乙女達の今後











「ぐあぁ!?」



「ぎゃぁぁ!!」



1人、また1人と兵士達がライアの拳によって沈められていく。




「クソッ!!なんだっていきなり体が動かなく…!?」




「セイッ!」


――――ドゴッ!




「へぶぅッ!?」



ライアを捕まえようとしてくる兵士達は屋敷内に充満させておいた痺れ毒の所為で動きが悪く、若干顔色も悪い。



と言っても、屋敷内には数十人の兵士達が痺れ毒により戦闘不能状態に陥っている事を考えれば、今ライアに立ち向かって来たこの人達は毒があまり効かなかった部類なのだろう。











先程、フェンベルト子爵を取り押さえた後、ライアは屋敷内で毒に弱っている兵士達を取り押さえる為、≪索敵≫で動きのある兵士達を探し回っていた。




さすがと言えるのかはわからないが、元帝国民である兵士達は約半数ほどが痺れ毒に耐えていたようで、屋敷内の他の兵士達の救助に動いていた。



さすがにそれ以上人数が増えれば、毒で弱っていたとしても面倒だとすぐさま判断して、分身体全員で屋敷内を動いている兵士達を取り押さえに行ったのだ。




「……よし、ひとまずこれで全員かな?後は毒で倒れた人達をどうにかしなきゃ」




各所に散った分身体4人の≪索敵≫にもう動いている敵は居ない事を確認した後、毒で倒れた人達の回収に向かう事にした。















―――――ライアSide





「よし、これで屋敷内の兵士の制圧は完了かな?もう大丈夫だよ」



小屋に隠れて分身体を操作していたライアは、フェンベルト子爵邸の制圧が完了した事を安心させる為に、セラ達に伝えると「わぁぁ!!」と女の子達が騒ぎ出す。




「す、すごいです!ライア様!あんなに使いこなすのが難しい≪分体≫を使ってこれほど早く終わらせてしまうなんて……」




「うぇぇぇん!!エルぅぅ!怖かったよぉぉ!!!」



「あはは!アルは怖がり過ぎだよー?」




セラは自分の≪分体≫の扱いずらさを知っている為、素直に賞賛の言葉を送ってくれて、女の子達の中で唯一泣き出しているアルは双子のエルに抱き着いて、安堵の涙を流している。





「さすが【竜騎士】様だね……本当に1人で片付けてしまった」



「そんな事無いですよ。モンドさんからお借りした痺れ毒のおかげで兵士達は殆ど無抵抗でしたし」



「ははは、そう言う事にしておこうか」




モンドは少し驚きの表情を浮かべつつ、ライアの事を茶化しながら賞賛してくれる。




「……あの、もう危険などは無いんですよね?私達に何か手伝える事は無いのでしょうか?」



皆が無事に事が終わったと安堵の声を上げる中、青いストレートヘアをなびかせたミオンがライアにそう質問を投げかけて来る。




「…?そうだね?危険は殆ど無いと思うけど……ミオンや他の皆が捕まっていた場所だし、無理に何かしようとしなくてもいいんだよ?」



「……ですが、ただ助けてもらうというのは……」




恐らくミオンは、何も役に立たずただ救助された事に対して負い目でもあるようで、何か自分に出来る事を手伝いたいらしい。



根が生真面目な性格なのだとは思うが、現状恐らくフェンベルト子爵の屋敷に行きたがる子はそうそう居ないはずであるし、何より今屋敷内で出来る事と言えば、縛り上げた兵士達を一か所に移動させ、兵士達以外である使用人達への事情聴取くらいしかやる事が無い。



つまり、比較的女の子達にやらせるような仕事は無いのだ。




「てな感じで、今出来る事は殆ど無いんだ。ごめんね?」




「いえ、こちらも無理なお願いをしようとしてすみません……では、何か私に手伝える事があれば何でもおっしゃってください!」




手伝える様な仕事は無いのだとミオンに説明すれば、今度はライアの為に出来る事はないのかと矛先を変えてきた。




「いや、そんな何かをやろうとしなくても……」




「いえ!私がどうしても恩をお返ししたいのです!!何かお手伝い出来る事であればなんでも致しますので、家の雑用でもご命令ください!!」




(あぁぁ……この子パテルとクストと同じタイプの子かぁ……)



どうやらミオンは、ライアにかなり恩を感じているらしく、生真面目な性格も相まってライアに恩を返そうと躍起になっている。



「いや、その……家の雑用って言うか私王都在中じゃないし……」



「ではライア様のご自宅までご一緒いたします!」




どうしてそこまで意地になっているのかはわからないが、ミオンはどうやら引く気は一切ないらしく、ライアの鼻先数センチまで迫ってそう宣言してくる。




「いや!お供はもう間に合っているというかすでにいるというか……それに私は新しい領地の領主で開拓を任されてるから、ミオンを連れて行くとなれば色々大変だし……」




別にパテルを贔屓する訳では無いが、そう他人の人生を預かり過ぎるのもどうかと思うし、何よりミオンは名字持ちの女の子、つまりは貴族の娘だ。



さすがに貴族の娘を勝手にお供にするのはダメだろうし、開拓が進み領地に屋敷が立てば王都から2か月以上も離れた土地に行く事になる。



それらを考慮して軽々しく了承しないでいると、横で話を聞いていたセラが口をはさんで来る。





「……ライア様、出来れば私もお連れしてくださいませんか?」



「はい!?」




セラは神妙な顔をしつつ、ミオンと同じ話をライアに持ち掛けて来て、ライアを驚愕させる。




「いや、さすがにそう言うのはダメでしょ?セラやミオンも帰る場所が……」




「無いんです」





ライアの気遣いに対して、セラは悲しそうな感情が宿る瞳をこちらに向け、そう言い放つ。




「え?」



「……恐らく、ミオンも同じだと思いますが、私は親が薬に手を出してその薬を買うお金の代金として売られました……。私は≪分体≫の件で元々家の中で役立たず扱いでしたので、今思えば両親も納得の商談だったのだと思います」




「………それは……」




ライアは先程のフェンベルト子爵の証拠品の中に、セラの売買契約書も見つけており、そこに書かれていたサインがセラと同じ“ジュークス家”名義の名前があったが、薬で精神を壊されての事だと思っていた。



しかし、セラの話では元々家での立場が弱く、売られた事に関してもそれほど不思議はない話だったらしい。




「なので、今更家に戻った所で両親達も迷惑でしょうし、私には居場所がありません……なので、もしよろしければ、ライア様のお傍にお仕えさせていただけないでしょうか?新しい領主で開拓がまだという事であれば屋敷の使用人などもまだ雇われてはいないのではないですか?」




「それは確かにそうだけど……セラはそれでいいの?」




その選択をするという事は両親ともう会おうと思っていないと言っているに等しく、仮に会うとなっても数年は会えなくなってしまう。



ライアのその心配をきちんと理解したセラはしっかりと頷く。



「……わかったよ。雇おう」



「ッ!!よろしくお願いします!!」




元々≪分体≫を教える約束もしていたし、近くにいたいと言ってくれる思いをこれ以上無下にするのは失礼と思ったライアはセラの申し出を受け入れ、使用人として雇う事にする。




「………あのぉ…」



「ん?」



セラの使用人就職が決まると、小屋にいた他の女の子達もこちらを見て来る。



「私も…出来ればでいいのですが……」



「あたし達の事も雇ってくれたり…しないかな?ライアさん」



「わたし……実家の商会が潰れちゃったから……出来れば養って欲しい」





ルビーやスロン、エクシア達が代表してライアの元で働きたいのだと伝えて、こちらを期待するような目で見て来る。



恐らく他の皆も売られた経緯や何かしらの事情で家に戻りたくはないか、雇ってくれる場所が欲しかったらしい。



………若干、1名は少し違うようだが……





「いや、まぁ皆がそれでいいんであれば、こちらも雇う事に否やは無いけど……いいの?王都から2か月以上も離れた辺境だよ?」



了承する前に皆の意思をもう一度確認しようとそう質問すれば。




「救い出してくれたライア様のお役に立てるのであれば……」



「私も家ではちょっと厄介者扱いでしたし……」



「あたしの実家は王都から3か月も離れたド田舎だし、別に構わないよ!」



「ウチは家に帰っても飯は無いだろうからね!」



「え……?雇うの…?わたし働きたくない……」



「わ、私達は、孤児院の為になるし……」



「そうね、私達が他所に行けばその分他の子にご飯が渡るだろうし!」



「ワタシは何となく面白ソウなので付いてイキタイデスッッ!!」




上からミオン、ルビー、スロン、ヴァーチェ、エクシア、アル、エル、アンジュが順に自分の決意表明の様な物を語ってくれたので、ライアはわかったと皆を雇う事を了承する。




「ははは、一気に9人の女の子を骨抜きにするなんて……英雄色を好むって感じかな?」



「……別にそんな意味じゃないですし、私にはリネットさんが居ますから!」




ライア達のやり取りを聞いていたモンドが、少しだけ茶化す様にそう言ってくるが、別に恋愛的な意味で話していないし、ハーレムになどする気も無かったのでそう言い返すと、その反応に女の子達が不思議そうにする。



「……色を好むと言ってもライア様は女性なので不適切な言葉では?」



皆の疑問を代表してセラが質問して来て、まだ説明していなかったことを思い出し、質問に答えるのであった。





「あ!ごめん、そう言えばフェンベルト子爵達に女と勘違いさせておくために言ってなかったけど……私、実は男なんだ……騙したみたいになってごめんね?」








「「「「えッッ!?」」」」











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