開拓の1年半











――――カンッカンッ!!




「行くよお父さん!えいッ!」



「……良いぞ……その調子だプエリ……」




ライアの屋敷にある大きな庭に、パテルとプエリと呼ばれた少女が木剣を打ち合わせ、鍛錬に勤しんでいた。




「……プエリもだいぶ動けるようになったね。さすがに6歳であれだけ動けるのは≪武王≫のおかげだとは思うけど」



「それもあるかもですが、ボク的にはライアの≪経験回収≫によるレベリングが原因だと思うのですよ?」




パテルとプエリの稽古を少し離れた所で見学しているのはライアとリネット。



2人はこのでのプエリの急激な成長に関しての考察を話し合っている。










1年。そう、既にプエリ達がこの街に来てから1年が経過している。



ダンジョンでワイバーンの出現を確認、パテルとプエリ達兄妹の仲直り、ウルトの緊急転職事件などがあった時からすでに1年が経った。




今話題に出ているプエリもついこの間まで5歳を祝っていたというのに、既に6歳だ。



5歳から6歳になったプエリは幼女と言った風貌から、少女と言えるほどの背丈まで成長しているし、僅かに下ったらずであった喋り方もだいぶ普通になって来ていた。





もちろん変わったのはプエリだけではない。



開拓を始めてすでに1年半が経過し、街はだいぶ完成しているし、移住者もちょくちょく受け入れ、今ではこの街に大体6000人もの人が生活している。



ウルトの件で話題に上がったツェーンの為のステージは完成しているし、それの付随と言える事務所もきちんと完成している。



街にはまだ商会の大きい店などは無いが、既に月に数回程商人が街を訪れてくれているので食料問題なども解決済みだ。



新規の冒険者達はまだ距離的問題がある為、それほどよその街から来ていないが、元々ワイバーンを狩れる冒険者はかなり希少なので、そこまで困ってはいない。



なんならレベル上げ兼、魔石や素材集め兼、危険な失敗作の魔道具の処理にワイバーンの居る第5層を有効活用しているライアにとっては5層に挑む冒険者が少ないのは今の所助かっている部分もある。




とまぁそんな感じでこの街はだいぶ開拓が完了し、既に街の住民である移住者やライア達でこの街は自立できる所まで成長していた。




であれば当然、開拓民達の仕事が終わるという事で…。







――――――――

――――――

――――








「―――こっちこっち!食料は全部一まとめにしとけー!」


「だぁぁ!誰だ俺の部屋に土足で入ってきた奴!!」


「うぇ~い!ツェーンちゃんのライブぅぅ!」


「俺、ライアちゃんに告白してみようかな…」


「おいおいおい……確かに顔は可愛いが聞いただろ?あの人はアレで男なんだぞ?」


「だからだろ?」


「「え?」」







場所は街の出入り口である門の傍の広場。開拓というにはあまりにも短い期間であったが、仕事を完了させ、王都に帰る開拓民総勢1500人弱を運ぶ馬車が所狭しと並んでいる。



出発は明日なのだが、これだけの大人数の準備は時間が掛かるので、あらかじめ食料や荷物の積みこんでおき、明日の出発に備えているという訳だ。




「……最初に来た時の半分と言いましても、やっぱり1500人は多いですね」



「最近は街の色んな場所に人が散らばってましたから、一か所にこれだけの人数が集まるのは久しいですからね」



「……別に無理に敬語で話さなくてもいいんですよ?」



馬車の積み込み作業をしているのを少し離れた所で見守るのはライアと冒険者代表のテルナート。



テルナートはこの1500人の王都帰還組の護衛兼リーダーに抜擢され、責任者としてライアと一緒に全体を確認している。



そんなテルナートはどうやらアインス達とは違い、ライア本人の姿には敬語を使うように意識しているようだったので、別に肩ひじ張らなくてもいいのだと伝えれば「いえ、貴族関係はしっかりしておいた方が問題が少ないので」と断られてしまう。




「結構真面目なんですね?」



「色々あったんですよ」



テルナートの顔は悲愁を感じさせる表情をしていたので、あまりツッコむものではないなと考え話題を変える事にする。




「テルナートさんはツェーンのライブを見に行くんですか?」



「あぁ、王都の時は仕事で見れていなかったですし、他の冒険者仲間からも『絶対に見るべき』と念を押されましたから」



「そうなんですね……ぜひ楽しんでください」



「そうします」とテルナートの返事を聞きながら、心の中では「出来る事ならクールで出来る男のテルナートさんがツェーンの追っかけみたいにはならないで欲しいな」と失礼ながら祈願をするのであった。







――――――――――

――――――――

――――――







今日は開拓民達を労わる為、完成したばかりのステージを使用して、ツェーンの【お疲れ様でしたライブ】を開催する。



ツェーン楽団のトップであるカルデルにはツェーンを通じて許可を取って、しばらく前から企画していたものだ。



……さすがにあれだけ熱心にステージを作ってツェーンに会わせず、王都にバイバイは申し訳が無かったという気持ちもあったのは事実だが、カルデルの方も『事務所が出来たのであればすぐにでもそちらに』と乗り気だった事もあってそこら辺はスムーズに事が進んだ。




ちなみにステージ自体は2万人程収容可能なこの世界で唯一と言っていいほどの巨大建造物なので、特に入場規制などはせず、料金なども取らない形にしている。



商売根性逞しい一部の人間はライブ会場の外で出店を開き、小金稼ぎをしているようだが、特にそれも禁止にはしていないので、ある意味お祭り騒ぎである。




そんな中、ライア達は観客席のVIPルームの様な場所に集まっている。



「ボクは話でしか聞いてなかったのでどんなものか結構気になるのですよ!」



「ライアは俺達の自慢だからなぁ!これだけ皆に愛されるのは必然だ!」



「あらあら、貴方ったら……でもライアの晴れ舞台を見れて私も嬉しいわ」



「「ライアさん(ねぇちゃん)のライブ!!」」



VIPルームには今までツェーンのライブを見た事が無かったリネットやヤヤ村にて話しか聞かせていなかったとぉさん達が予想以上に期待の眼差しでステージの方を見つめる。



「……いや、あの……出来れば、そんな期待して欲しくないというか……というか俺というより、分身体のツェーンのライブというか……」



そんな期待に胸を膨らませる身内達の姿に、今までで最大級の羞恥の感情がライアを襲う。



(はずぅぅぅ!?え?どうしてライブをやるって決めちゃったんだろう!?少し考えればとぉさん達が見に来るってわかるじゃん!うわぁ……実の両親に歌って踊るアイドル姿を晒すとか結構来るんだけどォぉ……)




その日、ライブが終わった後のライアは真っ白に燃え尽きて目が死んでいたのは言うまでもないだろう。









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