王子からの依頼











それからライアは、騎士団の事情聴取などは分身体1人に任せ、セラ達の身なりなどを整えてやりたかったので、一足先にリールトン伯爵の屋敷に戻る事にした。



戻りの馬車などはライアが捕らえられた時に、いつ出れるか決まってなかったので、帰りの馬車は呼んではいなかったのだが、モンドの乗って来た馬車が空いているという事なので、そちらにお邪魔させてもらった。



……馬車の話になった時に、黒ライアの事を露骨に見ていたので、打算含みの提案だったかもしれないが、素直に助かったのでジロジロと見られる視線は無視して過ごした。





「………ではライア君、私は工房の片付けなどで忙しいのでここで失礼させてもらうね」



「あ、はい…えっと、ではまた」




リールトン伯爵家の屋敷に送ってもらった後、モンドは馬車から降りずにすぐに帰る予定だったらしく、ライアにそう別れの言葉をかけて、すぐに馬車を出発させる。



(……移住の話って結構勢いで言ってると思ってたけど、これはガチですぐ来るんだろうなぁ……)




去り行く馬車を見送り、数か月後にはモンドと同じ領地で過ごす未来を予感しながら呆れの表情を浮かべる。














――――――――――

――――――――

――――――











リールトン伯爵の屋敷に着いて、アインス達に先んじてセラ達の事を伝えていたおかげか、屋敷に入ってすぐにシシリー達メイド隊がセラ達を湯浴みやら治療などに連れて行かれる。




一応セラやルビー、その他元貴族令嬢組はメイド達に慣れているから特に問題は無かったが、基本人見知りのアルはメイド達に怯えながら連れて行かれたり、金銭の要求をされると思ったのかヴァーチェが「ウ、ウチに払えるもんは無いからな!?肉体労働で返せばいいのか!?」と騒いでいたので、後でシシリー達に謝っておこうと考えるライアだった。



(……何気にエクシアは大人しいんだよな……いや、あいつは眠いからメイドに動かされるままになっているだけか……)




メイドに背中を押されていく、半目のエクシアを発見しつつ、ライアも自分のやる事を先にやってしまおうとパテルの待つ部屋に向かって行くのであった。












――――ガチャ


「……おかえり……怪我などは無いか…?」



「うあっ!?パテル?いきなりどうしたの?」




部屋に入ると、パテルがすぐさまライアの元に駆け寄ってきて、ライアの身体の隅々を確認するように怪我の確認をしてくる。




「……アインスから状況は聞いているが、本当に怪我をしていないかはわからんからな………すまない……こういう時の為にお前について来たというのに……」



「パテル……」




アインスからパテルに事件の事や怪我などはしていないという事は伝えていたが、実際に見るまでは信用していなかったらしく、部屋に入ってきたライアの状態を確かめていたという事らしい。



元々パテルを護衛の様な扱いで傍に置いていたのは、パテルがライアに恩を返す為であるし、今回の様な事件に巻き込まれた時に自分が近くに入れなかった事が悔しいのか、いつもの能天気な顔ではなく、深刻な表情を浮かべるパテルに少しだけ申し訳なくなってしまう。




「ごめんねパテル……今回の件は元々錬金術師達以外は来れない形だったし、王都の中でこんな事になるとは思わなかったから俺の判断ミスでもあるから、あんまり自分を責めないで?」



「………」



「それに何はともあれ、怪我1つしなかったんだし結果オーライなんだよ?パテルに悲しい顔されたら俺も嫌だし、もっと楽しい事はなそ?…ほら、新しい錬金術の可能性も発見できたし!」




「………はぁ……俺には錬金術の事はわからん……」




ライアの励ましにパテルはしょうがないと言った表情を浮かべて、ツッコミを入れて来る。




「あぁ……まぁそうだね?」



「……ふふ、まぁいいさ……これからは王都の中でも出来るだけお前について行くとしよう…」




パテルは気持ちを持ち直したのか、笑みを浮かべながら少し過保護とも言える宣言を言い放つ。




「お、おう!これからはよろしくね!」




「……あぁ……」




何とかパテルの調子を戻すことに成功したライアは、ホッと息を吐き一安心するのであった。













(……あれ?なんか会話が付き合いたてのカップルの痴話喧嘩の様な気が……?……これ以上考えない様にしよう……)



ライアは自分の発言が男を元気付けようとする彼女の様だったと自己嫌悪になりつつ、それ以上考えてはいけないと、思考を遠くの彼方へ放り投げるのであった。













――――――アーノルド付き分身体Side






「ライア殿!たった今騎士団から報告があり、フェンベルト子爵と帝国との間に繋がりがある事が確認できた。……これはまた新たな功績として、褒美をもらう事も出来るのではないか?」



「……大変名誉な事ではありますが、どうか今のままでお願いします……」




アーノルドの自室に先んじて報告に来ていたライアに、騎士団からステータスカードにて連絡があったらしいアーノルドが、そう言いながら茶化してくる。



ライアの返事に「あははは!さすがに1週間で男爵から子爵に陞爵しょうしゃくはライア殿でも困るか」とアーノルドが返してくるが、ライア自身は男爵でも過ぎた物だと思っている為、苦笑いを返す。




「……しかし、ライア殿から聞かされた時はまさかあの帝国がと驚いたものだが……早急に対策を練らねばならないな…」



「……戦争……ですか?」



フェンベルト子爵の屋敷で考えた可能性を口に出せば、アーノルドは静かに首を頷かせる。




「……帝国とは未だかつて友好的な関係になった事は無く、精々戦争を終結させる為に終戦契約を結ぶ為に1度話し合った程度。寧ろその1度が奇跡な様なものだ」



ライアは以前、王都の図書館で見たこの国の歴史で帝国とは300年程前にアンファング王国と大きな戦争を繰り広げていた国で、アーノルドが言うにはその後300年、ずっと不可侵を貫いているらしい。



そんな非友好国である帝国が、今更王国に対し戦争を起こそうとしている理由が分からない。




「帝国の目的って何なんでしょうか?」



「……願うなら金や奴隷、領土が欲しいなどといった俗物的な理由で無い事を願うよ」




アーノルドは帝国の事を暗に蛮族の国ではないか?と卑下しているらしく、疲れたような顔をしながらそう話す。




「さすがに無いとは思いますが……」



「そう願うとしよう……」





ライアとアーノルドは二人で顔を見合わせて「あはは」と乾いた笑いをあげる。

















「時にライア殿、少し確認したいことがあるのだが」



「はい?どうかしましたか?」




そろそろ退出しようかなと考えていたタイミングで、アーノルドが声をかけて来る。




「ライア殿の≪分体≫に関してなのだが、活動時間、距離はほぼ無限に等しく、分身体が殺されてもライア殿には一切被害は無い。であっているか?」




「はい、仮に分身体が殺されたら身に着けている装備や持ち物などはその場に落ちて、拾いに行かなければいけませんが、それ以外にデメリットは特にないかと」




「そうか……」




アーノルドが聞きたいのはどうやら≪分体≫に関しての事らしく、スキルの詳しい能力や仕様に関してを伝える。





「それがどうかしたのですか?」




「……うむ、実はライア殿にこの国の貴族としてお願いしたい事があるのだ……だが、先に謝っておく……本来、師匠であるライア殿にこの国の問題を解決する為にこのような事をお願いするのは申し訳なく思っている……話を聞いた後に、ダメならダメときちんと断ってくれて構わないので、話だけでも聞いて欲しいのだ」



「あ、ちょっとアーノルド様!?頭を下げないでください!!」



アーノルドはライアに対し、ものすごく申し訳なさそうな顔を向けながら、お願いの内容も言わずに頭を下げ、謝り倒してくる時点でかなりの面倒事なのだとは予想できるが、ひとまずアーノルドの頭を下げる行為を何とかやめさせる。



「あぁもう!謝るのはいいですから、本題を先に教えてください!!」



ライアは自分は何もしていないのに、部屋に居る護衛の騎士達から向けられる視線にビクビクしながら話の続きを聞き出す。




「そ、そうだな……実はライア殿にお願いしたい事は……帝国への潜入をしてもらいたい」



「せ、潜入ですか…?」



アーノルドがライアにお願いして来た内容…それはフェンベルト子爵の屋敷にいた兵士達と同じ役目。つまり…。









「つまり、ライア殿には帝国にスパイとして潜入して欲しいのだ」






敵国である帝国の情報を得る為のスパイ任務であった。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る