~閑話、リネットとライアの初デート後編~










「今日は新しい屋敷で使う家具、椅子や寝具などを注文しに行く予定ですけど、ライアは他に行きたい所などはあったりするです?」



「そうですね……食器類や家事に使う道具なんかはセラ達が買いに行くでしょうし、向こうで使う錬金術道具なんかはもう注文してるんですよね?」



「婚約話が決まってすぐに注文しておいたのです!」




工房を出発し、家具店や色々なお店が立ち並ぶ大通りに向かって歩いて行くと、リネットがそんな事を聞いてくる。



一応、家具を買いに行くという題目で来ている訳だが、実質今の状況はいわゆるデートと言っても過言ではない。



リネットもその事がわかっているから、予定以外に行きたい所はないのかと質問してきているのであろう。



(……いつも錬金術ばっかりのリネットさんが俺とのデートをちゃんと考えてくれているんだ……俺もきちんと考えないと!)




実は、今日のリネットの装いも普段のフード付きマントではなく、青のブラウスに白いスカートという女性らしい服装を纏っていて、リネットが今回の買い物をデートだと認識しているのは明らかだ。



そんなリネットの姿を見て、ライアは「買い物が終わったらそのまま帰りましょう」はさすがにダメだとわかる。




「……もしよかったら、本屋とかにも行ってみませんか?開拓地に向かう間の暇つぶし用の本なんかもあってもいいかもしれませんし」



「おぉ!それはいいですね!工房にある資料なんかは全て読みきっていますし、新しい錬金術の本なんかも探したいのですよ!」



「では決まりですね」




どうやら本屋という選択は間違っていなかったようで、リネットはとても嬉しそうにして、ライアの考えに乗ってくれる。




(なんだかんだ言いつつ、リネットさんは≪錬金術≫一筋だからね……知識を深めるって意味じゃ本は正解だね)




そんな会話をしながらライア達は2人(3人)で歩いて行く。















「「「「いらっしゃいませ」」」」



(おぉ……やっぱここでもか…)




大通りを歩いて来たライア達は、リネットの案内で大きな商店の前まで連れて来られる。



外観からどう見ても高級志向な貴族向けの店なのはわかっていたので、店に入った瞬間のお出迎えにも特に表情を変えずにいられた。




「お客様、本日はどのようなご用向きでしょうか?」



「今日は新しく開拓されるボク達の領地に建てる屋敷の家具を注文しに来たのですよ」




リネットは話しかけてきた店員に特に物怖じもせず、今日ここに来た理由を話す。





「開拓領地……もしやライア・ソン・インクリース様とリネット・リールトン様でいらっしゃいますか?」



「私達の事を知っているんですか?」



自分の名前が呼ばれた事で驚いてついそう聞いてしまうライア。



「えぇ、新しい領地の事はついこの間情報が回ってきまして。その時にインクリース様方の事をお聞きした次第ですね」



アイゼルの話では特に領民に話を流しているとは聞いていなかったが、別に口止めもされてはいなかったので、情報を知る騎士や王都の人達から情報が回って来たのだろうと推測できる。



「そんな今話題のインクリース様方の新しいお屋敷の家具を我が商店でお買い求められるのであれば、大変名誉な事でございます。さぁさぁこちらへどうぞ!ご案内いたします」



「は、はぁ……」



如何にもテンションが上がっている店員にあれよあれよという間にVIPの部屋らしき場所に連れて行かれる。



VIPの部屋らしき高級感溢れる部屋の中には、家具が幾つか置いてあり、部屋の中央付近には人が座って会談するスペースらしき場所もあり、ライア達はそこのスペースに案内される。




「こちらのお部屋は家具のオーダーメイドを取らせていただくVIPルームになっております。あちらの家具で欲しいと思っていただけるものがあればそれも良し、こちらのカタログに記載されている家具なども自由に読んでいただいて構いませんので、満足の行く家具を選べる仕組みになっております!」



「あ、ありがとうございます……」



店員の熱意に押されつつ、テーブルに置かれているカタログらしきものを手に取り、中身を拝見させてもらう。




「……へぇ…全部写真……絵が付いてるんですね…」



「はい!その家具がどのような形なのかをきちんと把握してもらえるように職人に依頼をして全ての家具に絵を付けさせてもらっております……この部屋には入りきらない量の種類がありますし、そもそも部屋の中に運べない程大きな家具もございますから、こういった配慮は不可欠でして」



「おぉぉ!ライア!このテーブルめちゃくちゃ綺麗なのですよ!」



テーブルに座りつつカタログを見ているライアとは違い、部屋に置かれている家具を見て回るリネットは、大理石の様な石で出来たテーブルに興奮しているようだ。




「このカタログの中の家具なんかを注文すれば、向こうの領地に届けてくれたりするんですか?」



「はい、カタログの商品だけではなく、展示されている物やカタログの物よりも小さいものだったり大き目の物だったりとオーダーメイドしていただいたものもきちんと配送させていただきます」



「なるほど……」



どうやら大きさや細かいデザインなどもオーダーメイド出来るらしいし、めちゃくちゃ大きいものなどを注文してもきちんと配送サービスは付いてくれるらしい。



大きさの問題などは特にないらしいのだが、馬車の大きさや馬車の数で配送料金が変わるらしいのだが、そちらは料金の問題だけなので別に気にしなくてもいいだろう。




「ん~こんだけ種類があると、結構迷いそうですね……」



「……インクリース様はリールトン家のお嬢様とご結婚されるのですよね?」



「え?は、はい……そうなりますね……」




いざ店員にそうまっすぐ聞かれると、少しだけ照れに近い感情が沸いてくるが、別に悪い事でもないのだし、否定などはせずにきちんと言葉を返す。



「でしたら、最初の家具などは全て出来るだけ2人用の物……というよりも2人が一緒に使える大きさの物の方がよろしいかと思いますよ?」



「……どうしてですか?」



「お貴族様のご結婚の際、きちんとお2人の中が進展するようにと比較的ペアの物が買われる傾向にございます。ソファーも2人で一緒に座れる大きな物、逆にテーブルなんかは2人の距離が開かないように少しだけ小さい物をご用意して、お2人の間にきちんとした恋愛感情が生まれるようにするのです」



「うぐッ……恋愛感情……」



どうやら店員の言う話は、比較的政略結婚の多い貴族達の話らしく、政略結婚後に碌に顔合わせすらしていない2人をくっつける為にそう言った対策がされているという話らしい。



こう言った話は少しデリカシーにかける気がするが、政略結婚とはお互いの家との繋がりを強める意味合いが強く、出来る事ならば夫婦仲はいい方がいい。



つまり……



「お二方のご子息がすぐにでも誕生できるように、そう言った気遣いなどは大事なのだと思っておりますよ?」



(子供ッッ!?)



店員は必要な事だと割り切っている為普通に話しているが、ライアにはそう言った話は暫く触れていなかった為、何とも言えない感情に苛まれてしまう。




「……」チラッ…



「おぉぉ…こっちのソファーに使われている布地もいい手触りなのですよー!」



ライアはつい、リネットに今の話しを聞かれていないかと心配になってしまい、リネットの方を確認するが、どうやら家具に夢中であったらしく、特に反応は無かったようだ。



「……すみません、突っ込んだ話をしてしまって。ですが他のお貴族様の情報などが家具選びのヒントになればと思いましてお伝えいたしましたので、ご活用していただければ幸いです」



「……どうも…」



ライアは恥ずかしい気持ちがいっぱいになりながら、店員にそう返事を返すとにんまりと良い笑顔を浮かべる店員に少しだけイラっとした感情が生まれる。



(……絶対この人、腹黒い人だ……それかドSの人だ!)



ライアは店員に心の壁を作りながら、リネットと一緒に家具選びを進めて行くのであった。












―――――――――――

―――――――――

―――――――









「「「「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております!」」」」




家具選びは時間はかかったが順調に選び終わり、お昼を少し過ぎたぐらいで買い物は終了した。




「はぁぁぁ……」



「大丈夫です?ライア」



ライアは度々店員との死闘(ライアが勝手にそう思っているだけ)を制し、やっとのこと店を出る事に安堵したのか、思いっきりため息を吐く。




「いえ、大丈夫ですよ……それよりも、リネットさんは疲れていませんか?」



「ボクは特に大丈夫ですよ?家具の注文も殆どライアがしてくれましたし!」



「それは良かったです」




ライアは店員とのアレな会話を聞かれなかった事に安堵しつつ、リネットが元気な様子に嬉しそうに笑みを溢す。




(……なにか色々と恥ずかしい思いもしたし、失う物も結構あったような気もするけど、寝具を何とか2つ買う事は出来たんだ……俺は頑張ったよ……)



実は、店員と寝具の話になった際に『ベットは2人共通のキングサイズお一つでよろしいかと……もしくはよりくっついていられるようにもう少し小さいサイズを…』などという話にもなったのだが、そこは断固として2つのベットを買うのだと主張して、勝利をもぎ取ったのだ。



(もしも同じベットなんかを注文してたら、俺はヤバい奴だし、リネットさんに相談なんて出来る訳もないんだ……本当に助かった……)



ライアは疲れと安堵のため息を再度漏らすとリネットが近寄ってくる。



「……ライア?そのぉ……」



「はい?どうしたんです?」



















「ボクは……別に同じベットでも構いませんからね?」




「……へわッ!?」




リネットはライアにだけ聞こえるように小さくそう言うと、恥ずかしそうにそっぽを向きながら、ライアの先を歩いて行く。





(き、聞かれてたのかぁぁぁぁぁ……!)





ライアは恥ずかしさのあまり、その日はまともにリネットの顔を見る事は出来なかったのだった。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る