反撃開始











フェンベルト子爵の屋敷から脱出したライア達は、セラ達が戦闘などに巻き込まれないように屋敷から離れた所にあった誰も住んでいないであろう小さな小屋に身を隠していた。





『そうか……こちらからも騎士達に急ぐよう伝えておくが……どれだけ急いでも30分以上はかかるはずだ。あまりライア殿には無理をしないで欲しい所だが……』



『大丈夫です。私達は近くにあった小屋で身を潜めて、私の分身体達だけで制圧するつもりですので、私はもちろん、他の皆にも怪我などはさせるつもりはありませんよ』




小屋を見つけてからアーノルドに事態の説明をする為、ライアは王城にいる分身体経由でフェンベルト子爵達を取り押さえようと動いている事を連絡していた。



『そうか……わかった。すまないが、騎士達が向かうまでの時間の捻出、もしくは子爵達の制圧をライア殿にお願いするよ』



『かしこまりました!』




アーノルドがライアの独断とも言える考えを納得してくれて、後々に作戦無視の罪に捉えられないようにあえてライアに命令を下してくれる。



(……フェンベルト子爵に警戒させたのは俺の失敗なのにアーノルド王子に迷惑をかけちゃったな……今度、今のアーノルド王子でも着こなせそうな女性服をプレゼントしなきゃね!)



今回の制圧作戦はライアのちょっとしたミスから必要性が出た物だったので、アーノルドに申し訳ない気持ちになりながら、今度お礼をしようと密かに決めるライアであった。




「……さて、作戦の許可も取った事だし、始めるとしますか……」



ライアは遠くにあるフェンベルト子爵邸にいる分身体4人に意識を向け、執務室から最低限の金や貴重品を持ち出し、逃走用の馬車に向かっているであろうフェンベルト子爵に向けて分身体達を動き出させるのであった。















――――――――――――――

――――――――――――

――――――――――












―――――フェンベルト子爵Side




「くそッ……なぜだ!?なぜ奴隷の女どもが逃げ出せる!なぜ侵入者を発見できんのだッ!!」



「も、申し訳ありません……屋敷内は全兵士の総力を持って捜索しているのですが、スキルか何かで見つける事が出来ず……」



「えぇい!そんな言い訳はいらぬッ!……どの道帝国との繋がりがバレた今、女どもを探す時間も無いのだ!侵入者に馬で追って来られぬように馬車に繋いだ馬以外は処分して、さっさとこの国を出るぞ!」



「「「はッ!」」」




クソッ!何もかも上手くいかない……。



隠し部屋に隠しておいた帝国とのやり取りを記載してある書類は盗まれ、帝国に売るはずであった女どもも逃げ出され、帝国から貸し出されている兵士達の隊長達の行方も分からないままなのだ。



そして何より、今日捕えたあの生意気そうな赤毛の女……名前はライア・インクリースとか言う平民から名字持ちになった貴族のなり損ないの事だ。



あの女は帝国に向かう間に、たっぷりと痛めつけ、許してくれと泣きじゃくらせるのを楽しみにしていたというのに……。



「クソッッ!!捕まえたあの時にでも楽しんでおれば……!」



牢屋番である兵士達も未だ意識が戻っていないらしく、女どもを逃がした侵入者の情報すら手に入っていないので、もうどうしようもない。



(……あの役立たずどもをおいて帝国に出発したい所だが、帝国から借りた人員を勝手に切り捨てでもすれば、帝国内での立場も弱くなりかねん……)




――――コンコンコン




どうにかこのイライラをどこかにぶつけたい気持ちになっていると馬車の準備が出来たのか、執務室の扉がノックされる。




「やっと準備が出来たのか……入れ!」



――――ガチャ…




「こんにちはー」



「なっ!?貴様は!?」




兵士だと思っていた所に執務室のドアを開けて入って来たのは、今しがた旅のお供にしようと考えていた赤毛の女、ライア・インクリースであった。




「なぜ貴様がここに……いや、寧ろ好都合だよ……逃げたペットが主人の元に帰ってくるとは、躾はもういらなかったようだな」




部屋に入って来たライアの首にはまだ奴隷の首輪が装着されており、逃げ出した際に首輪を取り外す事が出来なかったのだと理解できる。



大方、ここに来たのも首輪のカギを探してなのかも知れないが、首輪のカギは牢屋番の休憩室にしか用意されていない。



(逃げ出す際にカギを見逃したか逃げる事に夢中だったのかも知れないが、馬鹿な女だよ……寧ろ本当に私のペットになりに来たのかと勘違いしてしまいそうだよ)



私は他の女達の居場所もこいつなら知っているかもしれないし、遊びがてらこいつを虐めてやろうと腰に取り付けていた鞭を取り出し、ライアに近づいて行く。



「私の可愛いペットになりたいのであれば、女達の居場所とお前達を逃がした侵入者の特徴を言いなさい?……あぁ言わないのであれば別に構わない…ただお前が余計に痛い思いをするだけだから……なぁッッ!!」



――――バシィンッ!!




「………」




「ははは!さすがは冒険者、一度や二度の痛みには顔色すら変えんか!……ではそのやせ我慢、何時まで持つかな!!」




―――バシィンッ!バシィンッ!バシィンッッ!!!




「……ッ…」



ライアに狂気じみた表情で鞭を振っていると、さすがに鞭の痛みに耐えられなくなったのか、ライアの表情が僅かに歪む。




「ははははは!!ほれほれぇ!さっさと他の女たちの居場所を言わねばさらに痛い目を「ぶふぅッッ!!」見る事…に?」



鞭を叩きつけている途中でライアが吹き出し、何やら肩を揺らし始める。



「……ちょ……ヤバ……めっちゃ面白ぉ…ぷふぅ!あっはっはっは!!」




「な、なんだ!?いきなり笑い出しおって!?」




痛みに気をやったのかと驚愕していると、目の前のライアの姿が徐々に歪みだし、姿を変えて行く。




「あははは……いやぁ、ちょっとした様子見のつもりって思ったんだけど……予想以上に絵面が面白くて…」



ライアの姿が徐々に土色の何かに変わって行くのと同時に、ライアの声が目の前の物体からではなく、少し横から聞こえる事に気付いた私はそちらに目を向ける。














「……どういうことだ…!?なぜお前がそこにいる!?……そしてあれは……土で出来たハリボテか!?」





「ふふふ、正~解。」







そこには首輪も付けておらず、傷なども一切負っていないライアがいきなり現れ、今までライアが居たと思っていた所には土の人形がそこに鎮座していたのだった。
















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