残念！！全部俺でした！

ダンジョン調査隊4

ワイバーンとの戦闘中、アインス達は戦闘に参加するのを躊躇してしまったばかりに、後方にて棒立ちを晒してしまう。

(…ど、どうしよう……さすがに何もしないのはダメだよなぁ)

テルナート達の攻防を見ている限り、ワイバーンに無傷で勝つ事は難しいのがわかるので、死傷者を出さないようにするにはアインス達の手を貸すしかない。

しかし、テルナート達のあの決死の戦に挑む気迫を見てしまえば、ちょちょいとワイバーンを倒してしまうのは何か申し訳ない気持ちが出そうになってしまう。

(どうにか、アインスを参戦させるべきだろうけど……ん？)

――――バスッ！カンカカカカンッッ！！

「グギャァァァァァァァァッッ！！」

色々と考え込んで困っている所に、魔法や弓矢、それに幾度もなる近接攻撃にワイバーンが切れたようで、近くにいるテルナートへ牙を突き立てようとしている。

(さすがにまずい！！でもどうすれば……あ、そうだ！！)

さすがに人を見殺しにする事は出来なかったので、タイミング的にもここしかない！と思ったライアはすぐさま行動に起こす。

「――――ツェェェェイッッ！！！」

――――ズッゴォォォォォンッッ！！

「グギャァァァァッッブゥゥゥ！？！？！？」

テルナートに嚙みつこうとしていたワイバーンの頬目掛けて、殺傷能力が比較的低い≪格闘技≫のスキルを利用した鋭い拳が突き刺さる。

「な、何が！？」

さすがのテルナートも何が起きたのか把握していないようで、不思議そうな顔をしている。

「大丈夫ですか？テルナートさん」

「ツヴァイ…？もしかして君が？？」

「えぇ、少し遅れましたが参戦させていただきます」

土煙が消えてツヴァイの事を認識したテルナートは今起きた事がすぐに理解できていないようであったが、まだワイバーンを倒せたわけでは無いので、あまり多くは語らず、吹き飛んでいったワイバーンの方を向きつつ、そう返事を返す。

「……助かる！」

テルナートはあまり多くは聞かず、今いる敵の討伐が先だと認識したようで、一言礼を伝えて動き出す。

「グギャァァァァァァァァッッ！！！！」

吹き飛ばされていたワイバーンは怒り心頭と言った咆哮を上げてツヴァイの方を向くが、腐っても亜“竜種”らしく、無暗に突っ込んでは来ず、ツヴァイの事を警戒しながら間合いを取る。

「はッッ！もしかしてビビっているのか！ワイバーンと言えどその程度……あまり退屈させてくれるなよ！！」

ツヴァイはワイバーンに対して挑発の様な事を叫ぶが、ワイバーンに言葉が伝わるとは微塵も思っていない。

仮に挑発されていると勘付かれようとそれはそれでワイバーンの冷静さを奪えるので問題は無い。

しかし、ツヴァイの挑発の目的は寧ろ味方への鼓舞の為だったりする。

先程の魔法や弓矢、近接攻撃でダメージを与えれなかった事から「攻撃が効かない。勝てるはずがない」と戦意を落としている可能性があったので、ツヴァイの攻撃と挑発を聞かせる事により「攻撃は通じるし、俺達の仲間は余裕すら持っている」と士気を上げる目的でもあった。

なぜ仲間の戦意を気にするのか？それは簡単の事。

(俺が倒したら申し訳ないからね！！それに皆で一緒に倒した方が今後のダンジョン攻略に役に立つだろうし)

ただ単に、最初にワイバーンをさっさと倒さずにいた事への罪悪感と今後このダンジョンはこの街の名物になるのに、冒険者達がワイバーンを倒せないとなれば領主的にも錬金術師的にも困るからだ。

「皆には沢山ワイバーンを狩ってきて欲しいからね……ゼリャァー！！」

―――ガキンッ！

「グギャァ！？」

ツヴァイの自分の願望丸出しの独り言は幸いなことに誰にも聞かれないまま、ワイバーンの爪をはじき返す様にさばく。

「よしッッ！ワイバーンの攻撃は俺とツヴァイが何とかする！！皆は隙を見て攻撃を叩き込み続けてくれッッ！」

「「「「はい！！」」」」

「グギャァァァッ！！」

――――ブゥゥンッッ！！

「「やらせん(ないよ)」」

――――ドドドドッッ！！

ワイバーンがツヴァイとテルナートより、周りの雑魚を倒そうと考えたのか、翼を広げ身体の向きを変えようとするが≪格闘技≫使いの2人の拳がワイバーンの腹部を連打し、行動を阻害する。

「グギャッッ！？」

「「「でりゃぁぁぁッ！！」」」

さすがに2人の攻撃に悶絶するしかなかったワイバーンの隙を見逃さず、剣と槍を備えた冒険者達が翼や比較的急所に近い首、心臓部分、目玉を狙って攻撃を仕掛けていく。

「グギャァァァァァァァァッッ！？」

隙を見て攻撃を仕掛けた者達の中に、運よくワイバーンの喉元に槍が数センチ程突き刺さり、ワイバーンを怯ませる事に成功する。

さすがにワイバーンもたまらず怯むが、それだけでは致命傷にはなりえない。

だが…

「ナイスだッッ！そのまま槍を離せ！……ツヴァイ頼む！！」

「はいッ！」

テルナートの言葉と動きに瞬時に何をしたいのか理解したツヴァイはすぐさまワイバーンの正面へ周り、突き刺さったままの槍を抜かれぬようにワイバーンの意識をこちらに向かせる。

「ゼリャッッ！！」

「グギャァァァァァァァァッッ！！」

ワイバーンは目の前のツヴァイと言う驚異に対応すべく、槍を付けたままこちらを威嚇するが、目的は槍を抜かせない事。

「テルナートさんッッ！！」

「行くぞッッ！！」

ワイバーンの背後に寄っていたテルナートと息を合わせて、二人同時にワイバーンの傍に来ると、テルナートは首を、そしてツヴァイは槍の端に蹴りを放つ。

「「貫けッ！こんなろぉぉぉッッ！！」」

「グギィ！？！？！？」

――――ズザァンッッ！！！

ツヴァイが槍を首に押し込むように蹴り上げ、テルナートが首に力が全て伝わるように後ろから同程度の威力の蹴りを畳みこむ事により、ワイバーンの首に槍を貫通させた。

――――ダァァン……

ワイバーンは首に風穴を開けられさすがに死亡し、その大きな巨体を倒れさせる。

「「「「「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉ！！！」」」」」

周りで見ていた冒険者達はワイバーンを討伐する事が出来たのだと遅れながら理解すると、歓喜の声がダンジョンの中を木霊するのであった。