巨人の化け物4












――――セラSide






「うぅ~ん……どう頑張っても拘束には3人は必要なんだよなぁ……」



「ライア様?」



戦場から飛んで来る瓦礫を注意しながら、化け物から逃げだした私たちは結構な距離を離れ、ひとまず安全と言えるだけの所まで避難していた。



そこに付いて、化け物の方から飛来物が飛んで来ないか一喜一憂していると、ここまで私達を逃がしてくれたライア様が何かを呟き始める。



「……いや、でも……経験値がなぁ……でもここであいつをどうにかしないと……」



「えっと、ライア様?どうかいたしましたか?何か問題でもありましたか……?」



ライア様は苦悶の表情を浮かべ始めたので、何か問題でも発生したのかと心配になり声をかければ、私よりも華奢に見える体を震わせながら、苦渋の決断を決めたかのような顔を浮かべる。



「セラ……そうだね、ここで出し惜しみして、怪我でもすれば笑い事にもならない……決めた!」



ライア様はそう言うと、なにやら「工房……いや、ウィスン達か?」とつぶやいた後に「解除」といった後すぐに私と同じスキルである≪分体≫を発動させる。



「≪分体≫からの≪経験回収≫をセット!!……さぁ経験値をドブに捨てさせたあの野郎をぶちのめしに行ってこいッッ!!」



「ほぉあ……すごいです……やっぱりライア様はすごいです……」



私の目の前には、自分の使いこなせない≪分体≫のスキルをまるで息をするかのように当たり前に生み出し、戦場で戦っている他の分身体と同様にすぐさま操ってしまう。



「これはしょうがない……そうだよ、あの化け物を倒せなくてこっちに被害が出るくらいならたった数か月の経験値……安い物だよ……うん……うッ…」



私はそんな光景を見て、改めてライア様の凄さに感心していると、ライア様が何やらとても悲し気に肩を落としていたので、良くはわかりませんでしたが、優しく背中を摩って差し上げるのでした。












―――――ライアSide







「さぁ……ここで決めさせてもらうよ……」




颯爽と登場した5人目の分身体。この5人目の分身体は急遽王都に滞在させていたウィスン1人の数ヵ月分の経験値を捨て去り、ここに新しく生み出した個体で、ライアの最終手段であった。




(はぁぁぁ……せっかくの経験値が……クソぉ……こんな事ならウィスン達の≪経験回収≫をさっさと済ませておけばよかった……)




もちろん最終手段と名を打っているだけあって、デメリットである経験値の破棄は精神的に来るものがあり、颯爽と登場しドヤ顔を決めているが内心は経験値の件でかなりナイーブな事になっている。



それでもこの戦いを終わらせるには化け物を拘束する分身体が3人と先程考え付いた連結する≪錬金術≫を行うにはどうしても、もう1人の分身体は必要不可欠であったので、泣く泣く実行に移したという訳だ。




「「……ふぅ……≪錬金術≫ッッ!!」」



化け物をアースバインドで拘束し、背中に飛び乗った後はもう時間との勝負だった為、分身体2人で元凶の魔力の元があった心臓部分らへんに≪錬金術≫を発動させる。




(……ッッ!!!)



思い付きの連結式錬金術は案外上手くいく……という事も無く、ものの見事にお互いのイメージとイメージが反発し合い、微塵も成功する兆しは感じない。



それ所かお互いの≪錬金術≫の邪魔をしないように気を付けようとすればするほど出力は弱まり、力の流れは悪くなる。



「くッ……これじゃダメだ!このまま続けても成功しないッ!」



如何に自分と同じ思考で動かしているからと言って、なんでも上手く行くとは限らないらしく、火竜討伐戦の時の大魔法はたまたま上手く行っただけなのだと理解させられる。




「■■■■■■ッッ!!!」




「クソッ!?もう時間が……」



既に≪錬金術≫を試して約5秒以上、化け物の力強い抵抗にアースバインドの拘束は崩壊寸前。



失敗したのならもう一度最初からやり直せばいい事なのだが、あまり戦闘を長引かせて周りの被害を大きくしたくない気持ちもあり、出来ればすぐにでもどうにかしたいと気が急いてしまう。




「■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!」




――――バァァァンッッ!!!



そんなライアの気持ちと裏腹に化け物の拘束は弾け飛び、背中に乗っていたライア2人は再び遠くに吹き飛ばされる。




「ぐっ……はぁ……もう一度……」



ライアは先程の≪錬金術≫の感覚的に、自分には不可能な試みなのではないか?と僅かに感じながらもまだ見えない成功するイメージを想像して、化け物に立ち向かって行く。




「■■■■■■ッッ!!」



――――ダァァンッッ!!



戦闘が長引いて行けばそれだけ周りの建物が崩れ去り、どんどん街に被害が及んでいく。



「……こんな事しておいて死んでさよならなんて絶対にさせないんだからね……必ず罪を償わせてあげるから!!」



これだけ大規模な被害に少なくない死傷者が出ているかもしれない、もしかすれば先程化け物に潰された家には人が住んでいて、まだ非難が出来ておらず瓦礫の下敷きになっているかもしれないと思うだけで、あの化け物を止めれていない事に申し訳なさが溢れてしまう。



だからこそ化け物の元となった男にはきちんと償わせなければとライアは意気込む。





「よし、もう一度!3度目の正直ッ!」



「「「“ウォーターブr”……!?」」」



「■■■■■■ッッ!」



―――ブゥゥンッッ!!ドガァァン!!




(なっ……今確実に、魔法を使おうとした分身体を警戒して、瓦礫を飛び道具替わりにけん制して来た…?)




化け物は3度目の攻撃に慣れでもしたのか、分身体3人の魔法を放つタイミングを呼んで瓦礫を投擲して来て、魔法の発動を中止させられる。



「………理性が無いと思ったけど……学習する脳はあるんだね……」




ライアの攻撃に対応して来た化け物に対してこちらも攻め方を変えなきゃなとライアは思考を回すのだった。
















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