ダンジョン調査隊5










ワイバーンを討伐する事に成功した冒険者達は今自分達が生きている事に驚きつつ安堵をしていると、ワイバーン討伐の立役者であるリーダーのテルナートが「まだ気を緩めるな!ワイバーンがこの一体である保証はないし、逃げて行った冒険者の事もある!すぐに迎えに行くぞ!」と冷静に指示を出す。




ワイバーンの素材なんかは今すぐ回収をしておきたい所だが、人命が第一なので一旦ワイバーンの死骸は放置する。






調査隊は今や30人ちょい以外が全員第4層へ逃げる事が出来ており、第4層のエコーテに襲われる事無くやり過ごす事が出来ていたので、全員が無事に集まることが出来た。




(まぁドライとフィーアが魔物に近づかれないようにこっそり幻魔法をかけてたから襲われなかったとも言えるけど)



逃げ出した冒険者達はそのほとんどが戦闘力の低い初心者ばかりで、もし仮にエコーテ達魔物の団体に襲われたらドライとフィーアで全力で守らないといけなくなる。



そうなれば今まで隠していた実力が露呈してしまうので、何とか戦闘自体を起こさせないように考え、幻魔法で魔物の接近を抑制していたという訳だ。




「皆が無事で良かった……さぁ!魔物の素材などを回収したらすぐにダンジョンを脱出するぞ!」



テルナートは皆にもう安心だ!とそう鼓舞させつつ、ちらりとアインスの方に目線を送って来ていたので、アインス達が何かをしてくれているのは勘付かれているようだった。



もうバレている相手に隠す事もないだろうとアインスは肩を竦めて合図を返せば、にこやかな顔をしながらまるで『ありがとう』と言われたような気がした。












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ワイバーンや帰りに復活したであろう魔物達を倒しながら戻る事1週間。ダンジョン調査隊はダンジョンの外に出る事が出来た。



行きは調査と魔物の一掃作業もあり1ヵ月もかかって第5層まで行ったが、リールトンの街のダンジョンと違い、このダンジョンは階段の場所さえわかっていればたったの1週間ほどで第5層まで行けるという事だ。





ダンジョンを出た調査隊は、あらかじめ出てくることを知っていたライアの計らいにより迎えが出されていたので大量の魔石や素材、その他諸々の荷物を街まで運ばずに済んだ。






「アインス、少しいいか?」



「テルナートさん?」



ダンジョンを抜け出し、やっと一息ついている冒険者達の目を盗みながらテルナートがアインスに話しかけて来る。



「今回の事、本当に助かったよ……あんたが居てくれなきゃ俺達全員無事では済まなかっただろうしな」



「そんな、俺はほんの少し手伝っただけですよ」



「手伝いだけって事は無いが……そういう事にしたいなら別に構わないさ」




恐らくアインス……その先のライアに何か考えがあって目立たぬようにしていると察してくれるテルナートは深くは聞かずにいてくれる。



「本来ならインクリース様に対して直接お礼を申し上げたい所だが、まぁいいさ……それより、確かめたい事があったんだ」



「確かめたい事?」



テルナートはお礼も要件の一つだが、どうやら他にも何かあるらしい。



「さっきの取り分の話になった時お前は『ワイバーンを倒せたのは皆のおかげ、戦闘に参加した冒険者で報酬は分けるべきだ』って言ってワイバーンの報酬を受け取らなかったろ?本来であればワイバーン討伐はお前の功績みたいなもんだ、それを放棄するなんて何を考えているんだ?」



「え?功績も何もいらないけど?」



テルナートの問いにごく自然にそう返事を返せば、まるであり得ない!と言った驚愕の表情をされる。



「え、いや……普通こう……貴族としての見栄や実績作りに使えるんじゃないのか?」



「そうなのかな?すまない、俺はそれほど功績などは欲していないし、功績というならもう間に合っているからな」



「……間に合っている?」



ライアにはもうすでに火竜討伐の功績と新ダンジョンの発見という大きな功績を立てている。



テルナートの話では恐らくワイバーンを倒す事は功績として数えられる偉業のようだが、火竜を倒し【竜騎士】の称号を貰った身としては、それほどいい功績ではないと感じてしまう。



それにライアにとってワイバーンとは、倒しても秘密裏に裏で取引をしなければ売買すらできない厄介な物という印象も持っていたので、余計に功績と言ったプラスの意味を見出せずらかった。



もちろん今はリネットとともに街にて『は、はやくワイバーンの魔石で実験したい!』とワイバーンの素材を心待ちにはしているが、それだけだ。




そう言った心情をテルナートに伝えてみれば、これまた変な顔をされる。




「……インクリース様が火竜討伐……?しかも元平民の出だって?……冗談か?」



「あれ、もしかして知らなかったのか?」



てっきり王都で開拓民を募集する際にそう言った話は伝わっていると思っていたが、そうでもないらしい。



テルナートが言うには『新しいダンジョンを発見したインクリース男爵様の領地開拓の為、開拓民を募集する(ダンジョン調査もあり)』という募集要項しか乗っておらず、あまり詳しい事などは知らなかったらしい。



なんでもリールトンの街に到着し、ライアを初めて見た者たちの中では『どこぞの貴族の息子にプレゼント感覚で新領地を与えられた溺愛された美少年(女)領主』の様な噂もあったらしい。




「そんな風に思われてたのか……」



「あの美貌であればその可能性の方が高いと俺も思っていたしな……あ、いや失礼…さすがに無礼だったか」



「気にしないでください、色んな意味で慣れてますから」




テルナートはアインスがライアの分身体という事を忘れていたのか本人を前にそんなことを言ってくるが、別に口説きに来ている訳でもなく、本当に忘れていただけの様だったので気にしていないとフォローする。




「しかし、そういう事であればワイバーン討伐の功績など確かに無意味そうだな……。であれば心置きなく報酬を頂かせてもらうよ」



「そうしてください。今後この街の名産はワイバーンの素材になる予定なので、冒険者の皆さんにはその甘い蜜を堪能してもらって頑張って欲しいですから」




アインスがワイバーンの報酬を皆に分ける提案をしたのは物欲が無かったのもあるが、何よりワイバーンを討伐して報酬を得た!という経験を他の人にも体験させる為であり、今後アインス達が同行せずともワイバーンを討伐する冒険者が出てきてくれればいいな。と打算も混んでいた故であった。




「……さすがにワイバーンを名産にする際は俺以外の冒険者に討伐を頼んで欲しいが……」



アインスの期待混じりの目線に何かを感じ取ったテルナートは予防線のように自分はワイバーン討伐をそこまでする気は無いぞと苦笑いをするのであった。

















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