フェンベルト子爵










――――カツ…カツ…カツ




「……ん?」



香水男と話をしていると、地上につながる階段の方から誰かが下りて来る足跡が聞こえて、そちらに気を向けると、先程会ったばかりであるフェンベルト子爵が現れる。



「お疲れ様です、フェンベルト子爵」



「うむ……さて、私に暴力を振った手癖の悪い罪人は大人しくしているかな?」



フェンベルト子爵はライアが視界に映っていながら、まるでこちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべながら嫌味のように喋り出す。




「罪人などと良く言いますね……貴方の方がよっぽど罪を犯しているじゃないですか」



「はははは!私の事を聞いたのか。であるならば説明は省こう」



どうやら自身の悪事などを兵士達が喋った事には特に怒る訳でもなく、単に色々と話す手間が省けて楽になったとでも言いそうな雰囲気だ。



「まさかそなたほど上等な娘が現れるとは思わなく、少々手荒な手段で捕えてしまったが、それも帝国にすぐに亡命すればいいだけの話……おい、あれを持ってまいれ」



「ハッ!」



どうやらライアを捕まえた時点でヴァハーリヒ帝国への亡命計画が早まっていたようなので、ライア本体の方も証拠集めを急いだほうが良いかと思っていると、フェンベルト子爵は牢屋番達に何かを持って来るように伝えると、牢屋番の堅物男が倉庫か何かの部屋から首輪のような物を持って牢屋に近づいてくる。



「……なんですかそれは?帝国の人間は奴隷にペットのような首輪をはめる趣味でもあるのですか?」



「ははは……いつまで強気でいられるか見物だよ」




ライアの帝国民に対しての嫌味にも特に怒りを見せる訳でもなく、フェンベルト子爵はそう笑みを浮かべながら言葉を吐く。



首輪を持ってきた堅物男は牢屋のカギを開けて中に入って来て、香水男の方は万が一にでも牢屋を抜け出さないように牢屋の入り口を守っている。



「……暴れるなよ」



「………」



ライアは特に抵抗する訳でもなく、逃げ出そうともせずに成り行きのまま首に首輪を付けられるのを見ているだけである。



―――ガシャン!!



首輪はライアの首に装着されると、首の後ろでロックでもされたのか少し大きい音を立てる。



(……首輪にしては繋いで置く鎖なんかも無いし、紐を通す穴もない……って事は物理的な行動の阻害では無く魔法的……なるほど…この首輪は魔道具か!)




少し考えてみれば帝国民が人間に首輪を付ける変態集団ではない場合、一番あり得そうな答えは魔道具なのだろうとライアはすぐに理解する。



「フェンベルト子爵、装着を確認いたしました」



「うむ……さて、そなたはその首輪は何かわかるかね?」



「こんな紐を通す穴の無いただの首輪なんて、魔道具以外には考えれないでしょう?」




「ふん……さすがに錬金術師を名乗るだけはあるのだな……まぁいい」




フェンベルト子爵はどうやら首輪の正体を溜めてから言いたかったのか、ライアに魔道具と言い当てられて、少し面白くないような顔をする。



「その首輪はそなたの言う通り魔道具だ……その効果は単純、装着者が魔法を発動しようとすれば、身体から漏れる魔力を感知し、首を締めあげる機能が付いている」



「……それって…」



ライアはこの首輪の機能を聞いて、少しだけ驚いた顔をしてしまう。




「そう、その首輪を付けている限り、そなたは魔法を使う事が不可能なのだよ……そなたのような火竜を倒したというデマで成り上がった者だとしても魔法の一つは使用出来るのであろう?それを封じられれば一般人とそう変わりない」



どうやらフェンベルト子爵はライアの火竜討伐の件をデマであると思っているらしく、ライアの事を少し戦える程度の小娘冒険者と思っているようだ。



恐らく、先程の会場内での逮捕劇で殆ど抵抗せずに捕えられた事で、余計にそう思っているのかも知れない。



「………」



「ふはははは!なんだ?もう怖気づいたのか?私としてはもう少し反抗的でいてくれた方が嬉しいのだがね」




フェンベルト子爵はライアの黙り込んだ姿を見て、魔法が使えない事実に絶望をしているのだろうと機嫌が良さそうにしている。



だが実際のライアの心境は絶望とは少しだけ違った。






――――ギリギリギリ……




(首メッチャしまッとるぅぅぅぅ!?…やばいやばい、ドロイドの首がどんどん崩れて行って下手したら首が落ちる!!!)




実はライア(ドロイドで生み出した泥人形)の首に首輪が装着されてから、ずっと幻魔法を検知しているのか首輪が常に締まり続けていたのだ。



―――ボロッ……ポロ……



土人形の首から崩れ落ちる土塊つちくれを何とか幻魔法で隠しながら、徐々に締まって行く首輪をどうにかしようと慌てていたライアは、フェンベルト子爵の話などは聞けていなかった。



(こ、これどうしよ……もうすでに首の部分が直径10センチくらいしかないんだけど……どうにかして止まりませんかねこれ?下手したらこの人達の前で首がポロっと落ちちゃうんだけど!!)



ライアは慌てていて忘れているが、ドロイドというのは土人形を土属性で作り出した上に幻属性の“ファントム”でライアの姿に見えるように幻を重ね掛けしているだけなので、土人形の首が落ちようとも、第三者から見える見た目に変化はないのだ。



ただ、顔の部分を触られでもしたら、そこに何もないという事がバレてしまうので、そこは問題であるが…。




そんな風に慌てていると、首輪の締まる力が弱くなったのか、直径8~9センチの所で止まり、それ以上締まる様子は無くなった。



(…止ま……た?……てことはここがこの魔道具の最大収縮範囲だったって事かな…?)




ライアは首輪型魔道具の仕組みを観察しながら、窮地を脱したことへのため息を漏らしてしまう。



(はぁぁ……危なかったぁ……くそぉ、ドロイドの土人形だからって首輪くらい良いかって放置したらこんな事になるなんて予想外だよ……これも全部フェンベルト子爵の所為だな!)



意味もなく慌ててしまった悔しさから幻魔法で隠れている分身体ライアはフェンベルト子爵に八つ当たりにも似た睨みをぶつけるが、それに気が付かれる事はない。




「さて、これでそなたは無抵抗の小娘に成り下がった……本来であれば反抗的なそなたを私の鞭で立場という物をわからせ、媚び諂こびへつらう所を見たかったのだが……それは帝国についてからでも遅くはないだろう……今日の所はすぐさま王国を出る為の準備をして、楽しみは後に取っておくとしよう」



「屑だね……」




どうにもこのフェンベルト子爵は、ライアの反抗的な態度に対して喜んでいる節があったが、どうやら気が強いライアを痛めつけて、従順にさせるのが楽しみな変態であったらしく、気持ち悪い笑みを浮かべながら地下を出て行く。



地下を出て行く時に牢屋番に「奥の方に連れて行け」と言って出て行ったので、どうやらこの牢屋の奥にも何かあるらしい。




(……はぁ……なんか無理やりにでも抜け出したくなって来たけど、色々と隠されて逃げられるのも癪だし……もう少し証拠集めとか頑張ろうか……)




実はフェンベルト子爵が亡命を目論んでおり、屋敷には元帝国民の兵士達が大勢いるとわかった瞬間に王城に居る分身体経由でアーノルドやその他へ通報済みであり、先程までのように証拠探しをしなくても良くはなっているのだが、今ここでライアが逃げ出せば、色々と荷物など持たずに悪人達が逃げ出してしまう可能性を考えて、もうしばらく捕まっておこうと考えたのだ。



そうなれば証拠集めも続行させておいた方が、事後処理も簡単だろうとライアは暇つぶし感覚で証拠集めを続けながら、牢屋番の2人に連れられて、地下を進んで行くのであった。






















「ここに入れ」



「………あんたら、本当に屑だね……」




ライア達は地下を暫く歩いた先にあった牢獄に、ボロボロの服を着て、ライアと同じ首輪をした9人の女の子達が怯えた表情でこちらを見つめていた。













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