ダンジョン調査隊2









第4層の調査もだいぶ進み、ここがどれくらいの広さなのかも大体わかってくる。



大前提としてダンジョンというのは世界で数え切れるほどしか存在を確認できていないし、ダンジョンの法則性の様なものなどは殆ど解明されていない。



リールトンの街のダンジョンは1層から順に弱い魔物から強い魔物になるのはわかっているが、その他の特徴として、ダンジョンは比較的縦長な洞窟型で、至る所に休憩ポイント的な場所が存在している。



それに比べ、このダンジョンはリールトンの街のダンジョンよりも横に広く、次の階層に向かうのになんときちんと階段の様な場所を通って下の階に向かうという構造がはっきりと分かれている仕組みであった。



一応階段を降りると出現する魔物も変わるので、第1層から第2層になったのだとは理解できたが、都合の良い解釈は危険だと、気を引き締めている。





ちなみにこのダンジョンに出現する魔物は第1層からスライムとバット(コウモリ)。第2層にオーガとフライマー(火を纏ったトンボ)。そして第3層がラットルとこれまたスライムという何とも拍子抜けの階だった。



第2層以外の魔物はこちらから攻撃しなければ反撃してこない魔物で、危険は殆どないエリアだったのでマッピング作業なんかは結構早くに済ませる事が出来た。



フライマーという魔物はどう見ても火属性の魔石を持っているのはわかったので、街が完成し、冒険者がさらに増えてくれば火属性の魔石が大量に手に入るだろうと嬉しい気分になったのは余談だ。







……そして第4層、今アインス達調査隊が絶賛調査作業を行っている階層にはエコーテ達の群れと岩陰に潜み、近くに来た獲物を長い身体で巻きつき窒息させるロックヴァイパー(岩の蛇)が生息している。




(まぁロックヴァイパーに関しては≪索敵≫で全く問題は無かったけど…)




この調査隊には≪索敵≫持ちが分身体であるアインス達とパテルの5人も居たので、待ち伏せがスタイルのロックヴァイパーは敵にならず、あっという間に殲滅することが出来たが。





なので、結果的に第4層はこの間のエコーテ達の集団戦以外は問題は無かったという事である。










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「ここが第5層へ通じる階段か……よし!今日は一旦野営を挟み、明日一番に第5層の様子を確認しに行く!1層3層と弱い魔物達が出現していたので、もしかしたら第5層も同じような物かも知れん……だが、既に1月は経っているので5層の魔物を確認したら一度ダンジョンの外に戻る!そのように考えていてくれ!!」




如何に荷物持ちの人員が居ようと、1層から4層までの魔物全ての素材や魔石を根こそぎ持ってくれば荷物は多くなるし、食料もそろそろ心もとなくなってきている。



テルナートの言葉に皆反対意見はないようなので、特に何も言わずに野営の準備を始める。




「奇数の階層はあれだったし、もしかしたらそんな法則性もあるかもだしね」



「……リールトンの街とは造りから違うみたいだしな……」




テルナートの考えはこのダンジョンの規則性を考えた結果による予測である。



奇数の1層、3層は反撃が主体の穏やかな魔物。


偶数の2層、4層は人間を見れば襲い掛かって来る好戦的な魔物と別れている。



もちろんただの偶然の可能性もあるし、全く当てにできない根拠だが、完全に否定できる要素も無いので、今の所は一番あり得そうな話である。




「アインス、明日の5層に関しての確認をしたいのだがいいか?」



パテルと野営の準備をしている所にテルナートが声をかけて来る。


恐らくアインスとしてではなく、依頼主であるライアへの確認事項なのは表情から読み取れたので「わかった、すぐ行きます」と返事を返しておく。




「……最近、よくあるごとにテルナートに呼び出されるな…」



「ん?まぁ近くに依頼主が要れば、色々と聞いておいた方が良いって考えるのは普通じゃないかな?」



「……だといいが……」




実はテルナートにアインスの正体がバレてから、度々テルナートに呼び出されてダンジョン調査の進捗の確認をされていたので、その事がパテルの目に些か不自然に映っているようだ。




「……嫉妬かい?」



「ぶふッ!!んなッ!?」




アインスの言葉にパテルは思い切り吹き出し、慌てたような反応をする。




「あはははは!ウソウソ……パテルの事だからテルナートを警戒してるんだろ?あんまり気を詰めなくてもいいと思うよ?」




「……別に……」




パテルの役目はライアの護衛……この場にはライア本体はおらず、分身体のアインス達しかいないので、仮にテルナートが敵対しても問題は無いのだから、そこまで心配しなくてもいいとアインスは伝える。




「テルナートはいい奴だと思うし、気にし過ぎでパテルが疲れてしまえば俺は悲しいよ?……それじゃぁ行ってくるよ」



パテルにテルナートのフォローを忘れずに、そろそろ向こうも待っているだろうとアインスはテルナートが待つ方へ歩き出していく。




「………違う……(あ”あ”ぁ”ぁ”ぁぁぁぁ)」




その場に取り残されたパテルは何やら苦悶の表情を浮かべていたようだが、ライアに知られる事はなかったという。









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翌日、アインス達ダンジョン調査隊は第5層の階段の前に集合しており、第5層に突入する前の決起集会を開いていた。





「この先は安全かどうかはまだ決まったわけでは無いが、仮に好戦的な魔物が出現しようと我々が落ち着いて対処すれば、何ら問題は無いだろう!」



テルナートの演説は此処までのダンジョンでの生活の中で得た信頼が現れているのか、周りの冒険者達は静かに聞き入っている。



「ここを確認すれば後は帰るだけだ!変に気負って怪我でもすれば笑いもんだからな!……行くぞ!」




「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」



冒険者達はテルナートを追いかけるように、第5層へ足を進めて行くのであった。












第5層は今までの階層と何かが変わっている訳では無く、階段を降りてから暫く魔物に遭遇はせず、何とも言えない雰囲気を放っていた。




「……なんもいないですね?もしかして魔物すらいない階層だったり?」



「もしそうだとすれば、このダンジョンの法則はほぼ決まったようなもんだと思うけどな」



第5層を歩きつつ、未だ魔物が現れない事に気を抜き始める冒険者達。



そんな気の緩みかかっている空気の中、テルナート達ベテランの冒険者達は何か嫌な予感でも感じているのか、冒険者達に注意はしないが周辺の状況を警戒している。



その予感が当たったのか、アインスの≪索敵≫に大型の魔物の反応が早いスピードで飛んで来る。




「……!魔物が接近してきます!!」



「全員警戒ッ!」




アインスがすぐさまテルナートに魔物の情報を伝えると、すぐさま調査隊全員に気合を入れさせる大声で指示を出す。




―――ビュゥゥンッッ!!



「ッッ!?」



テルナートの指示に警戒態勢をする冒険者達のすぐ横を、大きな巨体が飛び去る。




「あ、あれって……」




大きな巨体が通り過ぎた後の風圧から目を守りつつ、魔物の姿を確認しようとした冒険者の誰かが驚愕の声を漏らす。




「ワ、ワイバーンだッッ!!!」




「―――グギャァァァァァァァァッッ!!!」




ものすごいスピードでここまで飛んできた魔物の正体は、数年前にライアが討伐した亜竜種であるワイバーンであった。













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