ力が向くようにイメージすれば物が浮く?……仮にそれが本当ならライア君の空飛ぶ船も夢ではない……」




2人は最近、新しい事への実験や真新しい発見などできていなかった為か、目をキラキラさせながらバッと顔を上げてライアに目を向ける。






「「実験だ(です)!!」」



「あ、はい…」




2人の熱い視線にビクっとなったライアはおずおずとワイバーンの魔石を取りに行くのであった。











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