ダンジョン調査隊3
「グギャァァァァァァァァッッ!!」
「わぁぁぁッ!?」
「に、逃げろぉ!!」
ワイバーンの出現に調査隊の冒険者の半数以上がパニックを起こし、我先にと逃亡を図ろうとする。
この世界でのワイバーンとは、一部のベテラン冒険者達が人生で一度は倒してみたいと夢見るような強敵で、新人冒険者などは出会えば何も抵抗など出来ずに自分の命を塵にされるような化け物である。
「落ち着けぇぇッ!!逃げ出す者は第4層へ上がる階段の方に逃げろ!!無暗に逃げ出せば他のワイバーンの餌になるだけだぞ!!!」
「「「ひぃ!?」」」
パニックを起こしている冒険者をテルナートは落ち着かせるのではなく、あえてワイバーンの恐怖を煽る事で逃げ出す方向を絞らせている。
(ここで逃げ出す様な冒険者ははっきり言って戦力外……しかしそんな戦力を守りながらワイバーンと戦える訳も無いからせめて生存率の高い第4層へと退避させるって事か)
テルナートにしても、ワイバーンは脅威であるにもかかわらず、落ち着いて周りの冒険者達へ意識を割いている。
その落ち着き様にもしかしたらテルナートは、以前にもワイバーンと遭遇、もしくは討伐をしたことがあるのかも知れない。
「っとと、そんな事より……」
さすがにライアの心情的に逃げ出した冒険者達が別の所で死んでしまわれるのは嫌だったので、ドライとフィーアを逃げ出した冒険者達のお守りとして送り出しておく。
「いいかッ!!今ここに残ったお前たちは冒険者としての夢を叶える手前にいるんだ!!」
ワイバーンが逃げ出すよりも立ち向かってくるであろう武器を構えているテルナート達に警戒しているのか、鋭い目つきでこちらを睨んでくる。
「グギャァァァァァァァァッッ!!!!!」
「行くぞッッ!!亜竜狩りだぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」
テルナートの叫びと同時に冒険者達とワイバーンが動き出し、戦闘が開始される。
(あ、どうしよ……さすがにここでアインス1人でワイバーンを倒しちゃったら絶対変な空気になる……)
ライアはある意味危機的展開に別の思考でいっぱいいっぱいになってしまっていたので、アインスは後方でぽつんと取り残される事になってしまった。
―――――――――――
―――――――――
―――――――
「いいか!ワイバーンの鱗は鉄と同じくらいとても固い!鉄板に穴を開けれるほどの攻撃が出来ない奴は基本
「「「「はいッ!!!」」」」
テルナートと一緒に残った冒険者達は約30人と少し、その全員がテルナートの事を一目置いているようで、指示出しにもきちんと返事を返し、連携を取りながらワイバーンを包囲していく。
「グギャァァァァァァッ!!」
ワイバーンも周りでウロチョロされる冒険者達を目障りに感じているのか、近くに寄って来た者達に鋭い爪や牙で仕留めようとしてくる。
「セェェェェイッッ!!」
―――ガギンンッッ!!
だが、そのワイバーンの攻撃はテルナートが腕に取り付けた籠手の部分で攻撃を受け流し、周りに被害が行かないように立ち回る。
「今だ!」
テルナートがワイバーンの攻撃を受け流した事により、ワイバーンがバランスを崩したタイミングで遠距離攻撃部隊が一斉に攻撃を放つ。
「――シッッ!!」
「……せよ…“ファイアーボール”!!」
弓を使う物は矢を放ち、魔法を習得している数少ない者は己の最大火力の魔法をワイバーンへとぶつける。
「グゥゥゥ……」
自分の背後から何かが近づいているのを察知したのか、ワイバーンはすぐにその場を飛び立とうと翼を広げる。
「「させるかぁ!!」」
―――ズバンッ!
「グギャァァァァァァァァッッ!!」
それを見たテルナートと同じ近接攻撃主体の冒険者が、ワイバーンに行動させないようにと翼に対して剣を振う。
ワイバーンの身体の中で一番強度が低い翼の皮膜部分とはいえ、いとも簡単に傷をつけるのを見てさすがベテラン冒険者だと感心する。
その冒険者の対処のおかげで、ワイバーンは翼で飛び立とうとしていた動きをやめざるを得なく、ワイバーンの背中に魔法と数多くの矢が届く。
――――バスッ!カンカカカカンッッ!!
「グギャァァァァァァァァッッ!!」
「くっ…さすがはワイバーンだな。殆ど効いちゃいねぇ」
ワイバーンの背中には魔法の軽い焦げ跡と数本翼に刺さっている程度で、致命傷とは程遠いダメージしか与えられていないのがすぐにわかる。
「グギャァァァァァァァァッッ!!」
「おっとッ!?」
ワイバーンは痛みによるものか煩わしさによるものかはわからないが、目に怒りの感情を浮かべながら近くにいた近接攻撃主体の冒険者達を睨みつけつつ、攻撃を仕掛けて来る。
「こりゃぁまずいかもなぁ……」
テルナートは先程の近接と遠距離による多重攻撃である程度ダメージを負わせれればいいなと考えていたのに、実際には飛ぶのに必要な翼に軽い傷をつけた程度で、致命傷になりえるワイバーンの胴体はほぼノーダメージだ。
ここにいる冒険者達の中で一番の実力者はテルナート自身、そう思っているのと同時に武闘家の自分ではワイバーンに有効打を決める事が出来ないのも理解していた。
テルナートの武器は己の身体。つまりは打撃系の攻撃しか有しておらず、人間の打撃など通用しないワイバーンには無力という訳だ。
「……死んでも耐え抜いてやるよ」
打撃系の攻撃しか有さないテルナートに出来るのは、ワイバーンの攻撃をいなし、タンクとしての役割をこなすだけだと自分に言い聞かせ、どれだけ時間が掛かろうとも周りの仲間がワイバーンの命を削り切ってくれることを祈る。
「グギャァァァァァァァァッッ!!!」
「くッッ!!??」
ワイバーンはそんなテルナートの心情を察知した訳では無いだろうが、すぐにでもタンクを潰そうと鋭い牙をむき出しにして攻撃を仕掛けて来る。
――――ズッゴォォォォォンッッ!!
「グギャァァァァッッブゥゥゥ!?!?!?」
大きく開いたアギトがテルナートをかみ砕こうと迫る中、ワイバーンの頬に何やら大きな物体が飛んできて、ワイバーンが真横に吹き飛んでいく。
「な、何が!?」
「大丈夫ですか?テルナートさん」
砂埃が無くなりワイバーンの居た所に居たのは、アインス達分身体グループの≪格闘技≫担当のツヴァイがそこに立っていたのであった。
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