子の心、親知らず
ダンジョン調査隊が戻って来てから数か月。街の開拓は進み、ダンジョンまでの道も完成したし、少しずつだが魔道具の供給も開始しているので、だいぶ利便性が良くなって来ている。
ただ魔道具と言っても飲み水を生み出す水道の役割の魔道具や街灯の魔道具と言った街に設置して使う物ばかりなので、個人用の魔道具なんかは殆ど供給出来てはいない。
そんな中、ライアの頑張りともいえるスライムの合成魔石を使用した生理用魔道具は開発する事が出来たので、街にいる200名ほどの女性には配っていたりする。
(スライムの合成魔石……【吸収属性】は他にも色々出来るだろうし、これからも実験を繰り返して行こう)
そしてこの数か月の間で、実は変わった事が他にも結構あったりする。
まず一つ目は何と、ライアとリネットの屋敷がもう出来てしまったのだ。
バンボ達はスキルや異世界特融の道具か何かを使ったからなのかはわからないが、屋敷の建設に取り掛かって2か月も経たない位で立派な工房付きの大きな屋敷が出来ていたのだ。
バンボに「屋敷が完成しやしたよ」といきなり伝えられた時はすぐに理解が及ばず「何が?」と素で聞き返してしまった。
そんなわけで、今までテントで行なわれていた簡易的な錬金術の実験や魔道具作成を屋敷の工房に移し、暫くやれていなかった
そして二つ目に、この街の住人が増えた。
そう、何を隠そうライアの家族一行を連れたヤヤ村の移住者が来たのだ。
これはゼクス達分身体がヤヤ村を出る時に知ったのだが、とぉさん達以外にもライアの新しい街に移住したいという村人が数名いたらしく、その人達も一緒に来たらしい。
「ライアは人気者でとぉさん鼻が高いぞ!!」
「ライア、久しぶりね…」
「ライアねぇちゃん!きたよぉぉ!!」
「≪素材鑑定≫……ちゃんとレベル上げて来たからね」
「あうぅぅ?」
実際に直接会うのは久々だが、毎日ゼクス達経由で話をしていたのは変わらないのでそれほど懐かしいという感じはしなかったのだが、とぉさん達はそうでもなかったようで感動の再会シーンばりに思いっきり抱き着かれたり、涙を流されもして若干大騒ぎになったりしていた。
弟のラスリも顔は覚えていないだろうが、ライアの方に両手を伸ばし、まるで「会いたかったよー」とでも言いたげな様子を見せてくれて悶えてしまったのは余談である。
そして最後の三つ目……というか、殆ど二つ目の家族達がこっちに引っ越してきたことによるある意味の弊害?が出てしまっている。
それが何かといえば、察しの良い人はすでに気付いているだろうが、家族達……つまりエルフの兄妹であるプエリとクストがここに来たことによって生じる問題。それは…
「……さすがにずっと隠れ続けるのは無理じゃない?」
「……すまない……合わせる顔が無いんだ……」
新しく出来た屋敷の中にあるライアの執務室にある窓から外の様子を伺っているパテルにそう話しかければ、ここ最近ずっと聞いている返事を聞かされる。
「……俺は……あの子達が幸せになって欲しいんだ……今更俺の顔を見せて嫌な記憶を思い出させたくない……」
パテルは過去に自分の子供達を守れなかった負い目に責任を感じ、クスト達2人からずっと逃げ隠れているのだった。
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――――――――
――――――
「という事でパテルの事をどうしようか話し合おうの場を開かせてもらいました」
「何やら込み入った事情があるとは思っていたのですが、実の子供がいたのですか…」
「エルフに火属性は禁忌なんて文化があったんだね……私も出来る事なら協力しよう」
パテルの現状をどうにかする為に、自分だけの考えでは足りないと思ったライアは、普段のパテルをよく見ている工房組のリネット、モンド、リグの三人に意見を募る為に会合を開く事にした。(ちなみにパテル達エルフの話は事前にパテル本人から説明の許可を貰っている)
もちろんこの会合の事はパテルに言っていないし、接近を感知すればいつも通りの工房風景を作り出せるように実験器具などは出したまま話し合いを始めている。
「パテルさんが父親……ライアさんはそのお子さん達に両親の事なんかは聞いた事はないんですか?」
話し合いを始めると、パテルが新たな住人であるプエリとクストの父親だと伝えてから黙っていたリグが真剣な表情で質問を投げかけて来る。
「う~ん、話を聞いた時はプエリもクストも衰弱しきってたし、話の印象的に味方は自分達兄妹だけって感じだったから両親は居ないものだと思って聞かなかったんだ」
「父親をいない者としたんですね……パテルさんはお子さん達の事どう思っているんですか?」
「俺が聞いた限りは大事に思ってるよ。2人を助けてあげられなかった時も心底後悔してるのがわかるくらいだったし、2人が生きてるって知って心底喜んでたしね」
それに今もたまに、遠くから≪鷹の目≫で2人の事を見守ってはとても優しい目をしているのを知っているので、ライアにはパテルが絶対に子供を愛しているのだと理解している。
「そうですか……ライアさん、ここにパテルさんを呼んではくれないですか?」
「え?どうしたのリグ……別に呼ぶのはいいけど……」
話を聞いたリグが、何やら悲しそうな顔で真剣にそう言ってきたので、つい話し合いの場だと忘れてパテルを近くの分身体に呼び出させる。
呼び出して5分もしないうちにパテルはこそこそと隠れながら工房にやってくる。
「……いきなりどうしたんだ…?」
「パテルさん」
「……ん?リグ?」
パテルが工房に入って来て、リグはすぐに自分の座っていた椅子を立ちあがるとパテルの元まで近づいて行き、パテルの服を掴む。
「……今からお子さんに会ってください。そして誠心誠意心の底から謝って謝って謝り倒して……きちんと仲直りしてください」
「……は?い、いや……俺があの子達と会えば、不幸に……」
「親に愛されているのを知らないで生きる事の方が何十倍も不幸で苦しい事ですッッ!!!!」
「……ッッ!?!?」
リグの叫びは、工房の中に居た者達全員の度肝を抜かすほど大きく、そして実感の篭った言葉であった。
「……俺は今までに親に捨てられた子供も親が死んで生涯孤独になった子供も沢山見てきました」
「………リグ……」
ライアはこの時、リグをこの会合に呼んだのは無神経だったのだとすぐに思い至る。
リグは王都の孤児院出身、つまりは今リグが話した親に捨てられたか親が死んだかのどちらかの境遇のはず。
どちらにしてもリグには両親と言える者はおらず、そんなリグにパテル達親子の話を相談をしたのは失敗であり、今更リグにこの話は聞かなかった事にしてとは言えない。
「里親に引き取られる子もいたけど……殆どが孤児院から出ないで大人に成長していく子ばかりなんだ……親の愛情も知らないまま」
「………だが、あの子達にとって俺は……」
「孤児院の子供の中に、目の前で親に『要らない』『食費の無駄』と言われて捨てられる子も居ました……それでもはっきり言います」
リグは逃がさないように、きちんと伝わるようにとパテルの服をぎゅっと掴む力を込めて言葉を放つ。
「親になんて言われて捨てられようと、子供は親に会いたくて会いたくてしょうがないんです!大人が勝手に子供の気持ちを決めつけないでください!」
「うッ……」
リグの言葉にパテルは気圧されつつも、その目には涙が浮かび、プエリとクストの事を想っているのは確かであろう。
「……すいません、人様の事なのに……俺もそのお子さんの気持ちを勝手に代弁してましたけど、出来ればきちんと謝った後に、お子さんの気持ちを確かめてからにして欲しいです」
「………あぁ……そうする……そうするべきだったな……」
リグの訴えはパテルの心の重りを動かす事が出来たらしく、パテルはプエリ達に会う事を決心するのだった。
「ボク達、終始空気だったのですよ……」
「奇遇だね、私も壁と同化している気分だったよ」
「リグにはきちんと謝らないとな……でもリグのおかげだよ」
リグとパテルの後ろで話に一切入り込めていない錬金術師達は、リグを賞賛しているのであった。
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