~閑話、覚醒ッ!アイドルツェーンちゃん~










アイドル衣装……それは前世のアイドル文化において、重要なファクターともいえる存在。



デビュー衣装、夏仕様、記念衣装などなど様々なアイドルの新衣装を着せる事で、ファンの人達に期待と興奮を与える事の出来るのだ。




(……でも、今回の場合は“アイドル”という概念すらない人達の前でライブをしなくちゃいけないのだから、ただ可愛いだけの衣装じゃ「ちょっと変わった服着てる可愛い女の子」程度にしか認識されない可能性が高い……)



故に、ツェーンがライブで着るべきアイドル衣装は現代日本でも再現は難しく、見る者たちの度肝を抜く事が出来る服装と言えば……。



(この世界には存在しない機械文明のカラクリ衣装であれば、この世界の人達を驚愕させる事も出来る…!)



服自体にネオンを仕込んだかのように綺麗な光を放つ近未来のドレス、そんなものをツェーンは再現しようと考える。




(……まぁ仮にそれが出来たとしても、ただ綺麗な光を放つ衣装ってだけだし、前世で他の日本人に見られたらしょうもないって思われるかもだけど、この世界の住人であれば楽しんでくれるはず……いっちょやってみますか!)




ツェーンは幻魔法でどう再現をしていくか、どう見せるかなどを事細かく決める為に、ライブまでの時間を使って頭をフル回転させていくのであった。













―――――――――――

――――――――

―――――










―――――ザワ……ザワ……




「うぅ~ん……些かツェーンちゃんのライブだというのに人の集まりが悪い気もするが……まぁそこはいいでしょう」




(……どう見ても満員御礼にしか見えないのですが……)




ライブ直前、大通りの広場にてステージ横から観客の様子を伺えば、ざっと1万人くらいいるのではないかと思えるほど、人が溢れていた。



となりにいたカルデルはツェーンの初ライブだというのに妙に不満げであるが、もうそこら辺をツッコんでも意味は無いとわかっているので、特に声をかけたりはしない。




「……カルデルさん。先程の演出の件ですけどぉ……」



「ん?あぁ、に関してかい?特に問題は無いから存分にやってくれて構わないよ!」



「ありがとうございます」




カルデルとツェーンの会話を近くで聞いていた他の楽団員が「なになに?どうしたの?」と話を聞いてくるが、もうすぐ本番が始まると言ってすぐに解散させる。



(衣装や演出に関しては特に止められる事は無いと思ってたけど、に関しては一応許可が必要だったし、許可がおりて良かった)




ツェーンが己の衣装に幻魔法を施し、演出の改善をする際に必ず必要になった事だったので、OKが出て一安心である。



「……ツェーンちゃん!そろそろ本番行きます!」




「―――はいッ!」




スタッフの声に反応し、気合を入れるツェーン。



そして、先程考えたアイドル衣装の姿に変身する為に、己の手足や髪型、それに今着ている比較的のシャツとショーパンの布地を知覚するように集中していく。




「……“ファントム”……」




ツェーンが静かに己の姿を幻で偽る魔法を唱えれば、真っ白のノースリーブコートにエメラルドグリーンとブルーのサイリュウムの光がラインとして走る不可思議な上着と色鮮やかなターコイズブルーに彩られたミニスカートとそこから伸びるコードの様な物がより近未来感を醸し出す姿に変身する。




「……綺麗……」



スタッフの中からまるで恋に落ちでもしたかのような吐息混じりの声が上がるが、ツェーンは気にせず、ステージに上がる為に前へと足を進める。







――――カッカッカ……



ライブ会場は決して静かではないのに、ツェーンの高すぎないヒールの音が広場中に響いているようで、ざわざわしていたライブ会場がどんどん静かになって行く。




――――カッカッカッスタ!




「―――ごきげんよぉ王国民の皆様方……自己紹介などをしたい所ではありますがぁ、先に聞いてくださいぃ……【Divaディーヴァ】」



ツェーンは全く知られていない自分の自己紹介などをしても、観客を楽しませることなど不可能だとわかっていたので、ライブの目的である歌を先に歌うべきだろうとすぐに歌い始める。




~~~♪



ツェーンのいきなりの曲振りにも特に慌てない楽団員、そして曲が始まると同時にツェーンの周りにツェーンの分身であるファントム達が現れ始める。






「わぁ!同じ女の子が増えた!」



「な、なんだあの光は……綺麗とかの問題じゃねぇ……」



「………素敵……」





目で見える演出には概ね好評のようで、観客たちから聞こえて来る声の中に否定的な物は見当たらない。



だが、このまま歌い始めても半数くらいの人達には満足してもらえるかもしれないが、全員が満足する訳では無いだろうと、ツェーンは次の手を開始する。



(…本来、ライブを行う際に場所の許可を取る際に楽団員だけが運営に回るという形で許可を取っている中で、外から応援を呼ぶのは本来禁止の行為……でも、俺が呼んだのは……)




「「「―――“ファントム…ワールド”ッ!」」」






―――――ヒィィィーン……




「「「「「わぁぁぁぁ!!!」」」」」





大通り広場全体が、まるで水中の中のアクアリウム内に入ったかのような光景が映し出され、観客たちはあまりの光景に驚嘆の声が上がる。




(会場の3ヵ所から、ウィスン達がお互いの幻魔法を支え合い、巨大な立体映像を作り出す……いわば大魔法【泥王の怒りポ・セイドン】の幻魔法版がこの【幻想世界ファントム・ワールド】だ)



思考の連結により、広大な範囲を幻の世界で満たし、観客のボルテージも歌い始める前から最高潮。



ここまではツェーンの思惑通り。で、あるならば次はツェーンの本来の仕事である。







「―――――~~♪」






……ライアは、前世では歌などはカラオケが上手い程度のごく一般的な人物であった。



別に、カラオケで100点毎回取る事が出来るほどの歌唱力でもないし、友達などに「おぉうまいじゃん」と軽く賞賛される程度。



世界が認める歌唱の天才たちには到底及ばない差がある。




しかし、この世界に転生して、様々なスキルや新しい身体の性能状態などが重なり、ライアの歌唱力は前世で言えば、世界でも通用する歌手程度の実力にはなっていた。




そんな音楽の溢れる世界で、それだけの力を持つライアが、音楽という物を殆ど知らないこの世界の人達の前で全力の歌唱を披露する。




それは一種の暴力であり……消える事のない衝撃として、皆の心に刻まれる。













世界に今、歌姫ツェーンという伝説が刻まれたのであった。




















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