戦いの後










―――――ダッダッダッダッ!




「……ん?」



化け物との戦闘を制し、一息をついていると遠くから大人数の足音が響いてくる。




「……失礼、貴方がインクリース男爵殿で違いないでしょうか?」



「あ、はい……一応そうですが…」



足音の正体は、王城からここまで駆けつけてくれた騎士団だったようで騎士団の団長らしき人が、化け物の上で座り込んでいた黒ライア(錬金体)に話しかけて来る。




「……ふむ、些か聞いていた風貌と違うようだが……」



団長らしき人物は全身真っ黒に日焼けしたような肌と腕の文字に見える刺青、そして身体に浮かぶ線の模様を見て、ライアの事を本当にライア本人なのか疑いの目を向けて来る。



「あぁ……これは少し事情がありまして……」



分身体の事は別に隠してはいないので、言ってもいいのだがこの姿になった経緯である人体改造の部分をどう誤魔化そうかと考えて、言葉が詰まる。



この世界に限らず、どんな世界でも自分の身体だろうと何だろうと、人体実験に良い顔をする人はおらず、もしかしたらこの世界では罪に数えられるのかも知れない。



そんな思いでひとまず誤魔化そうとしていたら、先に団長らしき人が話しかけて来る。



「ふむ、その姿は訳アリのようだし、君は≪分体≫で作られた分身体なのだろう?本人は無事なのかな?」



「あ、はい……捕らえられていた少女達と一緒に避難してます……ってあれ?もしかして≪分体≫の事アーノルド様から聞いてました?」



隠したい方の事情は“訳アリ”と片付けられてラッキーと思ったライアだったが、自分のスキルを知られている事に少しだけ疑問が出た。



個人の所持スキルの情報を他人が周りに話し広める行為などは基本的にマナー違反なのはすでに知られていると思う。



どれくらいそれが徹底されているかと言えば、この間の国王には≪分体≫の事は安全面やら色々な事情によりアイゼルがしょうがなく報告していたが、それ以外のスキルに関しては特に伝えていないらしいし、国王の息子であるアーノルドには≪分体≫の事も伝えていない程である。



まぁライアは伝わっているだろうと軽はずみで≪分体≫の事を口を滑らせて、分身体1人を王城に常駐させる事になったのはあれだが……。




とにかく、それほど人のスキルの話を他人に話すのは良くないとされる中、ライアの事を師匠と呼びたがっているアーノルドが個人情報を流す事に疑問があったという訳だ。




「あぁすまない……君の事はアーノルド王子に聞いたのではない……っと、そうだね、まずは自己紹介と行こうか」



団長らしき人が改めてライアに対し姿勢を伸ばし、貴族の会釈で頭を下げて自己紹介をする。




「改めまして、私はアンファング王国近衛騎士団団長を務めさせてもらっているドルトン・アンデルセン……アンデルセン伯爵家の次男で……リールトンの街にいる冒険者ギルドの長、シュリア・アンデルセンの兄だ」



「……え……!?ギルド長の兄!?!?」




近衛騎士やらアンデルセン伯爵家やら気になるワードが色々と出た気がするが、ギルドマスターのシュリア・アンデルセンの兄だという事を聞いた瞬間驚きで情報が頭から抜け落ちた。



「……言われてみれば、どことなく似ているような……」



ドルトンの姿はギルドマスター……シュリアと同じ緑色の髪色に、シュリアよりも紫が強く出ている瞳。


身体はがっしりとしていて、顔つきは野獣を思わせるほどワイルドな男性であり、顔立ちは似てはいないが、シュリアの粗暴な言動がどことなくドルトンの姿とマッチしていて、血縁を感じてしまう。



「はっはっはっは!何故か妹の知り合いからは初対面でそう言われる事が多いのだ!それほど似ているとは思わないのだがな?」



「あ、すいません」



「いや、別に責めてはいないので気にしないでくれ!」




ドルトンは特に気にした様子もなく、陽気に笑い飛ばしてくれて、何とも気持ちがいい人だと思うライア。



「というか、そう言うって事はもしかして情報元はギルド長ですか?」



「あぁ、本来はあまり褒められた事ではないが、妹はそこらへん自分勝手な所があるのでな…実の兄である私にであれば話して大丈夫だろうと、君の事は色々と話を聞いている」



「ダメな妹ですまないな」と頭を下げられるが、別に絶対隠さなければいけない訳でもないし、ドルトンは他に誰にも言っていないという事なのでこちらも気にしないでいいと許し合った。




「まぁそんな訳で君の事は知っているし、ダメな妹の世話をしてくれている君に色々と聞いたりはしないさ」



「アハハ……ありがとうございます…」



「さて、あまりおしゃべりをしていてもしょうがない、早速フェンベルト子爵とその仲間の捕縛に行かせてもらうよ……行くぞ!!」



「「「「ハッ!!」」」」





そう言ってドルトンと騎士達は自分達の仕事を全うする為にフェンベルト子爵の屋敷に向かいつつ、周りの崩壊した建物に巻き込まれた救助者がいないかを捜索しに行くのだった。














ライアは騎士達の仕事を補助する為、分身体を1名を送り、証拠品や帝国民をどこに集めているのかを教えに行かせつつ、後の3人で黒ライアを連れて、ライア本体の居る場所まで運んできてもらう。



実は、黒ライア(錬金体)は体を作り替えた際に、化け物の錬金術特化にし過ぎて運動能力、つまり筋力の殆どが無くなって、どう頑張っても立ち上がれなかったのだ。



恐らく、ステータス的には器用さの項目にすべての数値が移動させているようなものだとライアは考えていて、下手をすれば子供の蹴り一つで消滅しかねない脆さなのかもと思っている。




なので、そんな黒ライアを出していてもしょうがないからさっさと≪経験回収≫してしまおうと考えていたのだが……。






「ライア君ッ!!私は感動したよッ!!≪合成術≫の事も凄かったけど、まさか自分の分身体を≪錬金術≫で改造するなんて……私のやりたくても出来なかった事を成し遂げる君は本当に素晴らしいよ!君は錬金術師界の希望だよ!!」



「いや、人体改造なんですけど!?」




モンドは錬金術師の性なのか、黒ライアの説明をしたらものの見事に目を輝かせておかしくなった。














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