9人の乙女達
―――――地下牢(分身体ライア)Side
「落ち着いたかな?」
「……すみませんでした。いきなり泣きついてしまって…」
セラが泣き出してから約数分で泣き止み、先程会ったばかりの赤の他人であるライアに抱き着いていた事に気付いて、恥ずかしそうに謝罪をする。
「まぁこんな状況だからそれはしょうがないさ……だが、これからの事を色々と伝えたいから、話をしてもいいかい?……出来れば君達にも話を聞いて欲しいんだけど」
「ひっ!」
そう言ってライアはセラの後ろでこちらを伺っている他の女の子達に声をかけると、一際幼そうな女の子がライアの声にびっくりしたのか、小さい悲鳴を上げてしまう。
「おっと、驚かせてごめんね……君達にも自己紹介を先にしようか……私はライア・ソン・インクリース。一応男爵位の貴族ではあるけど、元は平民だから堅苦しくしなくていいよ」
ライアの自己紹介を聞いた女の子達は、なら自分達もと全員の名前を教えてくれた。
「私はルビー・ボルトと申します……ライア様と同じ男爵家の娘です。ルビーと呼んでください」
「あたしはスロン・マクデル!家は子爵だったけど、ド田舎の辺境貴族だから呼び捨てにしてくれ。よろしくライアさん」
「よろしくルビー、スロン」
最初に話し始めたのはお姉さんっぽい雰囲気のルビーという女の子とスロンという男勝りな元気っこだった。
「私はミオン・エルゼス、エルゼス男爵家の3女なので、私も呼び捨てで構いません。」
「んお?次はウチかな?ウチはヴァーチェ!特に貴族じゃない一般家庭の娘でーす!兄弟は10人くらいいるけどウチは次女でーす!」
牢屋の中で比較的年長そうな女の子がミオン、そしてさっきまで……いや、今もよく見れば寝転んでいるように見せかけてプランクのような体制で筋トレしている女の子がヴァーチェらしい。
「ミオンとヴァーチェね?……一応聞くんだけど、なんで筋トレしてるの?」
「力無き者には美味しいご飯が食べれないからです!」
ライアの問いに力いっぱいヴァーチェは答えて、とてもいい笑顔を向けて来る。
「……そっか……それじゃ君の名前は?」
恐らくこれ以上話を聞いても、碌な答えは返ってこないと瞬時に理解したライアは、残りの女の子達の名前を聞く事にして、先程から眠たそうな雰囲気を醸し出している女の子に話を振る。
「……わたし?……わたし、エクシア……痛いの嫌だったから…たすかるの嬉しい」
先程の会話で皆助かると喜んでいるのか、ライアに向かってそう嬉しそうに話してくる。
「……それは良かったよ」
「うん……痛いと眠りづらかったから……」
「……そうなんだ……」
(……うん……なんか個性的な女の子が多いな…)
ヴァーチェといい、このエクシアといい、少し個性的な子が集まり過ぎではないか?と若干考えてしまうが、一個人の趣味趣向に文句を言うのはダメだなと、何とか気にしない事にする。
「次はワタシデェスね!ワタシはアンジェ!メントバーナ国から旅をしてきた者デス!」
「メントバーナ…?聞いた事無いけど……」
アンジェの話を聞けば、メントバーナ国はこのアンファング王国がある大陸とは別の大陸にある、とても遠い場所にある国らしい。
なんでも家族を流行り病で亡くしてからは冒険者仲間と一緒に旅をして来たらしい。
その旅の途中に魔物の群れに襲われて、1人きりになってしまった時にフェンベルト子爵に捕まったのだとか。
「不幸は重なるとは言うけど……大変だったんだね……」
「大丈夫デース!両親は好きでしたが、冒険者仲間にはイロイロと寝込みを襲われかけたりしてたのデ、ざまぁみろデース」
「おぉう……」
色々と重い過去を喋っているはずなのに、とても明るく話すアンジェに感心していたら、意外と黒い部分が見えて、何とも言えない気持ちになってしまった。
「次は私たちね、私はエル!ただのエルでここに来る前は王都の孤児院で妹と過ごしてたわ!」
「あ、私は……エルの妹で…アルと、言います……すみません、さっきは悲鳴を上げちゃって……」
そして最後の女の子達はどうやら双子の姉妹らしく、先程『ひっ』と悲鳴を上げていた茶髪髪の幼い女の子がアル、アルと瓜二つで髪色が白味がかった金髪なのがエルというらしい。
「エルにアルか……孤児院って言ってたけど、もしかしてベルさんの所かな?」
ライアが知る孤児院はリグとベルのいたあの孤児院しか知らないが、もしかしたらあそこ出身の姉妹かも知れないと質問をしてみる。
「ベルさん……多分そんな名前の人は居なかったから別の孤児院だと思うけど……」
「そうか……いや、ただ知り合いの所の子だったら連絡しようかと思っただけだったから、気にしないで」
これで、この牢屋の中にいる女の子達の名前が全員分かるようになったので、これからの事を話す為に説明を始める事にする。
「よし、それじゃ王城から騎士達がここに来るまでの時間の間に、説明しておきたい事を皆に話しておくね」
ライアはセラ達に今一度ライアのスキルの説明をしつつ、何時頃までに騎士達が来るのか、騎士達が来るまでの間にフェンベルト子爵にバレないように静かにしていなきゃいけない事などを説明していく。
「……ライア様は≪分体≫スキルをお持ちで、それを使いこなされているのですね……」
「そう言う事、だから私は今、王都に8人程分身体がいるし、この屋敷にも何人かいるよ」
「それは……すごいですね…」
セラの関心の言葉に、どれほど分身体を使いこなせているのかを教えてあげたりすれば、何やら表情に影が差したように見える。
「……どうかしたの?」
「あ、すみません……実は私も5歳の時に授かったスキルが≪分体≫でして……今だ碌に動かせない自分が情けなくて……」
なんと、セラは今までで見た事が無いライアと同じ≪分体≫持ちらしい。
しかし、セラは≪分体≫のスキルの使い勝手が良くわからないらしく、ひどい視点酔いに参ってしまってレベルを上げることを出来ていないらしい。
「私以外の≪分体≫持ちって全然会った事無かったから、結構不思議な気分だね……ねぇセラ?もしよかったら、今度≪分体≫の練習をしてみない?私が色々とコツみたいなのを教えてあげるから」
「本当ですか!?」
ライアの提案に、セラは期待の篭った目でこちらを見て来る。
この世界での≪分体≫のスキルは、扱いが難しくハズレ扱いの特殊スキルなので、きっとこれまでの人生の中で碌に使えないスキルの所為で苦労する事も多かったのだろうと想像出来てしまう。
そんな中、25レベルという高レベルの≪分体≫使いが自分に指導をしてくれるとなれば、興奮してしまうのもしょうがないと言えるのかも知れない。
「それじゃぁ訓練を付けてあげるから、もう少しだけ頑張ってここから脱出しようね」
「……ッ!…ハイ!!」
ライアの言葉に、明るい未来を感じたセラはとても綺麗な笑顔で元気に返事をするのであった。
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