~閑話、スキルは踊り、パテルは戸惑う…そんな小話~
――――――新スキルの活用術
「……ふッ…ふんッ…」
「少しだけ腕が落ちてるよー」
先日、ライアが国王から男爵の貴族位を叙爵して数日、錬金術師達の【報告会】が始まるまであと数日という所まで迫っていたのだが、この日は特にやる事もなく、リールトン伯爵家から借りている部屋でパテルとスキルの訓練をしたり、話をしたりと暇を持て余していた。
「……そう言えば街中で≪嗅覚強化≫が発動して、色々と匂いに敏感になってたんだけど、パテルから汗臭さが全くしないんだよね……パテルってもしかして汗とかかかない人?」
ふと、正拳突きの型を確認しているパテルから、訓練特有の汗の匂いが全くせず、エルフは汗をかかないのか?と不思議に思い、質問してみる。
「……いや、そんな事は無いが……臭かったりするか…?」
「え?いや、だから臭くないよ?」
パテルは汗臭くない事が疑問になっているというのに、自分の服をつまみあげて匂いを嗅ぎながらそう尋ねて来るが、寧ろなぜ毎日鍛錬をしていて汗臭くならないのかを聞きたい。
「……そうか……臭くないか………。俺は特に汗っかきという訳では無いが、普通程度に汗もかくし、森の皆も普通に汗をかくぞ……」
「そっか……それじゃもしかしたらエルフ一族の汗と人間の汗の成分が違ったりするのかな?そこらへんあんまり詳しくないけど……」
「……汗の……成分…?」
パテルはライアの独り言に近い呟きが聞こえたのか、不思議そうな顔でこちらを見て来る。
この世界には科学式なんてものはまだ存在せず、精々が薬物関連で【〇〇と〇〇を混ぜれば薬になる】程度の知識しかないので、ビタミンや脂質などの存在を知らない。
その代わりと言えるのかはわからないが、魔法技術である≪錬金術≫の薬学や魔道具学という前世の日本にはあり得ない物が存在しているが、そちらは別に触れなくていいだろう。
「成分って言うのはその中に含まれている栄養の事だよ。まぁ俺もそんなに詳しくないし、考えてもどうしようもない事だから気にしないで!」
「……(栄養……飲むのか!?……汗を??……ライアの汗……)……ッッ!?ち、ちがう!!」
「え!?なにが!?」
ライアがうる覚えの知識を披露する訳にもいかないとパテルに言い繕うと、いきなりパテルが慌てだすが、パテルも「な、何でもない!!」と力強く拒否されたので、もしかしたら成分の事を詳しく言わなかったので仕返しされたのかも知れない。
「う、うん……まぁいいけど……。あ、汗と言えば……≪体液操作≫!」
パテルの慌て方に少しだけ首をかしげてしまうが、成分の事を掘り下げられてもアレなので、汗関連から≪体液操作≫を使用し、手のひらに手汗を少しかかせる。
「この≪体液操作≫だけじゃないんだけど、この間習得した新しいスキル達の使用方法に関してパテルに伝えたけど、さすがに深爪対策や汗防止だけの理由じゃアレだし、パテルは何か他の使い道とかって思い浮かんだりしないかなぁ?って思って」
別に新しく取ったスキルが、美容関係としてしか使えなかったとしてもそれはそれで構わないのだが、他にも活用法などがあればそれは嬉しいので、何となくその話題をパテルに聞いてみた。
「……手汗……あ、いや!スキルの活用法だな?……そうだな……あまり詳しくは無いが≪体液操作≫は体に含まれる液体を操作する物なのだろう?怪我をした際に止血などが出来るのでは?」
パテルはライアの手のひらをじっと見つめて、ライアが話しかけると驚いたようにそう伝えて来た。
「ん~……出来なくはないだろうけど、実際にこのスキルを所持した人の大部分がそう言った使用をしていると思うんだけど………」
「……だけど?」
「いや、俺って分身体に戦わせるから怪我とかあんまり関係ないんだよね……?一応俺自身が大怪我する可能性もあるから覚えておいた方が良いとは思うけど……」
ライアの分身体は基本、その分身体の体が致命傷にでもなれば勝手に消滅してしまう仕様なので、よっぽどの大怪我を負う状態になった時には分身体は消滅してしまう。
それにライアがリールトンの街に来てからは、火竜やダンジョンの魔物達と幾度とない戦いをして来たが、ステータスの所為か今までで怪我と言った怪我はしておらず、精々がかすり傷のみなので、イマイチ止血能力に魅力を感じないのだ。
「……あぁ……そう言われれば……そうだな…」
「ちなみに≪伸爪≫の一般的な使用法は孫の手代わりらしいけど……」
「…………」
スキルを調べていた時に同じ本に書かれていた使用法をパテルに伝えれば、何か悲しそうな表情を浮かべる。
「まぁそんな顔しないでよ!そのうちいい使い道が浮かぶかもしれないし……あ、そういえば」
「………?」
ライアは何かを思い出したかのように、荷物を置いている場所に向かうと、何やら小さい小瓶の様な物を取り出す。
「ちょぉっと待っててねー」
そう言うや否や、ライアはパテルに背中を見せて何やら手元で何かをし始める。
「……ライア?」
「これでぇ……出来た!」
時間にすれば数分も経たずにライアは作業が完了したのか、両手をパテルに見せないようにしながらこちらに振り向いて、近くに寄ってくる。
「じゃぁーん!」
「ッッ!?!?……な、なんだ?毒か?指が黒く……」
「あははは!指じゃなくて爪がだよ!面白いでしょ?この間露店で売ってた“塗爪”っていうのなんだけど……まぁ言っちゃえば黒のマニキュアだけど」
パテルに披露したライアの爪は、3センチ程≪伸爪≫で伸ばされ、全体が真っ黒のマニキュアでコーティングされ、この世界ではあまり見ない手をしていた。
「……マニキュア…?」
「塗爪って名前が基本らしいし、マニキュアは俺が知ってる方の名前だから……元々手作業の多い職場で爪の荒れや手先の汚れを隠す為の物らしいけど、俺は爪にオシャレで色を塗るってイメージで塗ってみたんだ。まぁトップコート?とか別の色も無いし、オシャレとは程遠いかも知れないけど」
「……そう、なのか?」
前世の記憶があるライアでさえ光沢が無い塗爪はオシャレ感がまったく無く、あまり納得のいく出来ではないが、特に気落ちすることなく話し続ける。
「そうなんだよ。だからこのままじゃオシャレとして≪伸爪≫を活用できないから、新しい領地に行ったら別の色の塗爪の開発でもしてみようかなって」
「……え?≪伸爪≫を?」
ライアの言葉に≪伸爪≫を活かす活用法を探すのではなく≪伸爪≫を化粧の役に立たせる為に新たな物を開発するという些か順序が可笑しい発想にパテルは戸惑う。
「そしたらもしかすれば……≪体液操作≫も香水なんかで役立てれたり……?あれ?結構良さげかも?」
「………」
てっきりパテルはライアが新しいスキルを戦闘の事などに活用したいのだと思っていたのだが、どうやら勘違いだったらしく、ライアは新たな美容関連の思い付きで胸を躍らせている姿に何となく呆れの思いと、ライアはこういう奴だと安堵のため息を漏らす。
「あ、パテル!今度俺がどんな匂いか嗅いで欲しいだけど!」
「………すみません……」
「あれ!?もしかして臭い!?」
ライアは数分前のパテルと同様、服をつまみあげながら自分の匂いを嗅いで確かめる姿は何とも言えないダメそうな雰囲気を感じさせていた。
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