~閑話、始動ッ!アイドルツェーンちゃん~
―――――輝けッ!世界初のアイドルツェーンちゃん!
――私達の世界には安らぎを与える歌は存在せず、精々が吟遊詩人が紡ぐ物語の歌があるくらいである。
しかし、そんな音楽の世界に一筋の光が差し込んでいるのは知っているだろうか……。
曲に合わせ物語を紡ぐのではなく人の思いに寄り添った歌詞を歌い、その歌に合わせて踊りを披露し、観た者聴いた者全てを虜にさせる魅惑の歌姫。
その名は……
「いやいやいやぁ……カルデルさ~ん……どうしてこんなぁ誇張の激しいポスターを~……」
「む?特に誇張などをしている所は無いと思うが……ツェーンちゃんは我々の奇跡ですよ?」
場所は王都アンファングにある宿の一室。
そこにツェーンと楽団の創設者カルデルがメイクさん達に囲まれながら話をしていた。
「わ、私はぁ別にぃ奇跡でも光でもなくてぇただの人間なんですけどぉ……」
「あっはっはっは!ツェーンちゃんは冗談も上手くて本当にすごいね!!」
「いやぁ……別に冗談でわぁ…」
ツェーンの訴えをまるで理解してくれないまま、カルデルが「それじゃぁこの後のステージもがんばってね!!めっちゃ応援するから!!」と部屋を出て行ってしまい、ツェーンはメイクさん達に囲まれながら呆然としてしまう。
(……カルデルさんは別に悪い人ではないのはわかってるけど……暴走する所は何とかしてほしいんだけどなぁ……)
実は今現在、ツェーン……というよりも、ツェーンが所属するカルデルが創設した楽団が王都にいるのは、先程のカルデル本人が「そうだ!ツェーンちゃんの歌声を王都の人達にも聞いてもらおう!!」と暴走し始めたのが原因である。
といっても、他の楽団員も全てツェーンのファンである事から、カルデルの考えに賛同して行って止められなくなったのも理由ではあるが…。
とまぁそんなわけで、ツェーンはリールトンの街で度々行われていたライブを王都で開催する為、あれよあれよという間に王都に連れて来られてしまったのだが、そこで新たな問題が発生した。
それが先程カルデルと話していたポスターの件である。
(なんですか音楽の世界に一筋の光って……全ての人を虜にって……ハードルが高いとか以前の問題の様な気がするんですが!?)
そう、王都に着いてからカルデルが「ライブはもう少し先を予定していますので、ツェーンちゃんはゆっくり休んでいてください!」と言われて、その通りに自分の部屋でスキル練習などをしている間に、あんな謳い文句のポスターを街の至る所に張られていたのだ。
しかもその事実に気付いたのが、ウィスン経由であり、ライブの3日前とかなり直前に気付いたせいでカルデルとすぐに面会できずにライブ当日になってしまったという訳である。
「はぁ~いツェーンちゃん?髪型はこんな感じでいいかしら?折角の大舞台ですもの、気合を入れてセットしたわよー!」
「お、大舞台……」
メイクの女性のセリフで、今回ライブを開催するステージの規模を思い出し、少しだけ呆然とする。
どれほどの規模かと言われると、王都のど真ん中にある大通りを一部完全封鎖して、王城の近くにある大通り広場にてライブをすると言われれば、どれほどの規模か想像できるであろうか?
この国最大の町のど真ん中で、特に実績がある訳でもなく、財力なども殆どない楽団がなぜそんな大舞台を用意できた事にも疑問だが、何よりも文句を言いたい事が1つある。
「……私……昨日までぇどこでライブするのか……聞かされてなかったんですよぇ~…」
「………………ツェーンちゃんなら大丈夫よ!!」
そう、何とこの楽団に所属する誰もがライブ当日までどこでライブをするのか当事者に話してこなかったのである。
なんだったらどこでライブをするのかはウィスン経由で知ったし、あまりにもデカい規模のライブ会場をなぜ、教えてくれなかったのかとカルデルに聞けば「大きいかな?まぁでもツェーンちゃんの歌声には見合わない大きさだから、寧ろ小さいステージでごめんね!」と言われ、こいつ大丈夫か?とリアルで心配をしてしまった。
他の団員達にもそれとなく話を振れば、似たような反応ばかりで、一種の洗脳状態になっているのでは?と少しだけ恐ろしくなってしまった。
……とまぁそんな不安要素なり、恐怖体験もあるのだがそれは一旦おいて置くとして、今気にするべきはライブにどれだけの人が来て、どれほど満足させられるかの問題である。
さすがにリールトンの街である程度ライブには慣れてきたとはいえ、いつもの周りがファンばかりの環境とは違うし、何より規模が違う為、いつも通りの歌を歌ってそれだけではダメな気がするのだ。
幸い、楽団が出来てからは楽器の演奏者が居てくれて、曲に関してはダイブ前世に近いクオリティにはなっているのだが、ファンでもない大勢の人達にそれだけで満足させられるかと言われれば否だとツェーンは考える。
(……他にも色々と変えなきゃ大失敗する!どうにかしないと!!)
つまりは他の能天気な団員達に代わって、ツェーン自身が自分のライブの演出を変えるしかないという結論にたどり着く。
(……基本カルデルさんは歌とか幻魔法の演出なんかは自由にさせてくれてるし、何か演出を変えるのは問題は無い……だけど、何を変えれば…?)
これまでのライブは、ツェーンの歌と団員達の楽器演奏、それに幻魔法でツェーンの分身を作り出してバックダンサーとして踊らせる位で大盛り上がりだったりする。
(変えれそうなのは……幻魔法の部分と……ツェーン自身…?……はッ!!)
色々と考えを巡らせるツェーンの脳裏にある答えが思い付く。
「アイドル衣装が要るッ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます