雇用形態










この地を開拓しに来てから実に半年と少し、開拓のペースは思ったよりも早く進んでおり、外壁の内側に住宅地や商会のお店、重要施設などの建物を建てさえすれば、もう街としての機能は発揮をする所まで完了していた。








「……それでセラ。バンボさんはなんて?」



「はい、バンボ様……というよりは、他の大工の方が発案の様なので厳密にいえば違いますが、概ね大工達全員が乗り気のようです」




「うぅ~ん……屋敷の件とは違うし、今でも開拓の人達に指示出しなんかをしてもらってるから助かってるけど……いいのかな?」





屋敷のライアの執務室にライアと本日の担当であるセラの2人が神妙に話し合いをしている。






それというのも実は現在、少しだけ困った事が発生しているのだ。



話の内容的に、王都にて利用した【働きアリハウスマン】の所属である大工鍛冶のバンボに関係した事であるのは間違いないのだが、その前になぜ注文の“屋敷”が完成したのに未だバンボ達がこの開拓地に残っているかの説明からしておこう。



バンボ達の仕事というのは厳密にいえば屋敷の建設とその確認、その2つしか依頼はしていない。



なので屋敷が出来てから実際にライア達が暫く屋敷に住んでみて、欠陥などが無いかを調べる為に滞在しているのは別に可笑しくはないだろう。



本来は何か月も確認する事ではないらしいのだが、次の大きな仕事もまだ入っていないらしく、すぐに王都に戻るのも面倒だという事で、今回は特別らしい。






……ちなみに街の道路作りや建物の建設に指示出ししている件に関しては『屋敷の確認だけでは暇なので』という感じの暇つぶし感覚で手伝ってくれているらしくとても助かっている。



開拓民の中にはきちんと家を建てる為の大工がいるが、その人達とも意気投合しているらしくお互いに連携を取りながら開拓を進めて行ってくれている。




もちろんバンボ達に無償奉仕をさせる訳には行かないので、バンボ達が嫌な気持ちにならない程度には給金を出そうとは思っているが…。








と、少し話はそれたが、バンボ達がこの地に残っているのは屋敷の確認の為と少しばかりの暇つぶs……お節介によるものなのは理解してくれたであろう。




では、今回困っている事というのが何かといえば……。




「さすがに、2万人を収容可能なステージとツェーンの事務所の建設を相手側の店…【働きアリハウスマン】さんに言わないで許可する訳には行かないよな……」




「そうですね……先方に連絡すれば一応は仕事として片付けられますが、さすがに開拓民達の発案を領主であるライア様が実費で賄うには料金が高すぎますしね」




今現在困っている事と言うのが、これまたツェーン関係の事ではあるのだが、何と開拓民達がツェーンの為のステージと事務所の建設もしようと懇願こんがんされている事が原因である。






……まぁただ「ステージを作りたい!」「ツェーンちゃんがすぐ来れるようにしてほしい!」と雇っている人達が言うのであれば「場所はこっちで指定しますが、作りたければどうぞー」とある意味無責任に放っておく事も可能であったのだが、ここに別の雇用形式であるバンボ達が絡むとなると話は別だ。




開拓民とは開拓に必要な【外壁、建物、整備関連】の建設や【街道や街中の道路の開拓】に【その他雑用】とかなり大雑把になんでもやってもらうお仕事であり、ぶっちゃけてしまえば余程無理なスケジュールや命を脅かす行為以外はなんでもやってもらえる仕事なのだ。



もちろんその分給金はかなり多く支給されるのだが、それも王国からの助成金で賄っているのでライア達の懐は全く痛まない。





だが、ライア達の屋敷を建てる為に呼び出したバンボ達は別であり、きちんとライア達が個人で雇った人員枠なので、国からの助成金から給金を払えないという訳だ。



街の開拓に暇つぶしで指示出ししている事に関しては、素直に助かっているし、それほど大金を給金として出すつもりも無かったのでそちらは問題ないのだが、さすがに2万人規模の大きな建物の建設に携わられると、きちんとした給金を出さなくては体裁が悪い。



かと言って、ライアの予定していない事を開拓民や雇っているバンボ達の勝手で始めようとしている事に大金を出すのはお財布的にも貴族としての在り方的にもNOという訳だ。





「貴族が平民の言いなりでお金を出すとなれば他所の貴族に舐められますし、平民の中に頼めばお金をくれる領主、とも噂されかねませんからね」



「……まぁ皆がツェーンの為にやる気を出してくれているのはわかっているつもりだが、バンボ達には申し訳ないけど、話は断らせてもらおうか」



ライアの決断にセラは特に迷うことなく「わかりました、ではそのようにお伝えしてきます」と仕事の出来る女!と言った感じで執務室を退出していく。




「……セラもだいぶ出来るようになったな……まだ1体しか動かせないみたいだけど、今見た感じで特に変な所は無かったし……今後に期待だね」






なんと今の今までライアと話していたのは分身体のセラだったのだ。



ライアとセラが出会ってすでに半年以上経ってはいるが、その間ほぼ毎日訓練していたおかげか、今では分身体を本体と遜色なく動かすことが出来ている。



もちろん分身体と本体同時に動き回る事は出来ていないようだが、ライアの昔のようにセラ本体は自分の部屋の中で出来るスキルを訓練しながら、分身体を操るといった方法を取っているのだ。




「……しかし、なんか分身体同士で話が完結するっていうのは新感覚だね……」




……そう、実はライア自身も分身体であり、先程までの会話全てが分身体同士の話し合いであり、本人たち不在のまま話が終わっていたのだ。



分身体だけで会話という稀な経験をしたライアは「なんか電話で話してるみたいな感じかな?…いや、直接顔を見てるからテレビ電話かな?」と少しだけ的外れな事を考えるのであった。











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