子は親の背中を見て…










リグとパテルは話し合いが終わって、クスト達の居る場所へすぐに向かう……と、いう訳では無く、さすがにリグに考えを変えさせられたといえど無策で子供に会うのは怖いとパテルが少し日和ったので、パテルを含めた5人で話し合いが継続された。




「普通に会いに行くのはダメなのです?」



「……わからない……出来れば2人の負担にならない時間などがあればいいんだが……」



「クスト達は最近ずっとスキルのレベルを上げる為に俺の分身体と一緒に訓練してるね。でも別にそこまで忙しい訳じゃないからいつ行っても負担にはならないと思うよ?」




ライアの言葉に「大丈夫だろうか…」と情けなさそうな顔をすれば、横に座っているリグから鋭い視線が飛んで来る。



「パテルさんは子供達と会いたくないんですか?」



「……い、いや、そんな事は無いしきちんと謝りたいんだ……すまないな…ダメな大人で……」




リグに叱られるパテルは、いつもの寡黙なクールキャラがなりを潜め、親に怒られて落ち込む子供のようだ。




(不謹慎かもしれないけど、パテルも可愛い所あるんだな…)



ライアにとって大事な弟妹分の事なので、パテルにはしっかりしてもらいたいが、不覚にも少しだけそんな思いが過ぎりニヤついてしまう。




「……わかりました。パテルさんはここで待っていてください!パテルさんが会いに行こうとするから決心がつかないんですよ!だったら逆にお子さん方をこの工房に呼びましょう!」



「……え……」



「おぉ、それであればパテル殿が気負う必要は無いだろうし、子供達もいきなり父親が現れるよりかは心の持ちようもいいだろう」



「……いや、しかし……」



「名案なのです!それでも迷うようであれば、ボク達が椅子に縛りあげてあげるのですよ!そうすれば逃げたくても逃げれないのです!」



「………」




リグの考えに2人が賛同し、早速パテルを逃がさない為に縄を取り出し始めるモンドとリネット。



パテルは子供達と会うと断言した手前、ここで逃げ出すのはどうなのだろうと工房から逃げ出せず、大人しく椅子に縛り付けられる。




(……案外、皆パテルの煮え切らない態度にキレてたりして?)




パテルが話し合いに参加してから大体1時間も話が進まなければ苛立ちも募るのだろう……あの温厚なリネットが嬉々としてパテルを縛り上げる姿に苦笑いしてしまう。




「ではライアさん、お2人を呼んできていただけますか?」




「あ、はい……」




ライアは心の中でパテルに『すまん…俺じゃ止められなかった…』と謝罪をしつつ、クスト達を工房に呼び出すのであった。









―――――――――――

―――――――――

―――――――










「準備はいい?」



「……もしもクストとプエリが俺を見て逃げ出したら……その後の事は頼む……」



「いや、別に死ぬわけじゃないんだから……」




パテルが顔色が悪くしながら吐き出すようにそんなセリフを言い始めるが、特に問題は無いだろうと、工房の外に連れて来たクスト達を連れて来る。



『……なりどうして工房に?』



『ちょっと会わせたい人が居てね』



『あわせたいひと?』




「……ッ!!…」



工房に入る為の扉から、近づいて来たクスト達の会話が聞こえて来て、パテルはついに来たかと覚悟を決めた顔をする。





――――ガチャ……




「さ、2人に会わせたい人がここにいるから」



「「おじゃまします…?」」




クストとプエリは工房の中に入ってくると、目の前にはモンドやリネットと言った人達を見て「この人達が会わせたい人?」と首をかしげる。



「…………」



子供達の視線の僅か横、椅子に縛られたパテルは己の子供達を間近で見るの久々……いや、既に数年も前の事なだけに歓喜の気持ちと申し訳ないと思う気持ちが心にあふれ、静かに涙を流し始める。




「ライアさん……僕達、もうリネットさん達とは……え………」



「???」




クストは視線をライアの方に向けようとしたタイミングで椅子に縛り付けられたパテルの事が目に入り、プエリはそれに釣られて目線をそちらに向け、そこにいるのが誰なのか解らないといった反応をする。




「………どうして…」



「……すまない……謝って済む問題でもないし、許してもらおうとは思っていない……ただ、お前達に謝りたいんだ……」



「……?…にぃちゃん、しってるひと?」




クストはどうやらパテルの事に気が付いているようだが、5歳になる前のかなり小さい頃から村を追い出されたプエリは父親の顔を覚えてはいなかったようだ。



実の娘に「だれ?」と言われる事は思いの外、悲しい事らしく、パテルの顔にほんの少しの悲しみが見て取れるが、これも元はと言えば自分の所為だと自分に喝を入れるパテル。




「……僕達を追い出したエルフの仲間で……僕達の父親だよ……」




「……え…?」




クストの言葉にプエリは驚愕の表情を浮かべ、視線をクストからパテルに再度向ける。




「わたしたちの……おとうさん…?」



「…………すまなかった……俺はお前達を守るべき親なのにも関わらず……お前達だけを村から追い出s……え……」



――――ぎゅぅぅぅ




プエリの『あなたは本当私達のお父さんなの?』と言いたげな眼差しに、パテルが謝罪を口にすると、セリフの途中でプエリがパテルに近づいて行き、その小さな体で両手を目一杯広げ、パテルの胴体に抱き着いてくる。




「プ、プエリ?その人は僕達を村から追い出したエルフ達の仲間……」



「にぃちゃん……やっと……やっとおとうさんがきてくれたよ……?…いつも……まものからまもってくれてた……おどう”ざんがぁぁ………や”っどぉぉ」




プエリとクストは気が付いていた……幼い子供二人が魔物が闊歩する森の中、1年という時間も生き延びれていたのは目の前の父親が色々と手を尽くしてくれていた事に。



恐らく外などに食料を探しに行った時などに、たまたまパテルが魔物を間引いてくれているのを何度か見ていたのであろう。




「あ”あ”あ”ぁ”ぁ……あい”だがっだよぉ……おどーざぁん”……」



「……プエリ…すまなかった……すまな……がっだッッ!!」




プエリの涙と訴えにパテルは涙を堪える事が出来ず、逃げ出さないようにされていただけの緩い縄から腕を無理矢理抜き出し、プエリの身体を離さないと言わんばかりに抱きしめる。




「……なんで……あの時……魔物を倒してくれだ時に……会いに……来て…くれながっだんだよッ!ばがおどうざぁん”!!」



プエリの涙、そして縄の摩擦で赤くなる事をいとわずにプエリを抱きしめる為に両手を抜き出したパテルの姿を見て、クストも涙を堪える事が出来ず、プエリと同じくパテルの傍まで歩いて行く。




そんな近くまで寄って来たクストを「すまん……すまんッ!」と謝りながら、プエリと同様に力いっぱい抱きしめ、暫くそのまま3人で泣き続けるのであった。













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