実験で失うモノ








―――――ライアSide




ダンジョン調査隊が戻って来てから魔物の素材や魔石の買取、それにダンジョンでのマップ情報なんかを聞く為に、なんだかんだと1週間程時間が掛かってしまった。



「これで最後だね……ミオン、この書類をエクシアの所に持って行って冒険者に渡す報酬の割り振りをしてもらっておいて」



「かしこまりました」




元々冒険者ギルドで魔物の素材などの買取作業は慣れていたが、未開拓の新ダンジョンという点とワイバーンという超高額の魔物の買取という事もあり、依頼報酬と合わせて適正価格を出すのに時間が掛かってしまった。



しかし、それも今の書類を元にエクシアが報酬を割り振ってくれるようにお願いをしているので、ライアはやっと、自分のやりたい事を始められるという訳だ。



ちなみにエクシアは元商人の娘という点と他の人とは比べ物にならない計算能力の持ち主という事でインクリース男爵家の財政担当として働いてもらっている。



……まぁエクシアは『働きたくない~』と駄々をこねていたが、なんだかんだ仕事を引き受けてくれているので、安心して任せておける。




「それじゃぁ早速行くか!」




ライアはこの一週間お預けを食らっていた“やりたい事”する為に、リグの仕事部屋であるテントに向かう。
















――――バサァッ!!



「リグッッ!早速スライムの魔石の実験をッ!!」



「あ、ライアさん……スライムの魔石であれば活用水準レベルまで出力を上げることが出来ましたよ!」



「おぉライア!スライムの魔石は役に立つのが証明されたのです!魔道具化する際に吸収する物を指定させる事が出来そうなので、生理用品としてだけではなく油取りや汚水の汚れ抜きなどと色々と試しているのですよ!!」



「やぁライア君、私は貴重なワイバーンの素材で色々と実験させてもらっているよ!ワイバーンの素材は腐食にも強いから、私の毒物にも耐えるいい素材なんだ」




テントの中にはスライムの魔石を合成しているリグ、ライアが楽しみにしていたスライムの合成魔石の魔道具実験を先に始めているリネット、そしてライアも少しでいいから実験してみたかったワイバーンの素材を全て弄り回しているモンドの3人がライアを出迎える。





――――ドサッ……



「お、俺も……色々やりたかったのに……皆だけで進めちゃうなんて……」



「わ、ライアさん!?大丈夫ですか!?」



ライアがテントの入り口にて、自分の知らない間に色々と実験が進んでしまったことによるショックで崩れるとリグがすぐに心配してくれる。



「ライアも実験に参加したかったのですか?ボクはてっきり、実験を進めて良いものかと思っていたです」



「すみませんライア君、ワイバーンの素材の魅力に勝てなくて…」



リネットとモンドは崩れるライアにフォローをするように声をかけるが、内容的に何もフォローになっていないのは明らかである。




「俺だって実験に参加したかったですよ……こんなんでもリネットさんの弟子で錬金術師ですよ?……あとモンドさんは反省してください」



「あははは!ごめんごめん!」



ライアの言葉にモンドは爽やかな笑顔で謝って来る。




「でも実験に参加したかったのならなんで分身体を寄越さなかったのです?まだ予備の分身体はいたはずなのですよね?」



「………あ」




よくよく考えてみれば、予備として確保している分身体は新たに開拓の作業確認で4名程生み出したがまだ6人も残っているので、やろうと思えば実験用に数人分身体を新たに出す事も可能であった。




「あ”あぁ……なんか最近、俺本体が書類仕事とか実験に参加してたので、完全に忘れてましたね……うわぁぁ……何だったら書類仕事も分身体に任せれたし、実験もずっと出来たじゃん……はぁぁぁ……」





フェンベルト子爵の事件があって以来、何かと戦力を温存する癖がついていたライアは分身体に自分の代わりにやらせるという考えが少しだけ抜け落ちていた。




「まぁ忘れていたならしょうがないのですよ。それに実験はやりましたがまだ魔道具の作成には取り掛かっていないので、ライアも一緒にやるのですよ!」




「はい……」




戦力を残すのは大事かもしれないが、ここはある意味ライアのテリトリー……自分の領地なのだからもう少し分身体を使うようにしようと心に決めるライアであった。










自分の失敗に嘆き続けるもんじゃないと何とか立ち直ったライアは、この1週間で進んだ実験内容を確かめるべくリネットと知識のすり合わせを行う。



「スライムの魔石は予想通りなんでも吸収出来て、吸収した物は魔石の内部らしき場所でじわじわと魔力に変質していくようなのです」



「え!?それって……」



リネットの説明を聞く限りそれは、不要物(ゴミ)を吸収させて別の魔道具を半永久的に作動させ続けるいわゆる充電方式が出来るのでは?と期待の目を向ける。



「……さすがに変質した魔力はごく少量なので、別の魔道具に転用などは難しいのですよ?出力はゴブリンの魔石以下なので、吸収した物を分解するのが主な性質みたいなのですよ」



「そううまい話は無いですか…」




ライアの考えはリネットも思い付いてはいたらしく、そちらも確認実験を行ったようだが出力が全く足りず、活用不可という結果らしい。



「それでも先日の生理用品としての使い道もありますし、汚水を飲み水に変える魔道具なんかも作れそうなのですよ!イメージの付与は難しそうなのですが、根気よく試していくのです!!」



「はい先生!」



ライアとリネットは、リールトンの街の工房に居た時の様な安心感を覚えつつ、一緒に錬金術の実験が出来る状況に喜びを見出す。




「ではライア!早速頼みたい事があるのです!」



「なんですか?実験に随分遅れて参加なので、何でもしますよ!」



「そうですか!ではこれを……」




リネットが取り出したのは何やら長方形の薄い布で覆われた板の様な物で、それをライアに手渡してくる。



「これは……もしかしてスライムの合成魔石を使った魔道具ですか?これをどうすれば……?」



「はいです!ライアにはそれを付けて、きちんと作用するのかを確かめて欲しいのですよ」



「作用……?確かめる?……すいません、よくわからないのですが……」



リネットの言葉をすぐに理解できないライアは、これが一体何の魔道具なのか想像できない。



「ん?ライアに体を女体化させてもらって、疑似的に生理現象を起こしてほしいのですけど……?≪変装≫と≪体液操作≫で出来ると思うのですけど…?」



「……………」




ライア16歳……己の婚約者に生理用品を渡され、性転換を命じられる。




(いや、まぁこういう実験でリネットさんにやらせる訳には行かないし……こういうのは男の役目だよね!……うん!そうだきっと!)





これまで16年間女装をファッションとして楽しんできたライアは、その日初めて女装姿の自分が悲しく思えたのは心にしまっておくのであった。














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