ダンジョン調査隊









――――アインスSide





ダンジョン調査を開始してからすでに1ヵ月。



既に魔物の出現状態的に、第4階層と言われるエリアの攻略を進めていた。




「―――ゼリャァァァァッ!!」


――ベゴッ!



「グラァァァァ!?」



第4層エリアでは主にサルの様な見た目の【エコーテ】なる魔物が群れをなしていて、現在進行形で冒険者達はエコーテの群れと戦闘をこなしていた。




「くっそ!数が…ってクソッ!?」



「キャヒィィ!!」



―――ダッ!



「やらせるかってのぉ!!」



―――ザスッ!



「た、助かる!!」




冒険者達は総勢100名とかなりの大人数であれど、冒険者全員がこの階層の魔物に対処できるほど熟練した強者つわものという訳では無く、寧ろ割合的には初心者に分類される冒険者の方が多いかも知れない。



そんな危なっかしい冒険者達を周りのベテラン冒険者達やアインス達がフォローしながら対処をしているので、このような苦戦を強いられているのだ。



ではその冒険者達を置いてくれば良かったのでは?と思うかもしれないが、ダンジョンのマッピングや荷物持ちとして役に立っている部分もきちんとあるし、弱い魔物なんかは積極的に狩ってもらっているので、ダンジョン攻略の時間短縮にもなる。



それに何より夜の見張り役が沢山いてくれた方が、ライア個人としても助かるという理由もあるが、そちらは触れないでおく。




「魔物の数は多いが、周りの連中ときちんと連携すれば危険は少ないんだ!!全員気を引き締めていけぇ!!」



「「「「はい!!テルナートさん!!」」」」




……それとこれは別に大事な事でも、言わなければいけない事でもないのだが、実はこのダンジョン調査隊のリーダーはアインス達ではない。



先程から冒険者達に声掛けをしたり、初心者冒険者達のフォローに回って全体の指揮を執っているのは、王都から冒険者達のまとめ役としてこの開拓地に来てくれたテルナートという武闘家だ。





何故アインス達をリーダにーに添えず、このテルナートを起用しているかと言えば、簡単な話アインス達の事を分身体だと伝えていないからだったりする。



これはリールトンの街でも同じなのだが、冒険者として動くアインス達のステータスカードは、ライア本人のステータスカードをギルド職員の特例として引用させてもらっているので、アインス達だけはあまり公にライアの分身体だと公表はしたくないのだ。



もちろん隠しきれずバレている冒険者やこちらから教えている人もいるので、バレてもしょうがないと思う気持ちがあるのだが、自分からは伝えようとはしていないのである。




なので、この開拓地でもアインス達は『なんかあいつら、インクリース様達の所によく行ってるなぁ…もしかして知り合いか?』と軽く言われる程度に収まっていたりする。




故に、ダンジョンに入る際にリーダー決めをする際に『やるかい?』と一言誘われたが、さすがにライアと仲が良いからという理由でリーダーにされてしまえば他の冒険者達に良く思われないだろうと拒否をし、ベテラン冒険者のテルナートにリーダーが決定したという訳だ。







エコーテ達の群れを何とか犠牲者無しに片付けると、テルナートが周りの冒険者達に後処理の指示を出す。



「怪我をした者が要れば後ろで応急処置、大丈夫な者は解体班に魔物の死骸を運んでやれ!」



「「「「はい!」」」」



この場ではアインス達も魔物の死骸を集めに行くべきだなと移動をし始める。





「……すまない、アインス!少しいいか?」



「はい?なんですか?」




作業を開始しようとした所で、テルナートがアインスに話しかけてきたので、パテルやツヴァイ達を作業に移させながら、顔を向かい合わせる。




「いきなり声をかけてすまんな、少し確認したい事があったから他の冒険者達がいない時を狙っていたんだ」



「……もしかして秘密事ですか…?」



「秘密事……というか恐らく聞かれたくない事であれば困ると思っていたんでな」




テルナートはどうやら密談がご希望のようで、周りにはパテルやツヴァイ達身内組しかいないタイミングを狙って話かけに来たようで、テルナートは周りに気を付けながらアインスに耳打ちをしてくる。



「これは勝手な憶測だが……もしかしてアインスは……いや、アインス達はインクリース様の分身体だったりするのか?」



「………すごいですね……どうしてわかったんです?」



何が原因かはわからないが、どうやらアインス達はライアの分身体だとどこかで勘付かれていたようで、思わずアインスは驚きの表情を浮かべる。



「やはりか……いや、インクリース様は≪分体≫の使い手というのは聞いていたし、実際に分身体が開拓作業に参加をしているのは見ていたが、まさか顔形が違うアインス達までもそうだとは……あ、すみません…貴族に対し」



「あぁいやいや、そんなかしこまらないでください。アインス達は表向きには平民の冒険者をさせているので、そのように扱ってくれて構いませんよ……ちなみに聞きたいんですが、どうして俺……アインス達が分身体だと?」



「そういう事であれば……俺が気が付けたのは冒険者としての勘もあったが、しいて言えばアインス達の動きに迷いが一切無い事と技の練度かな?」



「迷いがない?」




アインス達からすれば、練度の高さは≪分体≫と≪経験回収≫の効率的訓練の賜物たまものだが、迷いがない動きというのがよくわからない。




「迷いが無いというか、まるで見えていない物まではっきりと知覚して素早く動いているといえばいいかな?恐らくアインスの死角なんかを他の分身体達でカバーしているのかなと思ったけど」



「あぁなるほど……そういう事ですか」




そう言われてみれば、アインス達を操作するうえでアインス、ツヴァイ、ドライ、フィーアの4人が全員の死角を無意識にカバーするように動いているのがテルナート的に言えば【迷いがない】と捉えられたらしい。



「まぁ、気付いて何か言いたい訳では無く、緊急時に依頼主に確認出来る事を確かめておきたかっただけなのであまり気にしないでくれ」



「あ、わかりました。こっちも出来ればアインス達が分身体って事はご内密に」



アインスの言葉に「あぁ」と返事を返しながらテルナートは、解体班の作業が終わりそうなのを察知していたのか、冒険者達が集まる場所に去って行く。





「……大丈夫か……?」




「うん、特に問題がある訳じゃないよ」




パテルはアインスのその言葉を聞いて、納得してくれたのか特に何も言わず、アインス達と一緒に皆が集まる場所に向かって行く。

















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