生みの親、育ての親










結局パテル達親子は暫く泣き続けた後、パテルからエルフのしきたりで本来であればプエリは殺さなければいけなかった事や魔物の群れがクスト達の所に押し寄せた時何をしていたのかなどを全て教えられ、仲直りを果たす。



パテルは話の最中も申し訳なさそうにしていたが、プエリが強く抱きしめて来る姿に喜びの感情が漏れていたし、クストも思う所はあったようだが追い出された本人であるプエリがこれほどまで喜んでいるのを見て「まぁしょうがないよね」と目を赤くしながらやれやれと肩を竦めていた。




「……俺はお前達をもう見捨てない……必ずお前達を幸せにして見せる……だから……たまにでいいからお前達の顔を見に来てもいいか…?」



「おとうさん……またどこかいっちゃうの…?」



「パテル、せっかく仲直り出来たんだから同じ場所で一緒にいればいいんじゃないの?」




パテルは折角子供達と仲直りが出来たというのに、まだ躊躇しているのかそんな事を言う。




「……折角2人が今の生活に慣れてきたというのに……俺が邪魔をする訳には……」



「「「パテル(さん)……」」」



パテルの子供に対してのヘタレぶりはかなりな物だったようで、これにはライア含め周りにいる人から『噓でしょ…?』と言った視線が飛ばされる。




「おとうさんのこと……じゃまなんておもわないよ?いっしょにいちゃだめなの?」




プエリが涙を溜めた瞳でパテルを見上げてそう聞けば、パテルは「うっ……そう言う訳じゃ…」と身悶える。



「あぁもう!お父さんは僕達の事嫌いなの!?」



「いや!?……いや、そんな事はない!」



「なら!もう僕達と一緒にいて!プエリにはお父さんが必要だし、僕だけじゃプエリを守り切れないかもなんだ……今まで放っておいた分、きちんと“お父さん”してよ」



「……ッ!!……そうだな……お前達を守らせてもらっていいか…?…父親として…」



「「……うん!」」




パテルの煮え切らない態度に終止符を打ったのは実の息子のクスト。



クスト自身も実の父親に甘えたい気持ちはあるだろうに今までプエリのお兄ちゃんをしていた為素直に慣れず、ツンケンドンな態度を取ってしまうが、パテルには効果抜群だったようで、やっと子供を守る父親としての覚悟でも出来たのか、いい表情で子供達に返事を返すのであった。











「ゴートンおとうさんとマリーおかあさんにも、はやくおしえてあげよ!!」



「そうだね、それにラスリにも僕達のお父さんだよって伝えてこよう」



「……あぁ……そっか、そうだよね……そうなるととぉさん達にも話さなきゃか…」




ふと、プエリ達の言葉を聞き「あの子供第一のとぉさん達がパテルの事どう思うかな?」と思考を迷わせていると、クストとプエリはパテルの縄を外し手を取ると、そのままとぉさん達がいる屋敷の部屋へと向かって工房を出て行ってしまう。




「あ……いや、まぁさすがにプエリ達の前でパテルをどうこうしようとはしないだろうし……大丈夫だよね?」




ライアは念の為プエリ達を案内して来た分身体を追いかけさせ、事の様子を伺わせるのであった。




「……終わってみれば、大人は何もできず、殆ど子供達が話をまとめてしまったね」



「大人には変なプライドなどがありますし、こういう問題は子供のまっすぐな言葉の方が解決しやすいのですよ」



「……えっと、色々と熱くなってすいませんでした……」




モンドとリネットは大人故の謙遜、贔屓、場の空気によって意見を変えてしまう自分達の事を卑下しつつ、遠まわしにリグやプエリ達を賞賛すれば、リグは恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。



「まぁなんにせよ、皆のおかげでパテルの問題が解決出来たよ。まだ色々と細かい問題はあるだろうけど、それはこっちで何とかするんで、今日はもう解散しましょう」



「「「はい(なのです)」」」




解散を宣言すれば、夕食時も近いという事で皆一緒に屋敷の食堂に向かう事にした。
















ちなみにあの後、パテル達を追いかけさせた分身体は目的通り、とぉさん達の居る部屋に到着したのだが……。



「ほほぉ?君がクストとプエリの父親……とな?」



「……あ、はい……子供達を守ってくれて感謝しかありません……」



「あらあら……守るのは当り前よ?プエリもクストも私達のですもの」



部屋の中にはとぉさん達2人と子供用の布団でエクシアが弟のラスリを寝かしつけられていた。(世話などを暇な子にお願いしていてたまたまエクシアが居たらしい)



プエリ達が部屋に入った時は「ん?そこの……エルフ?の人はどうしたんだ?」とただ疑問を浮かべるだけで、空気も特に悪いものではなかったのに対し、プエリとクストの説明でパテルが2人の実の父親だとわかると空気が一変する。




「えへへぇ!みんなかぞく!」



「そうだねプエリ…クスト?少しだけその……パテル君?と秘密の話をしたいから少しだけプエリを連れて待っていてくれるかい?」



「???うん、わかった……プエリ、行こう!」




プエリとクストはきっと大人同士には何か話し合わないといけない事でもあるのだろうと、若干空気が重くなっていた事に気が付かづに2人とも部屋を出て行く。




「パテル君……」



「あ、はい」




パテルにはこの重くなった空気を敏感に感じ取っていたので(あぁ……せめて子供達ともう少し生きて行きたかった)と考えながら、この後起こるであろう惨劇を覚悟し、溜を作らないで返事を返す。




「君の事はライアからよく聞いているし、君がどんな人物なのかはある程度知っている……まさかクスト達の実の父親だとは思わなかったがね」



ライアは分身体を通じてパテルがどんな人なのか、リールトンの街でどんな事をしているのかと言った話を度々していたが、さすがにクスト達の父親だとは伝えてはいなかった。




「まぁそこはライアも色々と言いにくかった事もあるだろうし、それはいい……パテル君。君は子供達を愛しているか?」



「……はい……一度間違えた俺が言えた事では無いですが……子供達の為なら命も惜しくない!」



「……そうか」



とぉさんはパテルの言葉を聞き終えると、組んでいた腕を解いてパテルへと手を伸ばす。



(とぉさん……さすがに手は出しちゃダメだよ!?)



部屋の外から扉越しに覗いていたライアは、さすがに止めるべきか?と思考を巡らせるがすぐに杞憂だと気が付く。




「――え?」



―――ポフポフッ…




「あの子達を…今度はきちんと幸せにしてやれよ?」




とぉさんの手はパテルの肩を数回叩くのみで、そこに殺意や外傷を与えようとしている様子は一切見られない。



「……え?いいんですか?……俺があの子達の傍にいて……」



「何言ってんだ!あの子達の表情を見て、あんたを追い出そうと出来る訳ないだろ!?」



「そうよ?あの子達がこの部屋に入って来て、満面の笑みを浮かべながら貴方と再会できた事を嬉しそうに話すのよ?……まだ1年と少ししかあの子達と家族をしてないけど……1年もあれば私達には十分なのよ」




とぉさん達は恐らく怒っている気持ちもあるだろうが『クスト達本人が嬉しそうにしているのであれば私達が何か言う気はない、でも次はちゃんと父親をしなさい』と釘をさす為にパテルと話し合いたかったらしい。



パテルはその事に気が付いた瞬間に、大きく頭を下げ「……ありがとう!」と涙ぐみながら礼を伝えるのであった。












「えぇ……なにこの空気…重い重い……」




同じ部屋でラスリを寝かしつけていたエクシアは、そんな重大な話し合いはせめて自分の居ない所でやってくれよと部屋の隅でゲッソリしていたのは世話をされているラスリにしか知る余地はなかった。













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