帝国潜入
――――――スパイ分身体Side
アーノルドからの頼まれごとである潜入任務の為に、アンファング王国から分身体の無尽蔵のスタミナで帝国に走る事数ヵ月、やっと帝国領土の街に到着する事が出来たライア。
もちろん国境付近には侵入者を拒むような砦やら、帝国兵達が少ない数が警備していたが、幻魔法の使えるライアにとっては、障害でもなんでも無かったので、特筆する事はない。
そんなわけで、ライアはあっさりと敵地の街に足を踏み入れたのだが……。
(……うぅ~ん……どう見ても奴隷っぽい人たちがいるな……帝国は貴族だけじゃなくて、平民階級でも奴隷を持つ事を許してるんだろうね……)
街の中は別段活気が無いだとか治安が悪そうといった印象は無く、多くの人が普通に生活を営んでおり、寧ろ活気はあるように感じる。
だが、至る所にフェンベルト子爵邸で見た“奴隷の首輪”を装着された奴隷があちこちに見受けられ、奴隷という物が生活の一部になっているのがわかる。
「――たくッ!仕事がおっそいんだよ!」
―――バシィン!!
(ん?)
ふと、声を荒げる男性の方へ目を向けると、何かを運んでいる奴隷の男性に向け鞭を振い、痛めつけている場面が見える。
「……ぐッ……すみません」
「ちっ……ほらさっさと運べのろまッ!」
奴隷の男性は、自分が痛めつけられる事に一切疑問が無いのか、特に悔しい!憎い!などという感情が見受けられず、ただただ無表情に謝罪を口に出すだけであった。
(……周りの人達も特に気にしている様子はないし、よく見れば奴隷を見る目が同じ人間を見る目じゃないな……)
周りには別に人が居ない訳では無く、人通りの多い道の傍での出来事であるにもかかわらず、奴隷を助けようと動く者はおらず、仮に目線を向けていたとしても、奴隷の方に苛立ちの目線を向ける者しかいない。
(これが帝国の現状って訳か……仮にあの奴隷が犯罪奴隷だとしたら、この反応であっても不思議ではないのかも知れないけど……多分違うんだろうなぁ……)
ライアは、フェンベルト子爵邸の時の事を思い出し、恐らく奴隷の中には罪を犯していない奴隷も数多く存在していて、犯罪奴隷だからとか罪人だからとかではなく、ここの住民は
(それに、奴隷の方も絶望に慣れてしまっているから、自分の境遇に疑問さえ持っていないのかも………これは嫌な国だよ……)
ライアはこの世界で生まれて、比較的前世の倫理観とそう違いが無いアンファング王国に生を受けたせいか、盲目的にこの世界は人に優しい世界なのだと漠然的に考えていた。
だがフェンベルト子爵邸にて、人の悪意という物に遭遇して、この帝国を目の当たりにするにつれ、自分はただ、恵まれた世界に身を置いていたのだと理解する。
「……守らなきゃね……」
ライアの脳裏に、王国にいる仲のいい人達や自分の家族の平和の為にも帝国の情報を集め、最悪の事態に備えようと決心する。
(まずは、この国の情勢や技術体系を知らなきゃね!)
ライアは決意を胸に、幻魔法で姿を隠しながらこの街の図書館や重要施設などが無いかを探しに向かい出すのであった。
―――――――――――
――――――――
――――――
――――――ライアSide
王都を出発したライア達一行は、1ヵ月の時間をかけて、リールトンの街へと帰って来ていた。
「リネットさーん!ただいま戻りました!」
リールトンの街に到着し、アイゼルは領主邸へ向かい、ライアはリネットとリグの待つ工房に来ていた。
「来たのですねライア!早速実験を開始するのですよ!!」
「あぁ……早速ですか……その前にこちらのモンドさんを……」
「噂はかねがね、
「「
興奮状態のリネットにモンドの紹介をしようとしたのだが、どうやらこの数か月ずっとお預けされていたモンドも実験欲が止まらなかったらしく、リネットと一緒に暴走を開始している。
ちなみに、ライアの行った人体改造の技術はリネットとモンドの3人で分身体通信(伝言会議)で【
そして、なぜこうもリネットとモンドが興奮しているかというと、それは偏に今までずっとライアが
それは何故か?
「ボクはずぅぅぅぅぅっと待っていたのですよ!ライアが新しい分身体を補充してくれるのを!!」
「私もです……さすがに馬車の中で実験などは出来ないのはわかっていましたが、これほどまでの生殺しは些か堪えましたよ……」
実は、前回の黒ライアを元の姿に戻そうとしたのだが、どうも上手く行かずに分身体を消滅させてしまったのだ。
改造は一度までしか耐えられないのか、単純に技術不足かはわからないが、リールトンの街にいる分身体を一度
なので、分身体を治せなくても消して、新たに分身体を生み出せるライアが来るのを待っていたという訳だ。
モンドに関しては単純に実験する施設も無ければ馬車という狭い空間で実験を行えなかったという理由だが…。
「わ、わかりましたって……行きますから!……あ、皆!ちょっとこの人達と行ってくるから、後は分身体と一緒に行動して!!≪分体≫!」
工房に付いてきていたセラ達9人は、目の前の状況に呆然としていたので、このまま放っておくのはダメだと、急遽新たに分身体を生み出す。
「パテル!アインス達とセラ達の宿を……「俺はお前の傍にいる……」……あ、はい」
セラ達にはリールトンの街を紹介して回ろうと考え、パテルに宿の方を抑えてもらおうと思ったが、ライアの傍を離れる事を断られた為、アインス達だけで宿屋に向かわせ、パテルには工房の中でスキルの訓練でもしていてもらう事にした。
「ラ、ライア様~!?」
リネットとモンドに引っ張られていくのを見てセラが声をあげるが、無情にもライアは工房の奥に連れて行かれるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます