隠し部屋?
―――――ライアSide
「うぅ~ん……さすがに執務室の目立つ所に証拠になるような契約書とかはポンとおいて置かないか……」
地下でセラ達と話をしてる時、ライア本体の方はフェンベルト子爵の屋敷の探索を進めており、執務室らしき部屋を見つけていた。
分身体合わせて4人で屋敷を探索していれば、すぐに執務室は見つける事は出来たのだが、肝心の悪事に関する証拠などはこの部屋に保管していないのか、成果は得られていなかった。
「でも、他に隠しておけそうな部屋が無さそうなんだけどなぁ……下手したら証拠になりそうな物はもう処分しちゃった…?……いや、亡命するって言っても今はまだ王国の貴族だし、約束を反故にでもされれば困るはずだから、そう言う書類は残しておくと思うんだけどなぁ………。≪索敵≫じゃぁ書類の場所なんかわかる訳も無いし、お手上げかなぁ…?」
地下室にはセラ達もいるし、この屋敷に居る兵士達の身元を調べれば帝国との繋がりを示す証拠などなくても逮捕することは可能なのだが、ライアの心情的に出来るのであれば、犯した罪は全て償わせたいという思いもあるので、証拠を見つけておきたいのだが、諦めの感情が胸を過ぎる。
「ん~……こういう時に探し物が出来るスキルとかを探しとけばよかったかな……俺の持ってる探知系のスキルは≪索敵≫しかないし……あ、一応≪嗅覚強化≫も探知に入るかな………ん?」
何気なしに呟いた言葉で、ほんの気持ち程度に辺りの匂いに意識が行き、少し違和感を覚える。
(……意識してなかったから気付かなかったけど、この部屋……なんかカビ臭い?……)
今ライアがいる執務室には窓がきちんとついているし、本棚などに収納されている本も特に手入れがされていないと言った感じでは無いので、異様に匂うこのカビ臭さに疑問が残る。
「換気はキチンと出来る作り出し、本も別に綺麗なまま……って事はそれ以外からか…?……≪嗅覚強化≫!」
分からない疑問を解消すべく、普段は意識しなくても恩恵を与えてくれる≪嗅覚強化≫をあえてしっかりと発動させれば、このカビ臭さの原因となる場所が見つかる。
「……この本棚の……裏?……って事は隠し部屋か!!」
普通に生活していれば隠し部屋などとは無縁の存在ではあるが、前世で色々な物語やアニメでそう言った存在に憧れを持っていたライアはすぐに隠し部屋の可能性に気付き、興奮したように声をあげる。
「リアル隠し部屋……なにそれ良いなぁ……新しく建てる家に一個作ってもらおうかな…」
フェンベルト子爵の悪事の証拠が隠されているかもしれないという考えよりも、隠し部屋カッコいいなという如何にも男の子らしい気持ちが溢れてしまい、リネットと話し合おうかなと呑気に考え込んでしまう。
「っていけないいけない……あんまり時間も無いんだし、さっさと証拠探ししなきゃ」
王城から騎士達が来るのは大体1時間程……それまでの間にフェンベルト子爵が証拠品を持ち出したりしてしまえば、後で探す時に面倒になってしまうと考え、執務室の隠し部屋に入る為に本棚に目線を送る。
「さて……普通だったらこの本達のどれかを引くか押すかすれば開く仕掛けだと思うけど…」
ライアは本棚に収納されている本を手あたり次第に抜き差ししたり、本棚の内部などを確かめたりしたが、特に何か変化などは起きない。
「あれ~…?なんでだ?本の裏も何かスイッチがある訳でもなさそうだし、魔道具を使ってる様子もないんだけど……」
こういった場合、この世界で隠し部屋を作るとなれば本を抜き出すことによって、本棚のストッパーが外れて横に動き出すか、魔道具を使用し、特定の本が近くにあれば起動する仕掛けなどがすぐに浮かぶが、ライアの見立てではこの本棚は何処からどう見ても普通の本棚だ。
「………え?もしかしてだけど……」
ライアはとある可能性を思いつき、出来れば当たっていて欲しくないと思いながら本棚に手を伸ばす。
―――ぐいっ……
「………」
ライアの両手で持ち上げられた本棚は普通に動き、後ろに隠れていた隠し部屋の通路が
ライアはまさか仕掛けも何もなく、ただ単に入り口の前に本棚を置いているだけという事実を前に何とも言えない残念感を覚えてしまい、悲しそうな顔を晒してしまう。
「……がっかりだよ……ホント……」
ライラの中でフェンベルト子爵の株がマイナス域からさらに下がり、次会ったら問答無用で殴り掛かってしまいそうだと思うほど、失望の念を抱きながら、隠し部屋の中に進んで行くのであった。
「うへぇマジか……よくこれだけの事をして、見つかってなかったもんだな…」
隠し部屋の中に入れば、悪事の証拠が出るわ出るわと大量の書類がそこら中に置かれていて、普通の書類を探す方が難しいと言えるほどであった。
「密売、薬、違法奴隷に……盗賊達との手紙のやり取り…?……なるほど、盗賊に襲わせて女子供を奴隷にって事か……しかも、襲撃場所は毎回別の所でやる徹底ぶり……どうして真面目な方でその努力をしなかったのか……」
書類に書いている事をまとめてみれば、帝国で作成された依存性の強い薬を立場の弱い貴族か、辺境で王都の目が届かない貴族に売りつけていたらしく、薬の噂などは殆ど出さなかったようだ。
そして違法奴隷に関しては、この薬を売りつけた貴族の娘などをお金代わりに売らせたりして、奴隷にしていたらしく、書類にはセラ達の親と思わしき貴族の名前も見つかった。
(……薬で精神を狂わせて実の娘を売らせる……外道ってのはホント落ちる所まで落ちてるんだな……)
地下でライアの胸で泣いたセラ達を思い、思わず力が入ってしまい書類がクシャリと歪む。
「……この貴族達がどうなっているのかもアーノルド様に調べてもらえるようにお願いしておこう……はぁ……胸糞悪い気分ってこんな感じなんだね……なんかいやだなぁ……」
漠然的にこの世界の住人は比較的寛容で、基本が善人ばかりだと感じていたライアにとって、少し嫌な感情が溢れるが、これ以上の犠牲を出させない為にも、この悪事をきちんと公の場にだして、フェンベルト子爵に罪を償わせないとと思考しながら、ライアは証拠品を集めて行くのだった。
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