~閑話、便利なスライムは綺麗に限る?という小話~












―――――スライムを捕まえたい!





火竜の山に調査しに訪れ、たまたま未発見のダンジョンを見つけたアインス達。



リネットにダンジョンの事を報告し、アイゼルの元へ報告しに行く前に、どうして確認したい事があったライアは、リネットに相談事を持ち込む。




『スライムを……使役ですか?』



『そう、スライムだったら簡単に無属性の魔法でテイムできたりしないかなぁと』




ライアの相談事とは、無属性魔法の技術であるモンスターテイムの事で、このダンジョンに生息するスライムを使役する事であった。



『……出来なくはないと思うのです……ただ、スライムとは比較的自我が薄く、魔法で意思を伝えても理解されない可能性が高い魔物なのですよ?』



『……そうなんですか?てっきり力の弱い魔物は使役しやすいのかと…』



『まぁ力の弱い魔物の方が素直に従ってくれることはありますが、そもそもこちらからの意思を受け取れるだけの自我を持つ魔物ではないと上手く行かない物なのです』




前世での記憶でも、魔物をテイムする際は弱いモンスターからと相場は決まっていると思っていたが、この世界は伝えた意思を理解できるだけの知能を持った魔物でないとテイムは難しいらしい。



『なるほどですね…』



『しかし、なぜ急にです?スライムが弱いからという理由であればゴブリンで事足りると思うのですが?』




ライアがいきなりスライムをテイムしたいと言い出した事に疑問を持ったリネットにそう尋ねられる。



『んー……技術発展……になるかなぁと?』



『はい?』




前世の世界で、スライムというコンテンツは比較的有名で、ことファンタジーRPG界隈では雑魚的の代表格として絶大な人気を誇るモンスターだ。



しかし、それとは別のジャンルであるラノベやアニメ、そう言った物語の中で出てくるスライムの中にはいわゆる“便利スライム”なる物が存在する。



人間が生み出したゴミを消化してくれたり、汚水の浄化をしてくれたり、スライムから綺麗な飲み水を生産したりとetc……。



今回ダンジョンでスライムを見つけて、ライアが考えたのはそう言った生活の中で何かしら役に立つことがあるのでは?と思案した故に、スライムを使役してみようと考えたわけである。




『んーと?良くはわからないのですが、基本スライムは使役した所で自分の周りに落ちている物を消化するかしないかの2択ぐらいしか命令できないはずなのです。なので、消化を止める必要が無いのであれば、スライム自体を捕獲すれば問題は無いと思うのですよ?』



『なるほどですね!ちょっと何匹か試しに捕まえてきます!』




リネットの話を聞いて、動かないのであればひとまず連れ帰り、ゴミ処理場的な物を作って見るのもいいかな?と考えたライアは、アインス達を使ってスライムの捕獲に動き出す。






――――プルンプルン……



「………」



「……うん、やっぱり逃げ出す様子は一切ないな……」





目の前にいる水色の半透明な体を持つスライムは、ライアが目の前でしゃがみ込んで観察しようと、特に何も変化せず、ただただプルプルと揺れるのみ。




「………えい」



――――ツンツンツン…


――――プルンプルンプルン…




「おぉぉ!これっていわゆる水風船みたいなものかな?……」




見た目的に弾力はかなりありそうなスライムを指で試しにつついてみると、特に指が取り込まれると言ったことも無く、水が流動しているかのように姿を歪ませる。




「……そう言えばあっちにももう一匹スライムの反応があるな……よし」



――――ぐいっ




アインスはおもむろにスライムの体を両手で持ち上げてみると、案の定特に抵抗も無く持ち上がる。



「……もう一匹くらい持って行っても別に大丈夫そうかな」



手に持ったスライムの大人しさから、もう一匹程連れ帰っても問題は無いだろうと≪索敵≫に反応があったもう一匹のスライムの元まで連れて行く。




――――プルプル……



「いたいた」



少し歩くと、先程のスライムと同じく未知のど真ん中でドーンと座りこんでいる(?)スライムを発見し、近くに寄る。



「よーしお前はこの子の旦那さんだな」



アインスが1匹目を持ち上げているので、ドライに2匹目を持たせ、ペット感覚で夫婦設定を付け始める。



――――プルプル



――――プルンプルン




(……やばぁ……結構可愛いんだけど……)




2匹を近づけさせると、2匹とも体を揺らし、まるで共鳴でもしているかのようにアインスとドライの手の上で震えている。



その姿に軽く悶絶していると、ライア達の頭上を一匹の蝙蝠が飛んできて、不幸な事にスライムの上に糞を落とされる。




「あ……うわぁ可哀想……汚いの付いて嫌だったなぁ…?」



――――プル……ムジュ……



「ん?」




糞を落とされたスライムは体を変形させて体に付いた糞を体に取り込んでいき、何かを溶かすような音を立てる。




「え、もしかして……」



暫くその光景を見つめていると、スライムの体に取り込まれた茶色い蝙蝠の糞は次第にスライムの体に広がって行き、ついには水色の透明な体と一体になる。





『あ、でもライア?スライムは雑食ですが、基本はダンジョンの魔物や動物の糞や死骸を食べているので、たまに食べ残しが体に―――』



「“ウォーターブレイザ”ッッッッ!!!!」



――――ズバァァァァンッッ!!!




アインスとドライが手に持っている存在が、殆ど糞尿で構成された物体だと認識した瞬間に、アインス達はスライムを遠くに放り、比較的殺傷能力の強い魔法で2匹を瞬殺する。




「……そうだよね……普通に考えたら糞を取り込みまくったヤバい魔物だよね……手を洗いたい……」




ライアは、前世の物語で自分たちの排泄物を取り込ませたスライムを素手で触るという行為は、フィクションだからこそなのだなと、ある意味真理に辿り着いた心境で、スライムに触れた手を洗うのだった。














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