成敗














――――ライアSide






屋敷の中は未だ兵士達が駆け回り、侵入者の存在を警戒しながら帝国へ向かう為の準備を進めていた。




(…さて、まずは屋敷にいる兵士達の無力化を進めたいんだけど……)



主に敵対勢力の主戦力は今屋敷を駆け回っている兵士達が主で、フェンベルト子爵がもしかしたら魔法などを使えるかも位の物だろう。




それに先に兵士達を無力化できれば、フェンベルト子爵が帝国へ逃げる事は不可能だろうと思っての事だ。



(ん……?)



そんな風にこれからどう動き出そうか考えていると、執務室にいるフェンベルト子爵の動きを知る為に、部屋の外に待機させていた分身体の耳に、大きな怒鳴り声が聞こえて来る。




『――えぇい!そんな言い訳はいらぬッ!……どの道帝国との繋がりがバレた今、女どもを探す時間も無いのだ!侵入者に馬で追って来られぬように馬車に繋いだ馬以外は処分して、さっさとこの国を出るぞ!』




『『『はッ!』』』



どうやら、地下のセラ達が侵入者(ライア達)に連れ出された事もすでに報告されているらしく、フェンベルト子爵は苛立ちを隠せない様子で、兵士達に怒鳴り散らしていた。




(………セラ達を諦めてくれるのは助かるな、セラ達の居る小屋付近には俺の本体とモンドしか戦力は無いし、包囲でもされたら手加減なんて出来ないし)




もし仮にどうしようも無くなった時は、分身体達を即座に消して、新たに≪分体≫で作成した後に大規模魔法をぶっぱするしかないかと物騒な考えをしていたが、ひとまずその心配はしなくてもいいらしい。




ライアが懸念事項が一つ無くなった事にホッとしていると、兵士達が出て行った部屋の中から、再びフェンベルト子爵の怒声が聞こえて来る。




『クソッッ!!捕まえたあの時にでも楽しんでおれば……!』




「……楽しむ…?もしかして、牢屋で言っていたアレの事か?」




部屋から聞こえて来た怒声に脈絡は無いが、という言葉に1つ、心当たりがあった。



(……あの時って言う位だから俺が捕まっていた時に痛めつけたいとかって言ってた奴だよな……うげぇ…)



ライアの考えるそれが正解なのであれば、フェンベルト子爵は相当のクソ野郎だなとライアは顔をしかめる。



あまりこれ以上フェンベルト子爵と関わりになりたくは無いが、そうも言っていられない。




「はぁ……、ひとまず兵士達にはモンドさんから借りた痺れ毒を気付かれないように散布して、安全に戦力を削って行くのが安全策かな?」







ライアは分身体を使い、モンドから先程の痺れ毒よりも広範囲に拡散する毒を借りていたので、それを屋敷内に充満させ、兵士達の無力化を図る。




実はモンドから借りた毒は、分身体であるライアにも効くのだが、ライアのレベル7の≪状態異常耐性≫のおかげで殆ど支障はない。



恐らくライア本体がこの場に居れば、身体に痺れや軽い痛みなどはあったのかも知れないが、分身体に痛覚は無いので問題は無い。




「さて、それじゃこっちも動き出そうかな?」



ライアは未だ部屋の中でイラついているフェンベルト子爵を取り押さえる為に、部屋に入ろうと考え、ドアの前に立つ。



「……一応、油断せずに行こう……“ドロイド”ッ!」



部屋に入る前に、相手が油断してくれるように、魔道具の首輪を装着したライアの幻を作り出しつつ、ライア自身は“カモフラージュ”で姿を消してからフェンベルト子爵の部屋に入って行くのであった。














部屋に入って来たライアに、当然の事驚いたフェンベルト子爵は何をとち狂ったのか、訳の分からない事を言いながらセラ達の事を聞いてくるが、それを無視していた。



そんなライアの反応に何を思ったのか、とても嫌らしい顔を向けて来たので、警戒はしていたのだが……。






―――バシィンッ!バシィンッ!バシィンッッ!!!



「ははは!さすがは冒険者、一度や二度の痛みには顔色すら変えんか!……ではそのやせ我慢、何時まで持つかな!!」





(……ヤバ……そんな嬉しそうに言わないでよ……ッ……ぷっ!…)




ライアの目の前では土人形のハリボテに対して、とても機嫌が良さそうに鞭を振う何とも間抜けな光景が広がっている。



(あぁ!魔法攻撃もあるのかなって思ったけど……鞭での攻撃しかしてこないし……やっぱり戦闘能力は無いんだろうけど……ふぐッ…)



あまりに滑稽な姿に、先程まで嫌悪の感情を持ってクソ野郎と心の中で罵倒していたが、今や手の上で踊るピエロだ。



さすがにずっと土人形に鞭を振い、悦に浸る姿にそろそろ笑いを抑えるのが困難になって来た。





―――バシィンッ!



「……ッ…」



土に対して思いっきり鞭を振う姿に思わず笑いをとどめようと、くぐもった声を出してしまう。




「ははははは!!ほれほれぇ!さっさと他の女たちの居場所を言わねばさらに痛い目を「ぶふぅッッ!!」見る事…に?」





そんなライアの反応に勘違いをしたフェンベルト子爵にもう我慢が出来ないと思わず吹き出してしまう。




「な、なんだ!?いきなり笑い出しおって!?」




「あははは……いやぁ、ちょっとした様子見のつもりって思ったんだけど……予想以上に絵面が面白くて…」




当然、笑い声をあげるライアに不審感を覚えるのは当たり前で、ライアに対して警戒心をあげているが、すでにもうフェンベルト子爵に戦闘能力は殆ど無いとわかっていたので、幻魔法を解除する。





「……どういうことだ…!?なぜお前がそこにいる!?……そしてあれは……土で出来たハリボテか!?」




「ふふふ、正~解。……まぁ今までお前が一生懸命虐めてたのは私が土魔法で作った土人形って訳……いやぁ、あんなに楽しそうに土遊びするもんだから笑いが止められなくてね……ふふ」




「ぐぅッ!?き、貴様ぁ!!」




ライアの挑発が頭に来たのか、土人形ではなくライア目掛けて鞭を振ってくる。




――――パシッッ!!



「んな!?」



「こんな鞭如きで私を甚振ろうとでも考えていたのなら、それこそ滑稽だよ?……こんなのじゃぁ私に傷をつける事なんて出来る訳が無い」



フェンベルト子爵が振るった鞭はライアが素早く掴み取って見せつつ、力の差を見せつける。




「くッ!」



さすがに分が悪いと悟ったのか、フェンベルト子爵はライアに武器である鞭を投げつけると、出口である部屋のドアに向かって走り出すが…。




「―――逃がすわけないでしょ?」




――――ダァァンッ!!!



「ぐぅぅッ!?」



逃げ出すフェンベルト子爵の背中を後ろから勢いよく蹴りかかり、そのまま床に押さえつける。




「……仮に逃げ出すなら、ドアじゃなくて部屋の奥にある窓を突き破って逃げるべきだったね……まぁその場合でも捕まえれただろうけど」



「……うぅ……」



床に叩きつけられた影響かライアの言葉に反応したのかは定かではないが、息を漏らす様に苦し気な声をあげ、そのまま気を失う。




「今までの悪行を償ってください」




聞こえてはいないのはわかっていたが、どうしても言いたかった事だったので、今までの犠牲になった人達に代わってそう伝えるのであった。

















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