巨人の化け物3












巨人の化け物を≪錬金術≫で人間の姿に戻す。言うだけであれば簡単ではあるのだが、これにはいくつか注意するべき事がある。



その中で一番気を付けなければいけないのは…。



「■■■■■■ッ!!」


―――ブゥン!



「っとと……どうにか動きを止めたいけどッ!」



何よりも相手はライアの都合などお構いなしに暴れまわる化け物だ。



≪錬金術≫を使用するにはどうしても近づいて直接触れる必要はあるし、錬金術を施す際には集中する為に動きを止める時間も必要なので、何とかしてこの化け物の動きを封じる必要がある。




「よッ!!“ウォーターブレイザー”ッッ!!」



―――ズバァッ!!




「■■■■■■ッ!?」



―――ドダァァン!




ライアは動きを制限させる為に、比較的致命傷にならない足首に魔法を放ち、体制を崩させる。



「よし、今だ!」



「「「“アースバインド”ッッ」」」



地面に倒れ込んだ化け物の動きを封じる為、分身体3人で土の拘束魔法を発動させて、地面から伸びる土の鎖で化け物を縛りあげる。



魔法を発動させてがっちりと拘束されたのを確認すると、魔法を発動させなかった分身体の1人が急ぎ足で化け物の体に飛び乗る。



(実践では初めての“アースバインド”だけど……恐らくそんなに時間は稼げない!拘束が解かれる前に!!)



このアースバインドは元々火竜の件があってから、巨大な魔物達の動きを封じる為の補助目的で開発した魔法なのだが、如何せん魔物相手であれば動きを封じる前に倒してしまえばいいし、そもそも火竜並みにデカい魔物などそうそう現れないという訳で、実践でこの魔法を使うのはこれが初めてだった。



故に魔法の練度は低く、拘束の強度が少しばかり不安という訳だ。




「■■■■■■ッ!!」



「うおぉっと……あんまり暴れないでくれよ……≪錬金術≫…!」



そしてライアが注意すべき事のもう一つ……それは何より≪錬金術≫の腕の問題であった。




これは当たり前の事かも知れないが、今からやろうとしているのは人間に混ざった何かしらの錬金物(錬金術から作られたもの)を抜き出す作業である。



つまり、人間という器から見た事も無ければどんなものかもわからない物を取り出す作業をこなせるだけの腕が無ければ出来ない事なのだ。



そして生憎とライアの≪錬金術≫のレベルは10とまだまだ低いひよっこ……仮にライアの仮定が合っていたとしても失敗する方が高いのは明らかだが、それでも人を殺す選択をするくらいであればそのくらいの無謀に挑戦しない訳にはいかないと、心を奮い立たせるライア。




(………ッ……気持ち悪い魔力だ……どうやったらこんな魔力が作り出せるんだよ……)




ライアは化け物の背中の上で≪錬金術≫を発動させると、体内にヘドロの様な気持ちが悪い魔力を感知し、どうやらその魔力がこの化け物の体を動かしているのだと瞬時に理解する。



(でも、この魔力には一定以上の決まった動きがある……という事はつまり、この化け物は≪錬金術≫が原因なのは正解みたいだ!……後はこの魔力の元を抜き出すだけ!……ッ!?)




―――ベキベキッ!!


「■■■■■■ッッッ!!!」



「うわぁッ!?」



自分の仮説がほぼ正解だとわかったタイミングで、化け物の拘束が破壊され、背中に乗っていた分身体は勢いよく吹き飛ばされる。




「っとと……ヤバいなぁ……あの巨体を封じ込めておく手段が全然思いつかないんだけど……」



僅か10秒程。それがアースバインドで拘束出来た時間であった。



たったそれだけの時間で≪錬金術≫を使用して未知の魔力を抜き出すという繊細な作業をしなければいけないと考えると、脳裏に不可能の考えが浮かんでしまい、別の拘束方法が無いかと思考してしまう。




「……たった10秒じゃ元凶の魔力を察知するだけで精いっぱい……何か無いか?何か手が……」




化け物の攻撃をいなしつつ、自分に出来るのはこの現状を打破する為に思考を回す事だと必死に何か見落としが無いか考え込む。




「■■■■■■ッッ!!」



――――ブゥゥンッッ!!




「くッッ!?ホント厄介な敵だよ……戦いづらさなら火竜以上だね」



此方は満足に攻撃を仕掛ける事も出来ず、空中に飛び上がれば人型である巨人の手に捕まれてアウト。



周りは殆ど崩壊してはいると言っても少し離れた所には沢山の建物が立ち並ぶ街中での戦闘は神経をすり減らす。




「……んー……火竜の時みたいにもっと余裕があれば……あ……変な事思い付いちゃったかも…」



戦闘はジリ貧で勝機は薄く、何より条件戦という何とも高難易度の事態に思い付きとも言える考えがふとライアの脳裏に浮かび上がる。




「あははは……そうじゃん、魔法を詠唱で繋げる事が出来るなら同じ魔力の技術の≪錬金術≫もいいんじゃない!!」




ライアはまるで名案だと言いたげに言葉を漏らし、自分の未知なる可能性に気が高ぶる。



ライアの考えは単純で、火竜討伐戦の時に使用した前代未聞の分身体10人での大魔法【ポ・セイドン】の理論である、思考別にイメージを補完し合い、より強力で大きなイメージを創造するという考えを≪錬金術≫でやろうという物であった。



しかし、錬金術は魔法と違ってイメージに沿って発動しているのではなく、物の本質を変革させ、物にイメージを付与し、そのイメージに沿った結果を生み出す為の技術なので、ライアの大魔法の時の難易度とは桁が違う。



言ってしまえば大魔法はイメージした物をブッパすればいいだけなのに対し、≪錬金術≫は対象の器を破壊させないように繊細さを維持しながら、魔力の抜き出し効果を発揮させる為に元凶である魔力の中心でイメージを留めなければいけないと言えば、ある程度の難易度が分かるだろう。



そんな事は錬金術師であるライア自身が分からないはずもないのだが、止まる気も無ければ止められる人物もライアの傍には居なかったのだ。




「ふふふ、どの道出来なきゃ人間1人をこの手で殺すか、ここら一帯と俺達を犠牲にするかしかないんだ……無理無茶は許容範囲だもんねッ!!」



――――ダッ!!



「■■■■■■ッッ!!」



ライアが楽し気に笑みを浮かべながら化け物に走り寄って行くと、ライアの表情から何かを感じ取ったのか威嚇の雄たけびを上げながらライアが近づいて来れないように攻撃方法を変える。




――――ブゥゥンッ!!ドガァァンッッ!!



「うぉっと危なッ!!……なんだ?もしかして近づいて欲しくないのかな?」




先程まで近くにいる分身体を腕や足で殴ったり踏みつぶしていたのに、いきなり近くに落ちていた瓦礫を持ち上げ、ライアに向かって投擲する。



「あははは!もしかして理性が残ってたりするのかな?……まぁ仮に理性があったのだとしたら、余計に許せないから意地でも人間の姿に戻して捕まえるけ……どッ!!」




「「「“ウォーター……ブレイザー”ァァァァッッ!!!」」」




――――ズバァァンッッ!!!



今度こそはと気合を入れた分身体3人の魔法は、先程とは違い完全両足首を切り飛ばし、化け物は前のめりに倒れ込み「バダァァン」と大きな音を立てながらうつ伏せになる。




そこをすかさずさっきと同じアースバインドで封じ込め、素早く化け物の上にライアが飛び乗る。




「■■■■■■ッッ!?」




「さぁ……ここで決めさせてもらうよ……」




建物の陰から化け物に飛び乗ったであるライアが不敵にそう言い放ち、この戦いに終止符を打つ為に≪錬金術≫を発動させるのであった。














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