大工









リールトンの街に到着してからは、リネットとモンドと一緒に改造人間ホムンクルスの実験をしたり、セラ達にリールトンの街を案内をしたりして過ごしており、数日が経過した。




「……ん?来たか」



ふと朝目が覚めて、今日もリネットの工房に顔を出しに行こうとしていると、ライアのステータスカードの登録欄に“働きアリハウスマン”からの大工達がリールトンの街に到着したという連絡が来ているのに気付く。



その連絡を確認すると同時に、分身体経由でリネットに『大工の人が来たので今日は実験は無しで』と連絡し、急ぎ大工達の迎えに向かう事にする。



まぁ、大工達と話すときはリネットも一緒に話し合う予定なので、話し合いが終われば実験に付き合わされるだろうが、別にライアも嫌なわけでは無いので、構わないのだが。













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大工達は、リールトンの街の玄関である門の前の広場に集まっているらしく、ライアはパテル達が泊っている宿屋でパテルとアインス達、それに今日の担当であるヴァーチェとアル、エル姉妹を連れてすぐに広場に向かう。



(……あの人達かな?)




ライア達が広場に着くと、ガタイの良い如何にもな人たちが20人ほど集まっており、その人達がライアの目的である大工達なのだと理解する。




「すみません、お待たせしました」



「…ん?おぉ!あんた様がインクリース男爵様……の娘かなんかかい?」




「ぶッはッ!」



「だ、ダメだよヴァーチェさん!笑ったりしたら!」




ライアは大工達の運んできたであろう馬車の近くにいた人に声をかければ、お客であるインクリース男爵の娘だと勘違いをされる。



こういった反応には慣れているので特に思う事は無いのだが、それを後ろで聞いていたヴァーチェが吹き出してアルに注意されているが、ヴァーチェは肩を震わせて俯いている。



(……うん、まぁ俺は別に気にしないし、馬鹿にされている訳じゃないってわかってるからいいけど……アルの後ろでエルも若干笑いそうになっているからね?)



後ろの使用人3人の反応に苦笑いを浮かべつつ、大工の人に自分がそのインクリース男爵その人だと誤解を解いておく。



「いやぁすいません!あまりに綺麗なお嬢さんにしか見えなかったんで、まさか屋敷を買われる張本人のお貴族様だとは思いませんで……改めて、今回の設計、建築のリーダーを務めるバンボという者です」



「あははは、私も女性の恰好をしてますし、勘違いされるのはよくあるので気にしないでください……ライア・ソン・インクリースです。今回はよろしくお願いします」




どうやら話しかけたバンボは大工達のまとめ役であったらしく、律儀に自己紹介をしてくれる。



他の大工達はいつもバンボが連れている弟子兼部下みたいな人達らしく、ライア達がお客だと気付くと「よろしくお願いしまーす」と体育会系のノリで挨拶してくる。



「それでインクリースさん、早速で悪いがこの馬車をおいて置ける場所に案内してくれないか?中は今回の建築作業で使う道具なんかを積んでるんだが、さすがにこれだけの大荷物を宿屋に持って行くのはアレでな……」



「あ、それに関してはギルドの方で倉庫を貸してもらえるように頼んでおいたのでそこに案内しますね」



「助かる」



元々こうなるのは事前に聞いていたので、冒険者ギルドに倉庫を借りれるようにシェリア(ギルドマスター)に頼んでおいたのだ。



……別に王都で出会ったシェリアの兄であるドルトンの事を引き合いに倉庫を借りたわけでは無いが、人に無断でスキルを教えるのはマナー違反では?と遠まわしに聞いたら、潔く貸してくれた。(脅したりはしてないが?)







ライア達はバンボ達を倉庫に案内した後、設計を始めるという事で設計にかかわる人達だけを連れて、リネットの待つ工房にまで案内する。




「こちらにどうぞ、今紅茶をご用意いたしますね」



「ありがとうユイさん」



工房ではユイがお出迎えしてくれ、工房内にある応接室に大工達を案内してくれる。



応接室の中にはすでにリネットが待ち構えており、早速新しい屋敷の設計を話し合う事にする。





「では、早速インクリースさんの新しい屋敷の設計作りとしましょう……まず初めにどんな屋敷にしたいかのイメージ「工房一体型の頑丈な屋敷が良いのですよ!」……を聞こうと思いましたが、既にイメージはあるのですな」



バンボの言葉の途中でリネットが興奮を抑えれないと言った感じで先走るが、バンボも特に気を悪くした様子はなく、微笑ましい者を見る目で頷いてくれる。



「……一応、工房部分の壁は爆発や炎に耐えれる耐久性と実験を出来るだけの広いスペース、それに素材や魔石を保管できる倉庫などがあれば大変助かります」



「壁の耐久性に関してはどれほどの強度が必要でしょうか?」



「軽く見積もってバクサンミームの爆発に耐えれるくらいは欲しいのです!」



「……?バクサンミーム?」



「……リネットさん、そんな当たり前みたいに言ってもその魔物を知らない人も多いんですから、ダメですよ」




バンボの言葉に、さも当たり前のようにバクサンミームという地方で現れる瀕死になれば爆発して周りの敵も巻き込む攻撃をしてくるマイナーな虫の魔物の名前を挙げるが、当然錬金術師でも冒険者でもないバンボ達は頭にハテナを浮かべる。



ライアだって、素材としてその名前とどんな魔物かはリネットに聞いているが、実際にその魔物を見たわけでは無いし、基本は王都に流れて来る素材を偶に買い漁るくらいでしか手に入らない物なので、魔物がどんな爆発をするのか分からない。




「むむぅ……では、ドドガガの突進に耐えれるような……」




「はい、すいませんバンボさん……大きな岩や木がぶつかっても壊れない位の耐久性ってイメージでいいですか?」



「あ、わかったよ……なんかすまないな?」



「いえ、気にしないでください…」




リネットの天然なのかただの≪錬金術≫馬鹿の弊害なのか、少し困惑した部分もありはしたが、ライアがリネットの言葉をなんとか要約することで、バンボとの設計作りは進み、リネットも納得してくれるものが出来たので、良しとしよう。






「……お疲れ様です…」



「……ありがとユイさん……」





部屋の隅で見ていたユイの励ましの言葉は、ライアの疲れた心に染みわたる癒しであったのは、ライアの顔を見れば一目瞭然であった。














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