捕まるライア











「ふむ、ではその少年とやらの身柄は私が預かろう」




「「「『は?』」」」




思わず場違いにもほどがあるフェンベルト子爵につい魔道具マイク越しに、失礼な事を言ってしまうが、会場に居た殆どの錬金術師達も同様に声を上げていたので、ライアの声は特に気にはしていない様子で、こちらに近づいてくる。



「そなた、それほどその少年を隠し立てするとなると、何やら隠しておきたいやましい事でもあるのではないか?」



『いえ?全く』



全く的外れな事を言ってくる相手に、先程まで熱くなっていた心が落ち着いていないのか、反射的に言葉を紡いでしまう。



「しかしそれを証明する手立てなどはないだろう?だから私がその少年を引き取り、そなたの無罪を証明すると言っておるのだ」




『あ、結構です』




ライアはこのおっさん無関係の分際で何しゃしゃり出てあたかも自分が頂点みたいに話してるんだ?と言った気持ちになるが、会場の人達にも目を向ければ同じように可笑しな人を見つめる視線ばかりなので、ライアだけがそう思っている訳では無いらしい。



そんなライアの発言を聞くと、さすがに失礼な物言いをし過ぎたのかフェンベルト子爵はイラついた表情を隠すことも無く声を荒げ始める。




「えぇいいちいち口答えをするでない!お主のような下民が子爵である私に逆らうことなど許されんのだ!さっさとその少年を引き渡せ!」



「いえ、ですから少年の身柄は渡す必要はありませんし、子爵だからと従う気はありません」



「貴様ぁぁ!」



いい加減しつこいと感じながらもきちんと否定しなければと言葉を放つライアだったが、フェンベルト子爵はその言葉に我慢が出来なくなったのかライアに向かって近づいてくる。



(……ん?あれは……)



怒りがあったとて、掴みかかられようとこちらに落ち度はないので手を出す気などは無かったが、こちらに近寄ってくるフェンベルト子爵の右手が胸元に伸びていき、何やら武器を出す仕草をする。



「―――ッッ!?セイッ!!」



「ぐはぁ!?」




ライアは武器を取り出そうとしたフェンベルト子爵に危機感を覚え、咄嗟に武器を取り出そうとしている右手を抑えながら地面に押さえつける。



(さすがに貴族相手に厄介ごとは抱えたくなかったけど、武器を出すってんなら話は別だよ)



「くっ……衛兵!衛兵ぇぇ!!この愚か者をひっ捕らえよ!!」



フェンベルト子爵は自分が不利になっているのだとわかると、すぐに兵士に助けを呼ぶ。



「あなたから手を出してきて何が愚か者ですか……」



フェンベルト子爵の言葉に呆れる思いもあるが、相手は子爵の貴族の言葉なので兵士たちは直ぐに集まってくる。



(……こんなにすぐ兵士が集まる物なのか…?)



ライアがフェンベルト子爵を抑えてからほんの10秒足らずで、会場の外から50人ほどの兵士が詰めかけて来るのを見て、少しだけ疑問が浮かぶ。




「ライア・インクリース!フェンベルト子爵から退きなさい!」



「……私は正当防衛なのですが?」



「そんな証拠などなければ、今現在押さえつけられているのは子爵様であろう!すぐさま人質を解放せよ!」



集まって来た兵士達はどうやら聞く耳を持つ気が無いのか、何を言おうがライアに剣を向けて怒鳴り散らかしてくる。



「そこのインクリース殿の言っている事は確かだが?」



そんな兵士達との会話に割って入って来たのはステージの隅で待機していた進行役の男性で、どうやらライアの無罪を証明してくれるらしい。




「それは……」



さすがに恐らくフェンベルト子爵よりも階級が上であろう貴族にそんな事を言われれば、多少聞く耳を持たざるを得なかったのか、兵士達が少しだけ怯む。



だが、ライアの下で押さえつけられている男がそれを良しとはする訳もなく。



「えぇい!いいからこの女を捕まえよ!!この女は平民で私という貴族を地面に押し倒している大罪人だぞ!さっさとしないか!!」



「は、はい!!」




そのフェンベルト子爵の言葉に触発されたのか、すぐにライアを捕まえようとこちらに近寄ってくる。



「いや、仮に平民だとしても正当防衛が働かない訳ないはずですが?……それに私平民じゃないのですけど」



「は!平民じゃないだと?たかが火竜討伐で国王から家名を貰っただけで貴族気どりか!!…衛兵!この女は貴族の身分を偽称しようともしている!!私を攻撃するだけで無く、偽称の罪で死刑は確実だ!早く捕まえるのだ!」




フェンベルト子爵はどうやらライアの男爵位の貴族になったという事を知らないらしく、大声でそんな事を叫ぶ。



「いや、だから……ってちょ!」



フェンベルト子爵の言葉に訂正を入れようとすれば、近くに来ていた兵士に腕を取られ、無理矢理立たせられてしまう。



「や、だから話をちゃんと聞いてって…!」



「いたたた……くぅよくも私の腕を…」




兵士に取り押さえられたライアは腕を抑えながら立ちあがるフェンベルト子爵を睨む。





「えぇい!その無礼者をさっさと牢屋に閉じ込めておけッ!!」




「いや、だから…」




「抵抗するなッッ!大人しくお縄に付くんだ!!」



兵士たちはライアが何か喋ろうとする度に声を上げてライアの言葉を遮り、報告会の会場の外へ連れて行こうと引っ張ってくる。




「おい、お前達、さすがに強引なのではないか?正当防衛でありながらその対応は……」



「貴方は口出ししないでいただきたい!これは私とあの女の問題です!……それに貴族を偽称するのは詐欺罪の中でも重い物だ!それは貴方も知っているでしょう?」



「………」



ライアが連れ去られるのを黙って見ていられないと思ったのか、進行役の男性が兵士達にそう言葉を投げかけようとすれば、すぐさまフェンベルト子爵が横やりを入れて来る。



さすがの男性も、ライアが男爵位を得たとは知らないようで、貴族の偽称の事を指摘され何も言えなくなってしまい、仕方が無くライアを見送るしかなかったのであった。














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