農業の始まり











開拓が進み、街の防壁が概ね完成したら次に進めるべきは居住区などの建設が急務!……と言いたい所だが、大工の数は足りていないし、現状今すぐに欲しいのは別にある。




「ライア様、お食事の準備が出来ました」



「……ありがとうミオン……ちなみにメニューは…」



「いつも通り干し肉と山から採取して来た山菜のスープですね」




そう実は今現在、この開拓地には栄養が最低限取れる保存食と山から取れる少ない山菜のみで賄っている為、食事環境的な観点からものすごく悪い状況だったりするのだ。



「くぅ……せめて冒険者ギルドでもっと“携帯食”を買い込んでいれば……」



「さすがに3000人もの人達に毎日振舞えるだけの在庫はありませんでしたからね」




携帯食というのは、以前ライアとリネットが前世で存在していた缶詰を再現しようとして作り出した異世界版の缶詰の事だ。



あの時作成した魔道具は1組を残し、全て冒険者ギルドに渡して、新たな保存食として活躍してもらっていた。



今回もその携帯食を大量に購入し、持ってこようと思っていたのだが、さすがに3000人もの人数に在庫が足りなく、馬車移動と開拓地に付いて2か月もしないうちに消費尽くされてしまったのだ。



なので、今現在は王都からの支援物資である干し肉などを毎日食している訳だ。




「さすがにこんな食事が後半年以上も続くとなれば倒れる人もいておかしくないし、早く新鮮な食料を作れるといいけど…」




「畑と牧場、それに鳥小屋の設置などはすでに動いてますし、畑に関しては2,3か月で早い野菜などが収穫できるようになるとの事ですが」




そう……今この新しい街作りで必要とされているのは衣食住の中の“住”ではなく“食”なのだ。


……と言っても人員は3000人も居るので、もちろん居住区の下水処理や道路の舗装も同時進行で進めては行くので、食に掛かりきりという訳ではない。




別に、ライアは食にうるさい訳でもなければ、一日3食きちんと食べないと嫌なタイプではないが、それでもさすがに3食所か数か月単位で保存食を食べさせられるのはただの苦行なのである。








そう言った訳で、防壁の建築が終わった今は絶賛畑作りや鶏小屋なんかを急いで作ってもらっている。



(結構行き当たりばったりな進行になっちゃってるけど、文句も言わずに仕事をしてくれる皆に感謝しかないよ…)




そんな働いてくれている人たちへの感謝の念を覚えるライアだったが、当の本人たちの殆どが『ツェーンちゃんが来た時に質素な飯を食べさせる?そんなことあっちゃいけねぇ!!』と息巻いているのだが、ライアが直接聞く事はなかった。















畑作りは人数も居る事だし、それほど時間をかけずにすぐに出来上がる。



もちろん農作物が出来るのはずっと先であるし、その間の農作業をする際の人員は必要ではあるが、それよりも前に考えなくてはならない事がある。



畑が出来て一番気を付けなければいけないのは所有者……つまりは畑という土地の持ち主を明確にしなければならないという事。



これはヤヤ村の時に学んだのだが、この世界に国や貴族の間に領地という線引きはあっても、家の敷地や畑の所有を示す土地の権利書なる物は存在しない。



なので、この街で畑を耕すとなれば領主であるライアに許可を取り、自分で畑を耕した後にきちんと自分の所有している畑だと周りに周知させなければ、その人の畑なのだと認知されない。



しかも極論を言ってしまえば、農作物を盗んでいる場面を現行犯で捕まえなければ、罪にすら問えないので、王都近くの村などでは結構野菜泥棒が頻発するらしい。



ヤヤ村に関しては、辺境で新しい住人が増える事も殆ど無いし、全員がお互いの畑を認知している状態なので滅多に野菜泥棒などは起きないのだが。




ちなみに土地の権利書などは存在しないという事は、土地そのものが個人の財産ではなく、領主から土地を借りているというていで家などを建てているのだが、所得税の様な物は存在しない。(代わりに住民税や一部領地などでは通行税なども必要な所もあるらしいが)










まぁそれで何が言いたいかと言えば、こんな誰の土地か誰の畑かわからない状態で放置すれば、のちに『この畑は俺が耕したんだから俺の土地だ』『ここは今、俺が野菜を育ててるから俺の土地だ』などという争いが発生してしまう可能性が高いので、きちんと策を張り、野菜の種類や広さで区分けして、そこの責任者、所有者を決めておく必要があるという事だ。




「という訳で、畑関連の事はルビーに任せていいかな?」



「お任せくださいライア様。自然の緑に関係したお仕事を与えてくださリ、大変嬉しく思っています……私の≪緑の手≫で必ずやお役に立ちますね」



「あんまり頑張り過ぎないでね?」




ライアは畑関連の決め事や領地が運営していく畑などの管理関係を野菜や果物、植物関連に強い≪緑の手≫を所持し、元は貴族で書類仕事もこなせるルビーに一任する事に決める。




ちなみにその話をした夜にどこからか聞きつけて来たのかモンドが「私も研究用の薬草や毒草を育てる畑が欲しいから手伝わせてもらっていいかな?」と言ってきたので、ルビーと一緒にお仕事を手伝って貰う事になった。








畑仕事と言っても、3000人全員で作業に取り掛かる訳でもなく、精々3~500人程度が畑仕事をして、他の人達は別の作業が存在する。



その余った人達にお願いするのは先程話していた居住区の作成も依頼するつもりだが、この開拓地ならではの作業も存在する。






この土地ならではの作業……それはこの土地を国王から任された理由の一つでもある、ダンジョンへと続く道の整備とダンジョンの調査である。











――――――――――――

――――――――――

――――――――










「……ここが新しいダンジョン……」




「そう、最初の階層はスライムがメインのエリアみたいだけど、あんまり気を抜かないようにね?」




畑が作成され、次なる開拓作業を進める為、ライアとパテル、それにアインス達分身体部隊と開拓民としてここに来た冒険者達と道の整備をする為にダンジョンの位置を確認しに来た土木要員達が、今回発見されたダンジョンの前に到着する。




内訳としてはダンジョン調査隊が100人とダンジョンへの道を整備する土木要員が200人、その人達を魔物から守る冒険者達が100人くらいで計400人くらいが存在している。



……まぁ土木に関しては測量やマッピング作業が主で、本格的な作業は街の方から開始するので道路整備作業をする土木要員はもっと存在するが。






「……それでは皆さん!この洞窟の先が新たに発見されたダンジョンになります!基本は倒した魔物の素材や魔石は冒険者ギルドが来るまで、インクリース男爵家が買い取りを行わせてもらいますので、皆さんは普通のダンジョン攻略のつもりで挑んでもらって構いません!」




ダンジョン攻略は本来、ダンジョン内に存在する魔物の魔石や素材を持ち帰り、それを冒険者ギルドに売却する事によって利益を生み出すものだが、今現在この土地に冒険者ギルドは存在せず、ライア達が買取などしなければ冒険者達はダンジョンに潜る意味の殆どが失われてしまうので、買取の対応をするのだ。



「……ですが、このダンジョン攻略は私からの依頼でもありますので、ダンジョンの様子や魔物の種類、それ以外に気付いた事などがあれば必ず報告してくださると助かります!」



ライアの伝えたい事は冒険者達全員がわかっているようで、ライアの言葉の後にしっかりと頷いてくれる。



中には「まっかせてよライアちゃーん!必ずいい手土産持って帰るからー!」とライアに色目を使う人や「ツェーンちゃんの為!ツェーンちゃんの為!ツェーンちゃんの為!」と呪詛の様な物を呟き続ける男性も居たりしたが、概ねリールトンの街と同様にきちんとした人達が多いようで安心する。




「―――では!第1回!未調査ダンジョン調査隊の出撃を命じますッッ!ご武運を!」




「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る