街の進捗












ダンジョン調査隊を送り出してから約1ヵ月程が経ち、ダンジョンへの道路も粗方完成し、防壁内の下水設備や区画ごとの間切り作業も順調に進んできた頃、ついに資材や道具を沢山馬車に積んでバンボ達大工組が到着した。




「……なぁインクリースさん……俺ぁてっきりまだ街の外側……防壁作りも途中の状態を想像してたんですが……あまりにも早くないですか?」



「あははは……それは私達も同じ思いですよ」




外からやって来たバンボ達は完成した街の防壁を見るや否やライアに驚愕の表情を向けて来るが、ライア自身もこの間同じリアクションをしたのを思い出し、苦笑いを返す。




「いや、まぁ外の魔物達からの襲撃を心配しなくていいんだから寧ろ良い事なんだ、その安全の分良い仕事をすればいいか」




「お願いします」




そう言ってバンボ達は引き連れた沢山の馬車を街の中に連れて行き、ライア達の土地である区画へ案内する。



区画とは、街の北側に畑や家畜達を管理する農畜産区画、西と南側の殆どがまだ家の建ってない居住区、東側には今後色々な建物(冒険者ギルドや大きな商会)などが参入できるように開けた空白区画として線引きがされているエリアの事だ。



そしてその街の中央のまぁまぁ大きいエリアがライアとリネットの土地として区切られており、そこに工房兼住居の屋敷を建てる事になっている。



ちなみに、街をこのように区切って運営する方法は王都をイメージしたもので、比較的管理がやりやすいと教えてもらった故だったりする。









屋敷の建築予定地に到着すると、バンボ達は早速屋敷作りを開始してくれるらしく、先行していた大工組と合流してさっさと馬車の積み荷を降ろしに行ってしまう。




「俺は他の作業場の確認でもしに行くかな……」



人の案内が終われば、領主であるライアの仕事など各場所の仕事状況を確認する事ぐらいしかないので、ライアはまだ基礎工事などが終わっていない居住区の方へ足を進ませていく。








――――――――――

――――――――

――――――








「あれ、ライアさん?何か御用っすか?」



「いや、ただの進捗確認で来ただけだから気にしないでいいよヴァーチェ」



「わかりました!よっと……」




居住区エリアには多くの人達が道や街灯を付ける為の作業をしており、その中にヴァーチェが大きな角材を肩に背負いながら歩いていた。



……本来ヴァーチェには力仕事などは割り振ってなどはいなかったのだが、開拓が始まってから幾度も「この作業が筋肉に効くんですよ!」と勝手にやり始めてしまうので、メイド業がないお休みの日などは自由にさせる事にしているのだ。



ちなみにヴァーチェは力仕事を担当する土木作業員達には癒しの存在らしく、結構注目されているのだが、何故か告白などはされてはいないらしい。……まぁツェーンを追いかけて来た人達なので、ある程度予想は付いたが…。







まぁそんな事はひとまずおいて置き、作業の進捗状態の件である。



これだけ大きな街になったせいで、道の整備だけでもかなりの労力が必要なので≪カリスマ≫のバフがあったとしてもさすがにすぐには終わらない。



現時点で街の中を区切る道路の完成度は大体3割程であろうか?もちろんこれでもかなり早過ぎる部類なので、問題はないが。




「道の整備は順調だし、そろそろ街灯の魔道具も作っておかなくちゃな…」




道を整備しているのを確認しつつ、街の至る所に設置された街灯代わりのランプを見て、自分達が出来る事などをピックアップしていく。



「工房はないけど、ある程度の材料は持ち込んでるから作ろうと思えば作れるしね。そんなに複雑な魔道具でもないし」



これは帰ったらリネットと早速作業に入ろうかと考えるライアは、作業員達の邪魔をしないようにどんどん道を歩いて行く。




「…あ、インクリース男爵様!」



「お疲れ様ですインクリース様!」



「お疲れ様皆。怪我なんかは気を付けてね」



道を歩いて行けば当然色々な人に会うし、それがこの街の責任者であるライアであれば、ここにいる人間でライアの事を知らない人物などはいないので、次々と挨拶をされる。




「あ、そうだ……皆さんは何か現状困っている事などは無いですか?現場の人間でしか気付けない発見もあるでしょうし、皆さんの意見を聞いてみたいのですけど」




人が多い場所に付いて、挨拶を交わしている時にふと、そんな思い付きに似た考えが浮かんだライアは周りに集まってきている作業員達に質問を投げかける。





「困ってる……ツェーンちゃんに会いたい?」



「ばっかお前、それは大前提の話だろ!それにまだ快適に出来ていない場所にツェーンちゃんを呼ぶなんて出来ないってこの間のファンクラブ定例会で決まっただろ!」



「うぐっ……そうだった、すまん……」




どうやらライアの知らない所でツェーンのファンクラブなる現代人っぽい物が出来ているらしいのだが……一旦聞かなかった事にしようと話の続きを促す。




「うぅ~ん……特にすぐに思いつくような事はないっすかね?」



「そうですか……」



「あ……そう言えばこの間、調理場の女たちが困った様子で何かしてましたけど、そっちは聞いてます?」



「……?いえ、特に何かあったとかは聞いてないですね」




皆の話を聞いて行くうちに、1人の男性が調理場を担当する女性達に何かしらの問題が発生しているかも?とタレコミが入る。



調理場の女性達というのは、王都から開拓民として参加してくれている男達の家族であったり、新しい領地に仕事を探しに来た約200人くらいの女性達の事で、その数の少なさと力仕事には向かないという理由から開拓民の食事を作る調理場を担当してくれているのだ。



と言っても現状料理と言えるものは精々山菜のスープなどで、ある意味名ばかりの調理場ではあるが、開拓民の男性達の服の洗濯や敗れた服の補修もしてくれるので、大変ありがたい存在なのだ。




「一応何か困っているっぽかったんでどうしたのか聞いてみたんですが『ううん、大丈夫だから』って言いにくそうにしてたんですよね」



「そうなんだ……でも人に話したくない事だったりしたら私が行っても教えてくれないかも…?」



こういう場合、男性にはわからない女性特有の話だとすればライアが言っても話してはくれないだろうし、別の誰かにお願いしようか?と悩んでしまう。




「ははは!そんな心配しなくてもインクリース様になら話してくれるかもですよ!その見た目ですし!」




「……なんでしょうか……そう言われて反論しようにも言葉が浮かんできませんね……」




今まで散々女性と勘違いされてきているし、何だったら知り合いにもたまに『そう言えばライアさんって女性だったっけ?』と言われる始末なので、男性の言い分に納得させられるライアだった。
















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