作戦変更













「―――居たか?」



「こちらには特に異常はございませんでした!」



「……そうか、隊長達のグループも未だ戻っていないのか?」



「連絡は入っておりません!」




フェンベルト子爵が隠し部屋の様子に気が付いたらしく、すぐさま侵入者を探す様に兵士達に通達されたようで、屋敷の至る所で、侵入者を探し兵士達が捜索を開始していた。



捜索を開始してすぐにモンドが倒した隊長兵士達が居ない事も発覚したらしく、そちらの捜索もしているようだった。




「(……ライア君もおっちょこちょいですね?フェンベルト子爵の隠し部屋から証拠品を持ち出してそのままにしておくなんて)」



「(うぅ…すみません)」




侵入者の捜索をしている兵士達のすぐ横には“カモフラージュ”で姿を消しているライアとモンドが気付かれないように小声で話しながら、兵士達の話を盗み聞きしていた。



ちなみに、隠し部屋の事に気が付いた時に、証拠品や気絶した兵士達を倉庫に隠し続ければ、すぐに見つかってしまうだろうと、屋敷を探索させていた分身体を1人倉庫に待機させて、こちらも“カモフラージュ”で発見できないように細工をしていた。



(……はぁ…出来れば護衛として少しでも分身体を手元に残しておきたかったけど……こればっかりはしょうがないか……)



今現在、屋敷の探索に3人分身体を作り出していたが、1人は倉庫に配置して他2名は地下への入り口付近の監視とフェンベルト子爵の動向を監視させる為に動かしている為、ライア自身の防衛力はライア本人の力のみという不安の残る状態であった。








「(あはは、私も兵士達を倒していますからお互い様ですね………。しかし、これで屋敷を出発するのが早まるとなると色々と面倒ですね)」




「(……もしそうなれば、フェンベルト子爵達を引き留める為の戦闘は必須になりますね……)」



さすがのライアも本体で戦闘に参加しようとは思わないが、満足な戦力もないまま戦闘をこなさなければいけない可能性を考えて、少し憂鬱になってしまう。




「……もし、屋敷の中にまだ侵入者が残っているのであれば帝国へ出発するのも邪魔されかねん!何としてでも探し出せ!」



「「「ハッ!!」」」



モンドと話していると、兵士達の会話が終わったらしく、命令の言葉とともに兵士達は屋敷の方々に走り去っていく。




「……行ったね」



「そうですね」




兵士達が居なくなったことで押さえていた声量を元に戻して、話し始める。




「さて、こうなったらもう兵士達を各個撃破していくか、フェンベルト子爵を直接抑えるかだと思うけど、ライア君はどうしたい?」



「そうですね……出来るなら武力での解決は最終手段にしたかったのですが……しょうがないかもですね」



本来であれば、安全を考慮して王城から来る騎士達と一緒にフェンベルト子爵達を抑えたかったのだが、そうも言っていられないかも知れないとライアは覚悟を決める。



「でも、戦闘になるのだとしたらモンドさんは私本体と一緒に地下で捕えられている女の子達の護衛側ですからね?」



「それは……嫌だと言っても聞き入れては貰えそうにないね……わかった、そこは【竜騎士】様に従おう」



ライアの命の危機が無い分身体とは違い、モンドの体は有限であり、話を聞くと直接的攻撃手段は持ち合わせておらず、毒物での間接的攻撃手段しかないらしいので、さすがに戦闘に参加させる訳にはいかないとモンドに伝える。



モンド自身も自分では兵士達多人数との戦いでは無事では済まないと理解してくれたのか、すぐに引いてくれる。





「……【竜騎士】の称号で呼ばれるのは少し恥ずかしいのでやめてくださいよ?……ふふふ」



「これは失礼をいたしました……っぷ、あははは」





モンドの演技混じりの軽口に対して、思わず笑みを溢しながらそう反論すれば、モンドも仰々しく言葉を返してきたので、2人そろって緊張感もないまま笑い合うのであった。













――――――――――――

――――――――――

――――――――













「ぐあぁッ!?」



「ぎゃぁッ!!」


――――バタ……




ライア達はフェンベルト子爵が出発の時間を早めて、逃げられる前にライア達で捕まえようと決めた後、戦闘になった時にセラ達に危険が及ばないように先に逃がそうと考えて牢屋のある地下に来ていた。



地下の入り口には分身体を1人待機させていたので、その分身体に地下を先行させて、先程ライアに色々とフェンベルト子爵の悪事に関する事などを事細かく教えてくれた牢屋番2人を無力化させ、牢屋のカギを奪う。



「……さっきは色々と話してくれて助かったよ。でも許す気はサラサラ無いし、後で必ず騎士達に引き渡すから反省しなさいね」



ライアは気絶して意識の無い香水男に先程の恨みでは無いが、嫌な気分にさせられた仕返しとでも言いたげに言い放ち、セラ達の待つ奥の牢屋に向かって歩き出し始める。





「あの兵士に何か因縁でも?」




「因縁というほどでは……ただあの人土のお人形がお好きな変態さんみたいなので」




幻とはいえ、自分を帝国のペットだと嫌らしい目で見下してきた相手に、少なからずムカつきがあったらしいライアは少し嫌味を乗せながらモンドに説明する。



モンドもドロイドの魔法は先程見ていたし、何となく想像が出来たのか苦笑いを浮かべるのであった。




「……あ、いた!皆―!来たよ!」




「あ、ライア様!」



「「「「ライア様(さん)!」」」」




地下を歩いて行き、奥の部屋に到着すると、牢屋の中で座り込んでいるセラ達を発見して声をかければ、すぐにセラが反応した後、他の女の子達もこちらに気付いたようで、すぐさま賑やかになる。



一応地下に来る前に皆を先に逃がすという話は分身体経由で伝えていたのだが、実際に牢屋の外から迎えに来たライアを見て興奮してしまっているらしい。



「ふふふ、興奮するのもいいけど牢屋を逃げ出す時は静かに行動しないとすぐに人が来ちゃうから気を付けるんだよ?」



「あ、ごめんなさいライア様……ほら皆も落ち着かないと!」




ライアの言葉にすぐさまセラが反応すると、周りの女の子達にも静かにするように声をかける。



そのやり取りを聞いた他の女の子達も煩くして人が来られるのはまずいと思ったのか皆一様に口に手を当て、声を出さないように気を付ける。



……ちなみにエクシアは最初から特に騒ぐこともなく、今も欠伸を抑える為に手を口に当てているだけだったようで、皆とは少しだけ違ったようだが……。





「……いきなり逃げ出す形になっちゃってごめんね?少し私がミスをしちゃってね……皆の事を危険な目には絶対合わせないから、私に付いてきてくれるかな?」



本来であれば王城から騎士達の救援を待った後に、安全に外に出るはずだったのにライアの凡ミスによって事情が変わったことに対して申し訳ない気持ちがありそう聞けば、セラ達はきょとんとした表情を浮かべた後、笑顔で頷く。



「ライア様が来てくれなければ私たちに希望なんて無かったんです」



「そうですよ……私達はライア様に感謝の気持ちしか無いのですから謝らないでください」



「むしろ現在進行形であたしたちはライアさんに迷惑かけてるし、こっちが謝り倒すべきかな?」



セラ、ルビー、スロンが代表してライアにそう返事を返せば、他の皆もそうだそうだと言わんばかりに頷く。




「そっか……ありがとう皆……なら誰かに気が付かれる前にさっさとこんな所出発しようか!」




「「「「はい!(おぉー)」」」」




ライアの掛け声に女の子達は元気よく返事を返してくれて、屋敷脱出を目指して動き出すのであった。












「その前にまず、そのボロボロにされたドレスをどうにかしてあげた方が良いんじゃないかい?ライア君」




「あ……」




後ろで見ていたモンドの指摘により、セラ達のボロボロの服を“ファントム”の応用で綺麗な状態に偽装してから再度牢屋を出発するのであった。














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