帰ろう
―――時は進み、巨人の化け物との戦いから早2ヶ月……フェンベルト子爵と帝国民である兵士達は全員もれなく犯罪奴隷に落とされる判決となった。
この事件を境に、他の貴族にも帝国と繋がっている者がいないかの調査を行ったが、今の所他の裏切り者は見つかっていない。
もちろん、完全に居ないと確定したわけでは無いし、これからも調査を進めるらしいが、それはひとまずおいて置こう。
2ヵ月が経過し、フェンベルト子爵達の処遇以外に色々な事があった。
まず一つ目にモンドが宣言通りに自分の工房を畳んで来た事。
……まぁこれに関しては、聞いていた事だし問題などは無いが、さすがに1か月で「準備できたよ。さぁ研究を!」とリールトン伯爵家に訪問してきた時は驚いたが…。
今は分身体1人を押し付けて、薬学の事を教えてもらいつつ、実験はリールトンに着いてからと我慢をしてもらっている。
それから二つ目がセラ達の教育が終わってセラをはじめ、数人の女の子達がライアの世話を焼く為に専属メイドの様な働きをしてくれている事。
まぁそれでもライアについている子以外は、屋敷の仕事のお手伝いなんかをしつつ、更なる技術向上に努めているらしい。
……まぁ、一部未だにシシリーに扱かれている子もいるが、許容範囲だろう。
そして三つ目、これに関しては少し予想外だったのだが……。
「開拓民が……3000人以上……ですか?……それの半分が移住希望者って、桁が間違ってませんか?」
「まぁ、そう思っちまうのもしょうがねぇよなぁ……ホントはもっと増えそうだったんだが、さすがにこれ以上集めちまうと国からの援助金が滞る可能性があったんで止めたけどよ」
場所は王都の冒険者ギルド、そこのギルドマスターであるガゼルの執務室でガゼルとライアにパテル、それからセラとルビーが集まって、新しい領地に開拓しに行く開拓民の話をしに来ていた。
「……どうして、そんな数が…」
「んーなんでもついこの間から何度か公演されてるって噂の音楽団がライアちゃんの領地を本拠地にするとか何とかって話だが……」
「……ツェーンだったかぁ……」
どうやら開拓民の異常な集まり具合の原因は、王都でライブを開いていたツェーン達が原因だったようで、ライアは何とも言えない顔を浮かべる。
(……そう言えばこの間、座長のカルデルさんに『今度大き目のステージを作ろうと思うのですが、何処に建てたいですか?』と聞かれて、あんまり考えないで新領地の事を話したけど……もしかしてそれが原因か?)
実際には本拠地にするとかは決まっていないはずだが、大き目のステージを作るとなるとそこでのライブが増える為、ファンの人達がこぞって集まった結果だろうとあたりを付ける。
(……まぁ移住者が多いのは助かるし、ガゼルさんが人数制限してくれたから多すぎるって事も無いし、大丈夫かな)
最近のツェーンのライブは結構な人気があるのはわかっているし、嘘をついて人を呼んでいる訳でもないから特に気にしてもしょうがないだろうとライアは頭を切り替える。
「ひとまず開拓民の件は了解しました。原因も恐らくわかるので、特にこちらに問題は無いですね」
「そうなのか?……ならいいが」
ガゼルに分身体の事を話す必要もないだろうし、詳しくは説明はせず話をそこで終わらせる。
「ライアちゃん達は明日出発だろ?出来るだけ開拓民達の出発は急がせるから、少しばかり時間を貰うよ」
「そんなに急いでいる訳では無いので、無理はさせないでくださいね」
そう、実は今日冒険者ギルドに来ていたのは、開拓民の事を確認するついででもあったが、実際にはライア達がリールトンの街に一度戻るので、挨拶に来たというのが本題だったりする。
事実、受付のカエデにはすでに挨拶を済ませて来ていたりする。
「暫くは新しい領地にかかりっきりになるだろうが、また王都に遊びに来なよ」
「えぇ、その際にはまた顔を出しますね」
ガゼルとライアは笑顔で別れを告げ、冒険者ギルドを後にするのであった。
後日、リールトン伯爵の屋敷の前には同行者が増えた為に、増やす事になった馬車が6台が並び、セラ達含め、使用人達がライア達とアイゼルの荷物などを積み込んでいた。
「今回は前回よりも長い滞在だったが、何か不便な事は無かったかい?」
「いえ、とても良くしてくれましたし、セラ達の面倒も見てくれてとても助かりました」
「ははは、そう言ってくれてこちらも嬉しいよ。だがあの子達に関しては私達の屋敷の仕事も手伝ってくれていたそうだし、その事で感謝をしてくれなくても構わないよ」
使用人達が積み込み作業をしている傍らで、ライアとアイゼル、それとモーゼスが別れの挨拶ではないが、出発前の雑談を交わしていた。
「……アイゼル様…」
ライア達が話している最中に、恐らく積み込み作業が終わった事を知らせに、アイゼルの使用人が知らせに来てくれたようだ。
「おぉ……準備が終わったようだな……ではモーゼス、こちらの事は任せたぞ」
「はい、父上……ライア君もまた」
「はい、モーゼス様。しばらくの間お世話になりました」
モーゼスの別れの挨拶に、この数か月間ずっとお世話になった事へのお礼を述べると、モーゼスは少しだけ苦笑いを浮かべこちらを見て来る。
「……まだとはいえ、君は妹の結婚相手だ。私の事は義理の兄と思ってそんなに固くならないでくれないか?」
「あ、えっと……」
モーゼスはライアの他人行儀な挨拶に少しだけ不満だったらしく、拗ねたような態度でそう言われてしまう。
「……ははは!まぁいきなり変えろと言っても無理だろうから次に王都に来た時にでも変えてくれると私は嬉しいよ」
「……はい、モーゼス
ライアはモーゼスの優しい気遣いに感謝しつつ、今出来る返事として呼び方を変えて呼び、気恥ずかしさから逃げるように馬車へ乗り込む。
「…………」
「……モーゼス…?」
その場に取り残されたモーゼスはキョトンとした表情を浮かべ、アイゼルはそんなモーゼスに声をかける。
「父上……新しい義妹はいい子ですね」
「義弟のはずだが?」
何とも締まらない別れになりつつ、ライア達は王都を出発したのだった。
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