ライアの発表
ライアにとって、この報告会は何もかもが初めての事なのは当たり前なのだが、今までにリネット以外の錬金術師という人物に会った事が無かったからなのか、ステージ上で錬金術師達が発表する内容はどれも興味深い物ばかりであった。
『出力の低い魔石での効率的なイメージ付与と素材の活用法』
『魔石を植物に与えて人工的な魔物への変質実験』
『新たに見つかった新種の魔物から確認できた未発見の属性魔石』
などetc…
他の錬金術師達が発表する議題は、普段リネットと行っている魔道具の新開発とは別ベクトルの実験結果であり、とても聞いていて為になる話ばかりであった。
しかし、どの発表も既存の実験からそれほど発展した物では無かったらしく、ライア以外の錬金術師達は如何にも『まぁそれくらいは…』みたいな反応ばかりであった。
一応未発見の属性魔石に関しては大きな歓声が上がっていたので、報告会にはきちんと興味は持っているようだ。
『……と言ったように、液体素材の利用法にはまだまだ道が残されているという事になりました』
『うむ……ありがとう。……では最後の発表者、ライア・インクリース……壇上へ』
「あ、はい!」
ざわざわ……
「(ついに来たか)」
「(早く新たな技法…合成術を!)」
どうやらライアは最後の発表であるらしく、進行役の男性に名前を呼ばれ、驚きながら返事を返してステージに向かって歩いて行く。
ライアの名前が呼ばれてから異様に会場の空気がざわつき始め、所々から肉食獣のような視線が飛んできている気がする。
名前を呼ばれてステージに向かう際にモンドから「頑張れ」と小さい声で応援されていたので、自分の仲間が一人はいるんだ!と何とか緊張しないで歩いて行く事が出来、躓かないようにステージの上に上がる。
「これを」
「あ、ありがとうございます……スゥゥ……フゥゥ……よし」
進行役の男性から魔道具(マイク)を受け取り、先程まで見ていた他の発表者と同じくステージの真ん中まで移動し、会場へと視線を向ける。
『は、初めまして……今回私が発表するのは魔石の加工技術……≪合成術≫に関してと加工された
ライアの言葉に会場のざわめきは消え、静寂に支配された空間がそこに出来上がる。
しかし、ライアはここにいる人達が白けて黙りこくっているとは一切思っておらず、寧ろ先ほどよりも目をギラギラとさせている錬金術師達を見て、ライアの発表を聞き逃さまいと意識を向けてくれているのだと理解した。
(……なんだろうね……やっぱり錬金術師って研究者肌なんだろうね。なんかリネットさん相手に話してるみたいで結構落ち着くや……)
ライアはこの≪錬金術≫に対して、驚くほど集中する錬金術師達にリネットの姿を重ねることで、先程まで緊張しまくっていた心が落ち着いて行き、自然体のまま発表を続けていく事が出来た。
『……という形で合成魔石は従来の魔道具よりも品質を上げ、将来的にはさらに高出力、高品質の魔石を作り出すことが可能と結論付けました』
それからは特に舌を噛んでしまうようなミスなどもせず、淡々とリネットとリグ、それにライア自身が調べ上げ、まとめた情報をステージの上から発表する事が出来た。
「質問よろしいか!!」
『あ、はい!』
発表が終わり、ふぅと気を緩めていると、会場に居た錬金術師の一人が我先にと挙手し、質問の許可を問うてきたので、進行役の男性に確認を取らずに反射的に許可をしてしまう。
一応進行役の男性に目線を送るが、静かに頷いてくれたので問題などは無いらしい。
「では質問です……≪合成術≫に関してなのですが、そのスキルは特殊スキルなのですか?通常スキルであれば取得方法の解明などは?もし特殊スキルだとすれば他の所持者などは発見されているのでしょうか?」
『あぁすいません、説明していなかったですね……一応特殊スキルだと冒険者ギルドでは分別されておりますので、後天的に取得は不可能ですね。他の所持者に関しては現状見つかってはいません。冒険者ギルドで調べた所、過去100年で冒険者ギルドで確認できた≪合成術≫所持者は6人と少なく、アンファング国内に仮にいたとしても探すのは困難かと』
ライアは話の中で≪合成術≫の使用法に関しては説明したが、スキル自体の取得方法などの説明はしていなかったと思い返し、すぐに質問に返答する。
冒険者ギルドで改めて≪合成術≫所持者に関して調べてもらったのだが、記録として残っているのは精々100年程であるし、街以外の村や町では冒険者ギルドでは無く、ライアと同じでその村の村長などがステータス鑑定をするので、正確な人数はわからない。
なので、この6人という数字はそれほど正確な物では無いので、もしかしたらこの数字よりももっと≪合成術≫所持者がいるかもしれないが、どのみち探すのは困難だろうと質問者に伝える。
「なるほど……では現状≪合成術≫持ちはその少年以外にはいないと……となるとその少年には我々の工房にも来ていただく必要がありますが、どういったお考えで?」
質問者である男性は、一旦リグ以外に≪合成術≫持ちがいないという事実を確かめると、ライアに向かって鋭い目つきでそんなことを話してくる。
(来たぁ……うわ、すっごい……いきなり獲物を捕らえる猛獣みたいな目になってるんだけど……こっわ)
その男性の言葉に釣られるように、他の錬金術師達もライアを見つめる視線を強め、まるでライオンの餌にでもなった感覚を覚えてしまう。
(……でもここで負けてちゃリグを搔っ攫われるんだからしっかりしないとね……なんだよ、
恐らく相手は貴族。自分の要求を通す為に若干無理筋な内容でも、こちらがきちんと対応しなければ妙な所で上げ足を取られるかもしれない。
ライアはふぅ…と深呼吸をしてから真正面に目を向け、戦う覚悟を決める。
『……申し訳ありません…現状≪合成術≫を所持している少年の出張、移籍に関しては一切考えておりませんし≪合成術≫自体も現状以上に酷使するつもりはありません』
「それはさすがに自分勝手すぎるのではないか?もしかすれば移動した先に少年にとって糧になる物があるかも知れないし≪合成術≫のレベルアップの妨げにもなりかねない……少年の自由を縛る選択では?」
男性はあたかも少年、リグの心配をしているような発言をするが、その実人材貸し出しをさせる為の方便なのはすぐにわかる。
「……それに酷使とは言うが、今現在どれほどの速度で合成魔石を作成しているかわからないが、そう言うという事は我々に渡す合成魔石の量を制限したいのであろう?」
これに関してはしょうがないのかも知れないが、先程の発表でもレベルが低い時点ではそれほど生産速度は速くはないと伝えてはいるが、現状の生産量などは伝えていない為、合成魔石の出荷量を絞って料金のかさ増しと捉えられてもしょうがない。
『……確かに合成魔石の供給量は制限したいのは事実ですが、それは少年の体を労わってです。少年の未来を奪うのかと言われるほどなのですから、少年の過剰労働に関しては納得してくれますよね?』
「それは少年が過剰労働をしているのか我々にはわからないだろう?それを知る為にも少年を一度我々の所に派遣をと……」
『人材貸し出しの件については何と言われようと許可する訳には行きません。これは私と少年、それに工房主であるリネット・リールトン嬢で決定したことですので』
話しは平行線、お互いが譲らないのであれば話は終わらず、徐々に話し合いは熱くなっていってしまう。
そんなリグの処遇を話し合っているライア達の所に、1人ステージの上まで上がって近づいてくるものが一人。
「ふむ、ではその少年とやらの身柄は私が預かろう」
「「「『は?』」」」
ライアと会場に居た錬金術師達はその瞬間、同じ思いを胸に抱いていた。
(((いや、おめぇぇはかんけぇねぇーから!!)))
ステージ上に上がって来たのは、フェンベルト子爵その人であった。
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