~閑話、リネットとライアの初デート前編~









――――――リネットとのお買い物





「買い物……ですか?」



「はいです。新しい屋敷はまだまだ出来ないと言っても、ボク達は開拓民さん達と一緒にリールトンの街を出発するので、前もって家具や新しい屋敷で使う物を買わないといけないのですよ」



「なるほど」




ライアが王都から戻って来て暫くした頃、リネットがそんな事を言ってきた。



リネットの言い分もわかるし、言われてみれば必要な事だというのはすぐにわかった。



なので、家具や色々な物を買う事には賛成なのだが……




「でも、どうして俺とリネットさんの2人で行くんですか?家具はいいとしても食器なんかも買うのであればセラ達も連れて行った方がいいのでは?」



「……一応、ボクもそう思って誘ってみたのですが……『私達の事は気にせず、お2人の時間を大事にしてください!!』と気を使われてしまったのですよ……」




「………なるほど…」




どうやらセラ達は、この機会にライアとリネットにデートをさせたかったらしく、ライアとリネットの間に何とも言えない沈黙が落ちる。




「……食器や掃除道具なんかは別日に買いに行くと言ってたので、ボク達は自分達で使う家具を選んでくればいいと言われたのですよ…」



「そ、そうですか……なんかセラ達がすいません……」



「ふふふ……別にライアが謝る事ではないのですし、別に嫌な事でもないので問題は無いのですよ」



「それもそうですね」とお互いに少しだけ通常の雰囲気に戻って来た所で、あんまり気にしても自分達らしくないだろうと、お互いに思ったのかそこからは普通に話を続ける2人。




「それじゃ明日にでも街に買い物にでも行くのです?」



「そうですね……ではリグやパテルにも明日はお休みだと伝えておきましょうか」



「お願いするのですよ!」




ライアとリネットは明日は買い物しに行く事を約束を交わし、工房の後片付けを進めて行くのであった。












――――――――――

――――――――

――――――










――――翌日




朝、ライアは目が覚めてから、いつも工房に向かう時よりも少しだけ早くに部屋を出る為に準備を素早く済ませる。



いつものように肌の手入れと薄く化粧を施そうと化粧台の前に座る。



「………デート……か」



化粧台の前に座ると同時に昨日のリネットとの会話で出て来た“デート”の言葉を思い出し、少しだけ手が止まる。



(……さすがにデートの時は男装の方が良かったりするのかな…?いや、恐らくリネットさんはどちらでも文句とかは言わないだろうけど、さすがにマナーとして……って、別にデートって言うかただの買い物だし……うーん…)




ライアはある意味初めての女性とのデートにどのような装いをしていくのがいいのかと思春期特有の悩みに頭を抱え、普段は自分の顔には似合わない男性の服を着ようかと悩んでしまう。



しかし、昨日の時点ではリネットとライアは“デート”という部分に対しては特に肯定しておらず、ただ二人で買い物に行くだけだと結論付けている。



故にこれはデートではないのだ!と思う考えと、2人きりで買い物?それデートじゃん。と思ってしまう自分もおり、余計に頭を悩ませてしまう。




(うーん……自分で言うのはアレだけど、素の俺の姿はどう見ても女の服装の方が似合うし、男の服はぶっちゃけ似合わない……ただ女性とデートするって言うのに女性の恰好で行ったらただの女の子同士のお出かけだしなぁ……)




1年前からリールトンの街に来て、様々な人から容姿を褒められたり、色んな男性から告白をされたりしているライア(全て断っている)は名実ともに自身の容姿が女性よりなのはよくわかっているし、ぶっちゃけ化粧もせずにズボンスタイルの服装をしていても男性に見られる事はないとわかっているので、それもあって悩んでしまう。




「……よし……」



ライアは化粧台の前で、何かを決めたような顔をして、止まっていた手を動かし始める。

















「そ、それで……オシャレな男っぽいライアと……とびっきり気合の入った女性服の……ライアの2人になった訳ですか……プフッ」



「……笑い飛ばしてください……」



待ち合わせ場所である工房の前には、髪を後ろで束ね、上は黒の無地シャツに白の薄いカーディガンを羽織り、暗めの紺色のパンツを着た見ようによっては男の子に見えるかも?と思われるくらいのライアと。

紅い綺麗な髪をハーフアップで軽く後ろに纏めた髪を軽くカールさせ、如何にもお姫様っぽい髪型、そして男っぽいライアと対になっているかのような真っ白のタートルネックに透けるほど薄いストールを首に巻きつかせ、下はひらひらとたなびく黒のロングスカートという清楚に見せつつ、気品身溢れる女性姿のライア2人がリネットを待ち構えていた。





なぜライアが2人いるのかと言えば、ライアが少しばかり頭を働かせすぎたのか『よし、どっちでも対応出来るように、男性服姿と女性服姿のライア2人で行けばいいか!』と考えてしまった結果だったりする。




リネットはその話を聞けば、さすがにライアの空回りっぷりが面白かったのか、肩を震わせて笑いをこらえている。




「い、いや、ごめんです……ライアがそれだけボクとのデートを考えてくれたって事ですから素直に嬉しいのですよ?」



「……あ、はい……」



リネットの口からはっきりとデートと言う単語が出て来て、少しばかり動揺してしまうが、リネット自身は嬉しそうに笑顔を浮かべていたので、失礼をしたとかは無さそうだと安心する。




「まぁ今回はライア2人とボク1人の変則型デートなのですが、それも楽しんでいくのですよ!」



「え?どちらか選んでくれても……」



「さぁ行きますよライア!今日は沢山買い物しちゃわないとなのですから!」




ライアの言葉は聞こえていなかったのか、リネットはさっさと歩きだしながらライア2人を呼ぶ。



ライアは分身体を1人出して置けるのだし「ま、いいか」と考えるのをやめ、リネットの後を追うべく、足を進めるのであった。


















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