~閑話、5歳になったプエリの小話~後編
『≪武王≫ですか……かなり珍しいスキルでとても強力な戦闘スキルなのですよ』
『やっぱり強いんですね』
村長の家を出て、プエリのスキルを確かめてみようという事になり、いつものごとく畑傍の空き地に来ていた3人。
その空き地に到着する前にリールトンの街の工房で、ライアはリネットに≪武王≫の事を尋ねれば、どうやら存在は知っているらしく、≪武王≫の事を教えてくれる。
『このスキルは≪剣術≫や≪盾術≫、≪棒術≫に≪槍術≫と言った武具を使った攻撃方法に上乗せ効果が入るスキルなのです。昔の≪武王≫所持者で≪剣術≫を極めた【剣聖】という方が居たのですが、その方は竜種の首を一閃し、一撃で倒される程の剣技に優れ、その方に切れぬ物はないと言われる程だったらしいのですよ!』
『剣聖ですか……』
これまたファンタジー物で良く登場する【剣聖】、そんな如何にも強そうな人と同じスキルであるプエリに少なからず期待に似た興奮らしき感情が沸いてくる。
『まぁその剣聖も無理な修行が祟って体調を崩し、流行り病で早死にしてしまったのですが……』
『あぁ……それは何とも……』
ライアは剣聖ともあろう人の最後が病死とは、何ともストーリーチックだなと感心しつつ、プエリの≪武王≫はキチンと強いスキルなのだと理解する。
リネットにはお礼を告げ、錬金術の実験を再開させつつ、こちらはこちらでプエリのスキルの確認をしようと意識をズィーベンに向ける。
「よし、それじゃぁプエリの≪剣術≫ならびに≪武王≫の効果がどれほどなのか確かめる為に木刀を用意しました!」
「はい!」
「がんばれプエリ!」
ズィーベンはプエリに木刀を渡すと、プエリの身長に対して少しだけ長い木刀にグラついてしまう。
「大丈夫そう?」
「んぅ…はい!だいじょうぶ!」
ズィーベンの心配の声に、木刀のグラつきを何とか手で押さえ、正中に構えるプエリ。
「よし、それじゃ……“ドロイド”」
プエリの準備が完了したので木刀を振う的として、ドロイドの魔法を発動し、あえて幻魔法を重ねない事でそこにはただの土人形が出来上がる。
「さぁこの土人形に向かって好きなように木刀を振ってみて!」
「わかった!……えぇい!!」
ズィーベンの言葉に意気揚々と木刀を振り上げたプエリは何とも可愛らしい掛け声とともに土人形へと突進していき、木刀がプエリの頭上から土人形の足音まで振り下ろされる。
――――バズンッ!
「おぉう……明らかに≪剣術≫レベル1程度の力じゃないな……思いっきり土人形斬られちゃってるし」
目の前には、土人形の頭の上からまた下までに一直線に割れ目が入っており、プエリの木刀で一刀両断出来ているのが目に見える。
たかが土人形とはいえ、プエリが持っているのは木刀であり、切れ味などは一切ないものであるのにこの威力はやはり≪武王≫のスキルによる上乗せ効果による物だろうと結論付ける。
「おぉぉ!切れたよーズィーベンねぇちゃん!!クストにぃちゃん!!」
「やったね!すごいよプエリ!」
「えへへへ!」
プエリが無邪気に喜び、それを見たクストもまるで自分の事かのように喜びの声を上げる。
「ふふふ……プエリ?≪剣術≫スキルと≪武王≫スキルの違いとか何かわかった?」
「ん?……うぅん……よくわかんないかも?」
プエリとクストの仲睦まじい兄妹愛を見ているのも悪くは無かったが、本題はプエリにスキルの確認が目的なので、プエリにスキルの違いや使用感などを感じられたか確認する。
「そっか……。まぁまだスキルを覚えたてだし、いきなりは無理だと思うけど、少しずつでもスキルを理解して行けるようにしようね?」
「はぁい!」
そうして、プエリのスキルの練習もとい、スキルの確認で暫く土人形相手に木刀を振い続け、ある程度の使用感と身体の使い方を確認できた。
「……よし、それじゃぁ今日はもうこれくらいにしておこうか」
「あ、はぁい!」
朝起きてすぐに村長の家に行っていたので、お昼までは時間的にまだ余裕はあるが、ギリギリになってもアレだし、今家には家事をするのがかぁさんしかおらず、家事の手伝いもしたかったので、少し早いが戻る事にした。
「ズィーベンさん、もう一個のスキルの確認はしないの?」
「もう一個……あぁ!そうだね、私以外の≪経験回収≫だし、一応確認しておこうか」
少しばかり≪武王≫のインパクトにより、プエリの3つ目のスキルであるライアと同じ≪経験回収≫の事を忘れていた。
ライア自身、自分の分身体にばかり使っているが本来は他人にスキルをかけ、他人の得た経験値を回収するスキルなので、ライアの分身体でも問題は無いはずではあるが、念の為にきちんとかかるか確認してみる事にした。
「それじゃやってみてプエリ」
「うん!……≪経験回収≫!……あれ?」
「………どうしたの?」
ズィーベンが≪経験回収≫の契約画面を待っていると、プエリの方から不思議そうな声が聞こえて来る。
「……なんかズィーベンねぇちゃんにスキルがかからない?」
「え?そんなどうして…?」
まさか他人の分身体では≪経験回収≫を付ける事が不可能だとかそんな仕様でもあったのだろうかと驚愕していると、クストからおずおずと質問の声が上がる。
「えっと、ズィーベンさん……今ってライアさんの方の≪経験回収≫が付いてるから重複は出来ないんじゃ…?」
「………あ……ッッ!」
クストの言葉にすぐに気付けなかった自分に恥ずかしくなってしまい、プエリとクストから目をそらしつつ、静かにズィーベンの≪経験回収≫を切るライアなのであった。
ちなみに、プエリの≪経験回収≫は上手く行ったので、ひとまず暫くはズィーベン達3人の分身体から経験値を回収させてレベル上げをする事になったプエリだった。
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