~閑話、セラ日記、ミオンとヴァーチェの小話~













―――――――ミオン・エルゼスの場合





「あぁもうアンジェにエル?出された食事を残すなんて失礼ですよ?野菜もきちんと食べてください!」



「「うえぇ……」」



「うえぇじゃありません!……エクシア!食事中に寝ぼけると喉にフォークが刺さりますよ!」



「んがッ…?」




私の目の前には、好き嫌いで食事を残す子や食事中に二度寝をかまそうとしているエクシアさんの事を注意して回る女性が居ます。



名前はミオン・エルゼスさんと言い、歳は私より1個上でこれまた私と同じ元男爵令嬢のお姉さんです。



性格はとても真面目な方で、使用人の仕事に関してもライア様のお役に立つ為だ!と人一倍一生懸命に取り組まれていて、頑張り屋さんです。




「あぁほらアル?口にソースが付いてますよ?」



「んぐッ……あ、ありがとうございます」




そんなミオンさんですが、基本子供には甘いのか、比較的庇護欲をそそられるアルさんの事を殊更世話を焼く事があって、今も口元のソースをミオンさん自らふき取るという、アルの姉であるエル以上にお姉さんをしている事がしばしばあります。




「あぁ!ずるいー!ミオンさん私も甘やかして―」



「そうデスーワタシ達にも優しサがホシイですヨー」




「エルはお野菜を食べたくないだけでしょう?優しくしてほしかったらきちんと好き嫌いせずに食べなさい!……アンジェ、あなたは私の一個下でしょう!?もう少しきちんとなさい!」




……お姉さんというよりはお母さんと言った方がピッタリな気もしますが、私の一個上の女性に対してお母さんは可哀想なので、気にしないでおきます…。





「ほら!皆ももうすぐお仕事の時間なんですから、急いで準備をしますよ!」




「「「「はぁーい」」」」














―――――――ヴァーチェの場合






「ふっ……ふっ……ふっ……ふッ!」



「121……122……ふあぁぁ……122……ん?……123」




場所はリールトン伯爵家の屋敷内で使用人達が比較的自由に使ってよいとされている裏庭。



そこで腹筋を鍛えようと眠気眼の女の子を足の重りにして、上体起こしを行う女の子が居ます。




「ふっ……ふっ……ふっ……ふっ…」



「128……129……あ”ぁ”ぁ……120……121…」




「……ヴァーチェさん…恐らく貴方は一生終わらない筋トレをしていると思うのですが………寧ろよく100まで行けましたね……」




上体起こしで腹筋を鍛えるマッスルウーマンことヴァーチェさんに、計測係であるエクシアがきちんと回数を数えていない事を指摘する。




「…ふっ?あれ?セラさんじゃないっすか!こんちわー」



ヴァーチェさんは私の指摘に「あぁ、こんな風に回数を増やされると筋肉を追い込めて助かるんですよ」と問題はないと言い放ちますが、ついこの間休みの日に丸一日筋トレする羽目になった事を忘れたのでしょうか…?



……いや、そもそも丸一日やっていて途中で筋トレを止めないヴァーチェさんには問題ないのかも知れませんが…。





「こんにちは、今日も筋トレですか?」




「はい!今日みたいな日差しのいい日はお外で筋トレすると気持ちがいい汗をかけるんですよ!それに筋トレ終わりに食べるご飯はめちゃくちゃ美味しいですから!」




「そう……ごめんなさいね……裕福な生活をさせてあげれなくて……」




「それは別にセラさんの所為じゃないって話したじゃないですか?ウチは気にしてませんから大丈夫ですよ!」




私の言葉にヴァーチェさんは陽気な笑顔を向けてくれて、私の胸のシコリを少しばかり取り払ってくれる。



実はヴァーチェさんは元々、私の生家であるジュークス男爵家の領地であるバートの町出身なのです。



それだけならただ同じ領地出身であるだけなのですが、私の両親であるジュークス家はフェンベルト子爵にヤバい薬を買い、色々と正常な判断が出来なくなった所為で、領地であるバートの町の経済がかなり悪くなっていたのです。



今はライア様が王国に報告していただいたおかげで、バートの町は少しずつ元に戻っているようなのですが、それでも完全には戻ってはいない状態なので、バートの町出身のヴァーチェさんには申し訳ない気持ちで一杯なのです…。




「ありがとうございます……何か私に手伝える事があれば何でも言ってくださいね!」



「おぉ!ホントですか!なら、腕立てをやる時に少し背中に乗ってくれないっすか!?……どうもエクシアだと軽すぎて重りにならないというか……セラさんであれば十分なおも―――」



「私は重りになんか適して太ってなんかいないですよぉぉぉッッ!!!」




「りに……あ」




私は走りました……ヴァーチェさんの言葉にショックを受けた訳ではありませんし、ヴァーチェさんに何かをしてあげたい気持ちもありますが……なぜかあのままあそこに居れば私は暴力を振うと瞬時に理解して、その場から走り出したのです……決して、ダイエット目的で走り出したわけでもないので、勘違いはしないでください。





「………あぁ…と?」




「……ヴァーチェ……罪な女ね……」




「うぉお!?エクシア、起きてたのか……罪ってなんだ?」




セラが走り去った裏庭では、話に入り込んで来ずに眠っていたであろうエクシアとセラがなぜ逃げ出したのかよくわからないヴァーチェの何とも締まらない会話をしていたようだが、エクシアは特に何も言わず昼寝に戻り、ヴァーチェは考えてもわからない事はしょうがないと筋トレに戻るのであった。










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