頑固?な大工師










「俺ぁツェーンちゃんの為ならば会社さやめても構わねぇ心意気だ!頼むッ!俺にもステージの建設に携わらせてくれ!!」



「えぇぇ……」





昨日、セラとステージ関係の話をした次の日の朝、屋敷の近くでスキルの練習をしていたライア(分身体)の前に直接話した事は無いが、バンボの弟子である大工の男性がそう怒鳴りこんできた。



恐らく、この人が昨日セラと話していた“ツェーンのステージ建設に携わりたい”と提案していた大工なのだと理解する。




「えっと、その件に関してはメイドのセラから説明はありましたか?」



「あぁ聞いた……だから俺は会社を抜けて、ただのツェーンちゃんファンとして色々手伝いてぇんだ!!」



セラからの話はきちんと伝えられているらしいが、目の前の男性はそれでも諦めきれず、朝一番に領主であるライアの元に突撃しに来たらしい。



その熱意はある意味自分の分身体であるツェーンを想っているからこそだとは理解できるが、それでもしがらみやルールという物は無視できない。



「……さすがにいきなり会社を辞めると言われてもそちらの会社の事情もありますし、何より仮に会社を抜けたとしてもステージ建設の間の給金は、開拓民の方と違ってあまり多く出せないんですよ?」



「そんなもん元から期待してない!寧ろツェーンちゃんの為に働けるなら金払ってでも構わねぇよ!」



「いやいやいや、そんな訳にも……」



男性の決心は固いようで、既にバンボ達大工仲間には「俺、仕事辞めるッ!」と言って来ているらしい。



バンボ達も最初はライアや会社に迷惑が掛かるからと止めていたらしいが、何度説得しようと話を聞かない男性に折れてしまったらしい。




「ともかく!俺もこの街の移住者として、ツェーンちゃんの為に働きてぇんだ!頼むッインクリース男爵様!」




いつの間にか移住者としてこの街に滞在するつもりでいる男性の図太い心に「これはあぁだこぉだ言ってもしょうがないか」とため息を漏らす。




「……貴方の名前は?」



「ウルト」



「………まだステージ建設を許可した訳じゃない……だけどひとまず【働きアリハウスマン】さんの所に連絡するよ。ウルトの方でもきちんと自分の考えなんかは連絡しておいて」



「……ッ!ウッスッ!!!」




ツェーンのファンである大工鍛冶、ウルトはライアの言葉を聞いて、OKが貰えたのだと思っているのか、目をキラキラさせながら歓喜の表情で返事を返す。



念の為「許可はまだしてないからね!?」と釘を刺せば「わかってるよ社長!」とすでにライアの下にでも就いたかのような物言いをしながら「よし、そうとなればさっさと辞表だな!!」とスタコラ走り去っていく。




「……絶対わかってないな……」













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―――――――――









「インクリース様、ホントすまない……ウルトの奴はいい風に言えば職人気質、悪く言えば頑固な奴で、一度言い出した事はまず曲げないですよ」




「あははは……それに関してはこの間、身を持って実感したよ」




ウルトが突撃して来たあの日から【働きアリハウスマン】に謝罪文やら説明やらをステータスカードで連絡してすでに数日が経過している。



結果から言ってしまうと、予想に反してウルトの退職はあっけなく許可が下りた。



というか寧ろ【働きアリハウスマン】の支部をそちらに作らせてくれないか?とまで提案され、それを受諾する代わりにウルトを差し上げるといった話になったりした。



「しっかし、そのツェーンちゃん?のライブってのはそんなにすげぇもんなんですか?王都にいる職員の殆どがツェーンちゃんのファンでこっちに支店を出すって聞いた時はマジか!?って思いましたが」



「うぅ~ん……そこら辺は人の好みとか色々あるから何とも言えないけど……」




実はこちらに支店を出すという話は、これまたツェーンのおかげ(?)であり、ツェーンとかかわりを持ちたいと考える従業員が多かった為、このような結果になったのだ。



もちろん、ウルト以外の大工などはライアの下に来るわけでは無いので、ステージ建設に関われないのは変わらないので、数人の大工達が「クソッ!俺にもウルトの野郎と同じだけ勇気があればッ!」と悔し涙を流しているのを見たが、藪蛇になりそうだったので放っておいた。




「なら、今度俺もそのツェーンちゃんとやらのライブを見に行ってみるかな」



「ステージと事務所が完成すれば一度こちらに来る予定らしいので、その機会に行ってみてください」




バンボにそう伝えると「楽しみにしてます」と言って、仕事に戻って行く。



現在バンボ達は急遽決定した【働きアリハウスマン】の支部の設営に関して、新しい視点の建物を建てる為に正式に仕事が下されている。



本来すでに王都に戻る為に移動しているバンボ達がまだ開拓地で休んでいた事には驚かれたが『それならばちょうどいい』とばかりにあっさり話が進んだという訳だ。




「……俺も視察に戻るかな……」




ライアはどんどん街の形が出来上がって行く様子を心待ちにしながら視察を続けていくのだった。











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