~閑話、(ライア君が居)ないのであれば、(私が会いに)いけばいいじゃないの!の小話~









―――――――ストーカー娘リターンズ







最近、ヤヤ村の中で俄かにわかに噂になっている事があります。



まぁ噂と言っても近所の奥様方が井戸端会議がてら話している内容を聞いたに過ぎないのですが、どうやらライア君の家の人達が全員ヤヤ村を出て、新しい街かどこかに引っ越しをするらしいのです。



もし仮に、その噂が事実だとしたら一大事であると考えた私は、とある集会を開く事にしたのです。




「……という訳で、今回集まってもらったのは麗しのライア君が手の届かない観察どこか遠くに行ってしまう危機をどうにかしようと考えた末にお呼びしました!」



「………リンちゃん……噂でライア君のストーカーをしているとは聞いていたけど、どうやら本当だったんだね…」




私の発言を聞いた村長が呆れたような顔を私に向けてきますが、ライア君が居なくなってしまうという一大事故に、ひとまず気にしない事にします。




今回この村長の家に集まってもらったのは、八百屋のせがれであるカールとヤヤ村の村長であるゼストンと比較的ライア君と交流のある2人に集まってもらっていた。




「えぇっと……俺はどうしてここに呼ばれたんだ?俺は別に、ライアちゃ……ズィーベンさんとは野菜を卸してもらってるだけだし、それほど交流がある訳じゃないんだが……」



「何言ってるんですかカールさん。あなた、ライア君が男だとわかってからも淡い恋心を抱いているのはわかっているんですよ?……初恋は忘れられない物ですよね」




「ぐふぅッ!!??」




私の指摘に、カールさんが図星を指されたかのように息を吹き出します。



実はこのカールという青年は数年前まで、ライア君の事を女性だと信じ切って恋をしていたらしいのですよ。



ただ、一時期ライア君が恐らくスキルで姿を変えたズィーベンさんという名前のライア君が現れた事で、色々とライア君の情報がカールさんに流れ、本当は男性だという事がわかってしまったらしいのです。



当時、ライア君が男だと人伝に知らされ、ひどく落ち込んでいたカールさんでしたが、何時までも落ち込んでいるのは男らしくないと立ち直ったようでした。



しかし、本人は必死に隠しているようですが、八百屋に野菜を卸しに来たズィーベンさんを見る目に熱が籠っているのは一目瞭然だったので、奥様達の噂話のネタにされているのですが、そちらは黙っておきましょう。




「まぁそんな実らない恋の事はいいのよ!それよりもライア君の事です!」



私の後ろで小さく「実らない…恋…」と項垂れているカールさんは放っておいて話を続けましょう。



「私はライア君が見れなくなるのが嫌なのよ!どうにか出来ないかしら?」



「そんな事を言ってもね……私は村長からの立場から言わせてもらうと、この村に留まってくれた方が嬉しい」



「でしたら!「だが」……だが?」



村長は私と同じく、ライア君達がこの村に留まる事に賛成派なのだと思ったら、私の言葉を止めて強い意志の篭った顔をこちらに向けてきます。




「ライア君と小さい頃から交流のある私個人の意見としては、潔く見送ってあげたい気持ちの方が強いんだよ」



「……村長……」




私は村長の表情を見て、村長を説得するのは不可能だと悟り、小さくため息を漏らしてしまいます。




「はぁ……ライア君と一番交流している村長であれば、ライア君の美貌を見れなくなる事に絶望していると思っていましたが……ライア君の幸せを願う側の人間でしたとわ……残念です……」



「……えぇ……100歩譲って美貌やら絶望のくだりは無視するにしても、ライア君の幸せを願う側って……リンちゃんはライア君の幸せを願ってないのかい?」



「私の行動理念はライア君を見て悦に浸る自分本位の本能によるものですので!」



「肉食系の極みみたいな事言ってるけど、ただのストーカーだからね?」




今更ストーカーがどうとか言われてもそこらへんの葛藤は小さい頃に卒業済みですので、いくら言われてもやめる気はないのですわ!



しかし、村長が手伝ってくれないとなると、ライア君のヤヤ村お引越し阻止作戦は根本から出来なくなってしまう。




ライア君を今後観察出来なくなるのは、私の人生観的にも栄養的な意味合いでも絶対にNOなのよ…!



でも、どうすれば……。




「……リンちゃん……一つ確かめたい事があるのだが、聞いてもいいかい?」




「…?なんでしょう?」




「リンちゃんはライア君と離れ離れになるのは絶対に嫌かい?」




村長はいきなり真剣な表情になると、私へ何かを確認する為なのか質問をしてきます。




「はい!もちろんです!」




「……それは君自身が、この村を出る事になってもかい?」




「ハッッ!?」




村長のその言葉で、私に何を伝えたいのか瞬時に理解し、私は迷う事無く自分の思いを口にする。




「ライア君を今まで通りストーカー出来るのであればッ!!私は一人でもこの村を出る事に迷いなどありませんッッッ!!!」



「あ、うん……もう少し言い方をどうにかしてくれれば良かったのだが……はぁ……」



「???」



私の宣言を聞いた村長は何か不満でもあるのか、疲れたような顔で小言を漏らすが、私にはよくはわからなかった。




「ふぅ……まぁわかったよ。そこまでの意思があるのであれば、ライア君達の引っ越し先を教えよう」




「!!!ありがとうございます村長!!!」





私は思いもよらなかった新たな選択肢、ライア君が引っ越すのであれば自分もそれに付いて行くというストーカーの本分でもあるような考えに至り、その案を教えてくれた村長に最大の感謝を伝えるのでした。












「……あれ?俺って本当になんで呼ばれたの?ただ人の恋心を踏みにじられただけなんだけど……」






私と村長がライア君の引っ越し先の事を話している時に、後ろの誰かが何か喋っていたような気もしたけれど、勘違いだろうと気にしない事にしました。












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