牢獄の乙女達









牢屋の中にはライアとそう年の離れていない女の子達が9人程押し込められており、全員が帝国に売られる奴隷らしく、全員が魔道具の首輪を付けられており、皆が絶望の表情を浮かべている。



「……怪我してる所はないですか…?」



現在は牢屋番の2人も持ち場に戻ったようでこの場にはおらず、ライアと少女達10人しかいない。



特に何か喋る事を禁止されている訳でもないので、服がボロボロになるまで痛めつけられている少女達が怪我をしていないかの確認をしようと近くにいた綺麗な金髪の女の子に話しかける。



「……えっと…」



「あ、ごめんね?私はライア・ソン・インクリース……見ての通り敵では無いよ」



さすがにいきなり怪我の心配をされて、素直に返事が出来るほどここにいる少女達は心に余裕はないだろうと気付き、ひとまずは自分が何者なのかを伝えようと自己紹介をする。



自己紹介の際には、ライアもここにいる少女達と仲間だと信じてもらえるように、首に装着された魔道具の首輪を指を指しながら伝える。



「……私はセラ……セラ・ジェークスと言います……ジェークス男爵家の……次女です」



「セラさんね?よろしく……その恰好はあいつにやられたんだね?……怪我とか痛い所はない?」



恐らく先ほどのフェンベルト子爵の発言と服の破損具合を見て、鞭や木の棒などで痛めつけられたのだろうと理解できるが、深い傷などは無いらしく服に血のしみ出している様子などは見当たらなかったが一応確認しておこうとセラに質問を投げかける。




「今は特に……鞭で叩かれた所は軽い痣になってはいますが、痛みなどは大丈夫ですけど……でも……」




セラがセリフの途中で何か言い淀んでしまうが、恐らく怪我の心配をした所で帝国に売られてしまえばもっと酷い毎日が待っているのだと考えたからだろう。



セラは再び絶望の表情を浮かべて、今にも泣き出しそうになってしまう。




「大丈夫……君らは帝国に売られたりなんかしないよ。すでに王国が動いてくれているからね」



「…え?」



今にも泣き出しそうな女の子にあまり勿体ぶって不安にさせる必要もないだろうと、ライアの持つ情報を伝える。




「実は私って結構便利なスキルを持っててね。ここにいる私以外にも沢山別な私が居て、そのうちの一人が王城でフェンベルト子爵の悪事を通報して、今まさにこの屋敷に騎士達が向かって来てるんだよ」



「……騎士…?」



ライアの言葉を聞いて、さすがにすぐに理解する事が出来ないのか、セラやライア達の言葉を後ろで聞いている他の少女達もポカンとした表情でこちらを見つめて来る。



ライアは騎士達がこちらに向かっているとは言ったが、さすがに今すぐここに助けに来てくれる訳では無く、色々と手続きを済ませてから来るのでもう少し時間が掛かるのだが、今は希望があるのだとこの少女達に伝えたかった。




「うん……だから助かるよ。絶対……」




「……ほ、ほんとぉ…?ほんとに…………うっ……ああぁぁ……」




――――ぎゅぅ……




元々この絶望の状況に精神は弱っていたのは明白で、ライアの“助かる”という言葉にため込んでいた感情が爆発したのか、セラは涙を溢しながらライアの胸に飛び込んで来る。



「……たすかる……?」



「…奴隷などにならなくて済むのデスか……?」




後ろでライア達の会話を聞いていた少女達も助かるのかと希望に満ちた目でこちらを見つめてきたので、もう大丈夫だよと頷いて見せる。



頷いた瞬間、他の子達も涙を流して喜んだり、お隣の女の子同士でお互いの無事を祝って抱き合ったり、1人腹筋をしている女の子もいたりと牢屋の中が些か賑やかになる。



(……牢屋番の人達がこっちに来ないように気を付けないとね……ん?なんか筋トレしてる子がいたような……?)




少しばかり可笑しな所もあるのだが、ひとまずは救出が来るまでにバレないように落ち着くのが先決だなと考えたライアは、女の子達を落ち着かせる為に奮闘するのであった。













―――――アーノルドSide







私は先程師匠(ライア)に伝えられた情報をすぐさま父上に報告し、騎士団の要請やフェンベルト子爵邸の周辺住民への非難を進める為に色々な部署を周り終えた後、父上と師匠のもたらした情報に関して話し合っていた。





「帝国が我が王国に……か」




「まだ確定の情報ではありませんが、ライア殿が嘘を言う意味もありませんので、ほぼ確実の情報かと………帝国に抗議を入れますか?父上」




「……講義した所で話を聞くような奴らではないだろうが、何もせずに受け身でいれば奴らの思う壺でもあるのでな……頼めるか?」




「ハッ!」




私は早速帝国関連で動き出さなければいけないと、すぐに国王の執務室を後にして、廊下を歩いて行く。






我がアンファング王国と200年程前まで戦争を繰り返していた、王国に次ぐ巨大国家であるヴァハーリヒ帝国は現代において、交流などは一切取っておらず、帝国がどんな国かもわからないというのが王国民の一般常識である。



しかし、実際には王国の隣である帝国と一切の交流をしていないというのは土台無理な話であり、数年に1度ほど、帝国に使者などを送って話し合いの場を設けていたりする。



であるならばなぜ一切交流をしていないという話になっているかと言えば、これは単純な話、帝国が話し合いに賛同をしないからである。



帝国は王国の使者に関して、捕えて殺されるといった事は今までにないが、国境付近で帝国に侵入を拒まれ、最悪の時は弓を放たれたりもしている。



なので、実際には交流を取ろうとしたが、帝国に全面拒否されているというのが正解なのだ。




(…そんな帝国がフェンベルト子爵と繋がっていた……それに、何人もの帝国民が王国に潜入をしていたとなれば……帝国の目的は間違いなく王国を狙った戦争の一環だろうな……)



王国内の情報を集め、戦力や技術を盗み出し、我が物としようと戦争をかけて来る準備をしているのは明らかだ。



フェンベルト子爵の亡命云々は王国内での活動拠点とこちらの内部情勢の混乱が目的だろうと目星も付けていた。




「……はぁ……そんな戦争をしたがる狂人達をどうにか説得せねばいけないというのは、些か骨が折れる………師匠の元で平和に女装の技を学んでいたいぞ……」





自分から言い出した事とは言え面倒な事になったと、今回の原因である帝国に対して恨み口を溢しながら、アーノルドはライアとの蜜月の日々女装を思い浮かべながら、王城の廊下を歩いて行くのであった。













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