響く咆哮









―――ぷにぷに



「この肌艶で男性?……いや、ありえません……」



「ライアサン、女のヒトにしか見えませーン!」




ライアが自分は男だと暴露すると、ミオンとアンジュが全く信じようとはせず、ライアの肌や髪を弄り始める。




「ほぇ……ライア様ってすごいんですね」



「ライア様はなんの化粧品を使っているのかしら?」




対して、それ以外の女の子達は比較的年齢も低く、あまり男女の違いが気にならなかったらしく、素直に受け入れていた。



特に男性だから使用人として雇われるのはやっぱり無しでと言われる可能性も考えていたのだが、そう言った事は無かったようだ。




(なんかなし崩し的にこの子達を雇うって了承しちゃったけど、さすがにリネットさんにも相談するべきだったな……)



改めて落ち着いて考えてみると、新しい領地に建てる屋敷はライアとリネット2人の家なのだし、相談した方が良いかと、事後報告ながらリネットに伝える。




『―――という事で、その助けた子達を雇うって言ってしまったのですが……』



『そんなに気を使わなくて構わないのですよ?元々はそこら辺はお父様が手配するとは聞いていましたが、まだまだ先になるだろうと募集はしていないと思うですし、多分大丈夫なのですよ!一応後程お父様にも確認して見るのです』



『あ、わかりました』




リネットは元々、新しい領地に連れて行く使用人はユイだけしか考えていないらしく、屋敷で雇う他の使用人に関してはアイゼル任せらしく、セラ達を雇う事に特に反対はされなかった。



アイゼルが屋敷で雇う使用人をすでに集めていたりすれば、過剰人員になるかも知れないから一応確認はしてくれとは言われる。




(まぁ確かに開拓と建築作業なんかで、どれだけ早くても半年以上は屋敷が出来るまで時間が掛かるだろうし、そんな先の職場に今から応募する人もいないよな……)




リネットもそれほど心配していないようだし、一応後でアイゼルが屋敷に戻ってきたら確認しておこうと思うライアであった。













―――――――???Side






「……たく、面倒な事になったぜ……」



男は物音や他の仲間達の声がしなくなった屋敷を遠目に、逃走用の馬車の中で1人愚痴る。



「あぁ…クソッ……さすがに1人で帝国には帰れねぇか……」



実はこの男、先程ライアに倒された牢屋番の片割れである不真面目男で、フェンベルト子爵の屋敷から離れた場所に逃げだしていた。



それというのも実は男のスキルにそれなりにレベルの高い≪潜伏≫と≪状態異常耐性≫を所持していた為、ライアの≪索敵≫と痺れ毒を上手く搔い潜る事が出来、屋敷を逃げ出すことが出来たという訳だ。



「……このままじっとしてたら王国の騎士達が来て、仲間達は皆仲良く牢屋行きだ……なら俺が動くしかねぇよな……」



もしここが帝国とそれ程離れておらず、すぐに国に逃げ帰れる場所であるか、他にも十分の仲間が居て、帝国に向かう間に村々から食料を強奪できるだけの戦力が居れば話は変わっていただろうが、男にはもう逃げる事は許されなかった。



「………」



男は懐からビンを取り出し、それをじっと見つめる。




「はぁ……たく、本当に厄日だよ……………!!」



―――んぐっ……パリンッ!




男は恨み言を愚痴りながら、そのビンに入っている赤黒い液体を飲み込み、ビンを投げ割る。





「ぐ……グアァァァァァァァ!!!」




―――ベキッッ!ベギャッッ!!




男は体を震わせ、徐々に体の至る所に血の様な赤黒い線が浮かび上がりながら、体積を肥大化させていき、人とは思えない叫び声をあげる。






「ガァァァァッッ!!!!■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!」




――――ダァァンッッ!!






男……いや、すでに男は乗っていた馬車よりもどんどん大きくなっていき、馬車を踏みつぶしながら雄たけびを放ち、理性などどう見ても残っていないはずの目で、自分の敵であるライア達がいるフェンベルト子爵邸に視線を向けるのであった。













――――ライアSide







『ガァァァァッッ!!!!■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!』




「「「「「ッッ!?」」」」」





すでにもう騎士達を待つだけだと気を緩めまくっていたライア達の耳に野獣の様な雄たけびが聞こえて来て、何事かと辺りの様子に気を配る。



(なんだ…?さっきまでは何も居なかった場所に明らかに人間とは違うデカい生き物の反応?……いきなり現れたような気もするけど……いや、それよりもセラ達をもっと遠くに!)



自分の≪索敵≫効果範囲内にいきなり出現したかのように現れた生き物に、疑問があふれ出てきたのだが、その生き物と今ライア達が隠れている小屋が少しばかり近い事を懸念し、先にセラ達の避難を急がせることにした。




「皆、今の叫び声をあげた奴が結構近くにいるの!今すぐもっと離れた所に避難するから付いてきて!」



ライアはセラ達に即座に指示を出すとともに、フェンベルト子爵邸にいる分身体達を囮に使う為、すぐさま外に走らせる。




「ラ、ライア様……先程の声って…」



「ごめんね!まだ確認出来てないけど、明らかに人間の大きさじゃないし、魔物か何かだと思う!」




これが森の中やダンジョンの中で感知したのなら魔物と言い切れるのだが、≪索敵≫の範囲内からいきなり出てきた事と王都の端の方とは言え街中であることを考慮すれば魔物だと断言は出来なかったので、曖昧に返事を返す。



(なんだっていきなりこんな街中に……フェンベルト子爵の奥の手か?)



仮に帝国に亡命するのであれば、王国から去り際に強力な魔物を街中に放して嫌がらせでもしようとしていたのかと危ぶむ。



そしてその時、建物の隣接する道の切り目から、逃げ出すライア達の横目にある化け物が映り込む。




「なッッ!?巨、巨人!?」





街中に現れ、周りの建物を破壊しながらフェンベルト子爵邸に向かっていたのは、黒い皮膚で体の至る所に赤黒い刺青の様な線が走っている20メートルほどの大きな巨人が居たのであった。
















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