暗躍するライア
「……よし、誰もいないね…」
証拠品を集め終わったライアは、フェンベルト子爵の執務室を出て、騎士達が来るまでの間に持ち出した証拠品が見つからないように、どこかへ隠そうと考えて屋敷の中を移動していた。
(さすがにこんな手に一杯の書類を持ったまま隠れるなんて、見つかる可能性をあげるだけだしね)
ライアの腕の中には、隠し部屋で集めた書類などがあるが、量は多くて気を抜いてしまえばドサァっと落としてしまいかねない程大量であった。
もし仮に自身にかけている幻魔法が切れでもすれば逃亡の邪魔にもなるし、幻魔法で姿を消していても音自体は消せていないので、下手をすれば書類同士の擦れる音でそこにいるのがバレてしまう可能性もあるので、証拠品の一時的に隠せる場所を探しているという訳だ。
「……と言ってもフェンベルト子爵の屋敷の中でフェンベルト子爵に見つからない場所を見つけるなんてほぼ不可能かも知れないけどねぇ……ん?」
ライアは「最悪、地下の牢屋にいる分身体に渡して牢屋で管理してもらおうかな?」と考えていると、遠くから兵士達が近づいてくるのを察知する。
「――隊長、荷物の積み込みは終わりました」
「そうか……食料に関してはある程度積み込んだら後は破棄しろ。移動中に村を襲撃して食料と女子供を捕えるからな、馬車に余裕を作っておけ」
「よろしいのですか?あまり大事を起こせば、王国に追いかけられるかも知れませんが……」
「少しは考えろ馬鹿め……もう帝国に帰国するのだ、こそこそと隠れる必要などはないんだ。むしろ王国への攻撃として村の畑や人材は残さず刈り取った方が帝国の為になる」
「あ、なるほどですね!すみません隊長!」
廊下の先から近づいて来たのは、隊長と呼ばれている人物とその他数名の兵士達で、話の内容的に帝国に向かう際の事や亡命の準備に関する話をしているようだった。
(……馬車の準備が出来たらすぐに出発するって感じだね……道中の村を襲うって言う事なら何としてもこの人達をこの屋敷から出発させたらダメだね……戦争の為か何か知らないけど人の生活をそんな簡単に奪わせるもんかよ)
兵士達の会話を自身の姿を幻魔法で隠しながら盗み聞いて、そんな事を考えていると廊下の反対側からまたも誰かが近づいてくる。
(…ん?…あれは……モンドさん?)
兵士達とは逆側から近づいてきていたのは、錬金術師達の会合である【報告会】で知り合いになったモンド・メルディであった。
(どうしてモンドさんがここに?……報告会はとっくに終わってたみたいだし、さっきの会場には誰も残っていなかったけど……)
実はライアがフェンベルト子爵の悪事の証拠を集めようと分身体を作成した際に、報告会の会場はどうなってしまったのかと見に行った時にはすでに人はおらず、ライアの逮捕劇の後にすぐ解散したのだろうと思っていた。
なのでもうこの屋敷にはモンドや他の錬金術師達はいないと思っていたが、少なくともモンドは居たらしい。
「……ん?失礼、貴方は先程の会合の参加者でしょうか?本日は予定外の問題もあり、皆様にはお帰り願ったはずですが?」
廊下の先から歩いてくるモンドを発見した隊長兵士はここにモンドがいる事自体可笑しいと質問を投げかける。
どうやらやはりあの騒動の後はフェンベルト子爵が人を追い払ったようで、今ここにモンドがいるのは異常らしい。
「あぁすまないね、私は
「ご友人ですか……?」
「あぁ、君達も知っているだろう?先ほどの件のライア君だよ……あの子に少しだけ言伝があってね」
モンドは隊長兵士の質問に飄々とした態度で事も無げに発言する。
もちろんその言葉を聞いた兵士達はすぐに警戒から敵意を放つようになり、緊迫した空気が廊下に流れ出す。
「……ライア・インクリースは罪人である……面会の許可などは出ないので、言伝があるのであれば、我々が聞いたのち問題が無ければお伝えいたしますが?」
先程とは違い、目に鋭い殺気のような物を含ませながら隊長兵士はあくまでも兵士の仕事として対応してそう言い返す。
「いや、これはライア君に直接伝えなければいけない事だから遠慮するよ……ではね」
モンドは兵士達の殺気に気が付いていないのか、特に何か気にした様子も見せないでその場を去ろうとするが、恐らくもう帝国に逃げると決まっているからか、多少事を大きくしてもいいと判断をしたのか、兵士達は武器を取り出し、モンドの行く先に回り込む。
―――ザザッ!
「……どうしました?」
「いえ、どうにも貴方から先程の罪人と同じ匂いがしましてね……罪人とお仲間である可能性がありますので、我々に従ってくださいますかな?」
「私の友達に罪人はいないし、ライア君も特に罪は犯していないんだけどね?」
恐らくモンドが何を言っても兵士達は聞く耳は持たないだろうし、モンドと兵士達の戦闘はもう避けられないだろう。
(えぇ……モンドさん、どうしてこんなことに……さすがに錬金術師だとしても人と戦う事に慣れた兵士数人相手は無理だろうし、手助けに入るしかないよね………あれ?モンドさん?)
モンドと兵士達のやり取りを真横の特等席で見ていたライアは、モンドがやられるのは困ると加勢に入る心構えを決めていると、モンドの動きに目が行く。
モンドはその場を去ろうとした際に腕を組むようにして、手を白衣の中に突っ込んでいたのだが、兵士達がモンドを取り囲んだ際に何か腕が動いているように見えていた。
「さぁ……大人しく我々に付いて……き……なッ!?」
―――バタン……
「た、隊長!?どうし……がぁッ??」
―――バタッ…バタバタン…
突如、モンドを取り囲んでいた兵士達は次々と倒れ込み、何やら痙攣のような物を起こしながら気を失っていく。
「な、何が起こって…!?」
「ん……?その声……もしかしてライア君ですか?」
「あ……」
何が起きたのか分からなかったライアは、驚きのあまりまだ近くにモンドがいる状態なのに声をあげてしまい、モンドにライアが居る事がバレてしまう。
今の現象は良くはわからなかったが、ひとまず敵だとは思えないし、先程も友人と呼んでくれたモンドに対してこのまま隠れているのも可笑しいかと幻魔法で、見え無くしていた姿を現すライア。
「えへへ……すいません、隠れてました」
「驚いたね……何もない所からライア君の声が聞こえて来て幻聴でも聞こえたのかと思ったよ?……大丈夫なのかい?」
モンドはライアの姿を見て、安堵の表情を浮かべながら見た事もない魔法に驚きつつ、そうライアに声をかけて来る。
「はい、この通り何かされたわけではありませんから!それよりモンドさんはどうしてここに?」
恐らくモンドはフェンベルト子爵に捕まえられた事に対する心配みたいなので、自分に怪我などは無いと元気な姿を見せつつ、モンドがなぜここにいるのかを聞き出す。
「何事も無くて良かったよ……私はライア君が正式に男爵位を叙爵されているのを聞いていたから、貴族位の偽称なんて事は無いと知っていたからね。直談判しに来たんだが……どうにもキナ臭いようだね?」
モンドは先程の兵士達以外にも色々と不審な事があったらしく、フェンベルト子爵家事態に不信感を抱いているらしく、難しい顔をしている。
「それは……はい、色々とすでに動いてますけど、フェンベルト子爵は完全に黒の悪党みたいですよ」
ライアは手に持っているフェンベルト子爵の悪事が事細かく記載されている書類をモンドに見せつけるようにして、今何が起きているのかを説明するのであった。
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