錬金術師達の集い【報告会】








「なるほどね、それで≪錬金術≫を……」



「はい、先生に恵まれたのもあって、今では傷薬以外にも魔道具の実験なんかもやらせてもらってますね」



報告会が始まるまで、せっかく知り合ったモンドと世間話をすべく、ライアがどのように錬金術師の世界に入ったのか、今はどんなことをしているかなどを話していた。



もちろん隠す所は隠しているし、リネットや冒険者ギルドの内情などは特に詳しくは話していないので、大まかな流れだけを話している。




「まだ≪錬金術≫を習得して1年も経っていないんだろう?それでその成長速度は驚愕だね……さすがはの教え子と言った所かな?」



「魔女……?もしかしてリネットさんの事ですか?」



“教え子”という言葉を使っているので、ニュアンス的にはリネットの事をそう呼んでいるのだろうが、どうして魔女という呼び方をされているのか分からず、疑問の表情を向ける。




「あぁ本人には聞いてないのかな?…実は私はリールトン嬢とは貴族学院で同級生なんだが……あの人は学院に居る時は常に魔道具の実験や研究に没頭していて、研究棟に引きこもっているような人だったんだよ」



「それは……簡単に予想できますね……」



「あははは!その様子じゃ根本的な部分は一切変わっていないようだね」




モンドがリネットと同じ19歳で同級生だったというのは驚きはすれ、ありえなくはないのだろうとすぐに納得できる。



基本的に貴族は貴族学院に入って、様々な事を学ぶのが習わしらしいし、≪錬金術≫を学んでいるのならほぼ確実に学院には行っているはずなので、リネットと同じ19歳で錬金術師であれば知り合いでもおかしくはないからだ。




「でも、どうしてリネットさんは魔女なんて呼ばれ方をしているんですか?」




「あぁそうだったね……これは勘違いして欲しくはないのだけど、魔女という呼び名は蔑称や悪口の類じゃなくて、彼女を賞賛した呼び名なんだ」




どうしても自分の尊敬する先生であり、自分の婚約者が悪口を言われているのかもと少しだけ深刻な顔をしていたのがモンドにバレたのか、訂正するように声をかけてくれる



「というと?」



「実は彼女は学院に在籍する間に新しい魔道具を幾つも作り出し、王宮専属の錬金術師にならないかと何度もスカウトされるほどの秀才なのは知ってるかい?」



「……初耳です」




元よりすごい錬金術師というのは聞いていたが、新しい魔道具をポンポン作り出すほどの事をしていたとは知らなかったし、スカウトの件も聞いた事が無かった。




「ふむ。実はそれほどまですごい事をしているのにも関わらず、彼女はそれでも自分のしたいことはやめないし、王宮からの誘いを『我が家の領地でボクの工房を貰える約束なので、そっちに行きます』と言って断ったそうなんだよ。だからその自分のしたい事にまっすぐな所と錬金術師として優秀な所を合わせて【魔女】と学院では呼ばれていたんだ」




「そうだったんですね……あまり自分の事は話されない方なので、リネットさんの事が知れて嬉しいです」



リネットは昔から≪錬金術≫ばかりの自分の欲にまっすぐな人だったのだとわかり、その事がほんの少し可笑しくて少しだけ笑みを溢してしまう。



「……君は……いや、何でもない」



「……?」




何やらモンドが何かを言おうとしたようだが、言う事を忘れてしまったのか言葉を切ってしまう。




「まぁだから、そんなリールトン嬢が教え子を作ったのがかなり不思議ではあるんだけどね」



「それに関しては傷薬の量産が大変だったとかだと思いますが……ん?」




そんな話を続けていたら、何やら会場全体が話をやめ、部屋の奥に設置されているステージに目線を向けているようだった。



「おっと、もう開始の時間か……ライア君、我々もあちらに行こうか」



どうやらモンドと話していたら報告会の開始時間が迫っていたようで、もう始まるらしい。



ライアはモンドの言葉に頷いて、人が集まっているステージの方に向かって近づいて行くと、ちょうどステージの上に人が現れて、部屋に居る参加者全員に聞こえるようにマイクのような魔道具を持ち、話し始める。






『うう”ぅん”……あぁ、お集りの皆さん、本日の【報告会】に集まってくれて、誠にありがとう。本日はいくつか議題はあるが、例年の報告会よりも大いに賑わう事は間違い無いだろうが、くれぐれも熱くなりすぎて話を聞き逃したなどという事にはならないように気を付けるように……』




ステージ上で喋り始めたのは、高価そうなローブを着た初老の男性で、恐らくライア達と同じ錬金術師で、話し方的にこの報告会を開いたり仕切ったりしている偉い人なのだろうと予測する。



その証拠にある意味高圧的とも捉えかねない発言に、周りの参加者達は一切文句を言わず、静かに話を聞いている。



『うむ……ではこの会場を用意してくれたフェンベルト子爵の挨拶を聞いてから発表に移ろう……フェンベルト子爵』




そう言ってステージの横に目を向ける男性に釣られてそちらを向くと、ローブや白衣ばかりのこの場にはふさわしくないであろうゴージャスな服を着こみ、悠々とステージの上までゆっくりと登ってくる男性が目に入る。



(……いや、俺もシシリーさん達に用意されたドレス姿だから格好には文句が言えないけど……傍から見たら俺もあんな感じに浮いてるのかぁ……辛い…)



自分の目からは白衣かローブ姿、もしくは使用人達の恰好しか見てなかったので、あまり気にしていなかったが、あのフェンベルト子爵の如何にも“貴族です”と言った服装を見て、自分もあんな感じに周りから浮いていたのだと理解し、ライアは1人落ち込むのであった。




『うぉっほん……本日は我がフェンベルト子爵家にお集り下さり、とても嬉しく思っております。偏にひとえ我が息子であるアカブ・フェンベルトの努力の賜物たまものでしょう。我がフェンベルト家は歴史が古く……』



フェンベルト子爵は挨拶と言いつつ、我が家はどうだ、我が息子はこうだなどと自慢話的な物を話し始め、5分程の長話を聞かされる。



『……学院でもアカブは優秀な…『ふむ、フェンベルト子爵?よい挨拶であった…ではこれより報告会の開始とする事にしよう』……』



さすがにこれだけ長い自慢話を聞くに堪えないと判断した先ほどの司会役の男性は、話の途中で割り込み強制的に自慢話を終わらせ、報告会を開会する。



話を遮られたフェンベルト子爵は面白くない顔をするが、どうやら司会役の男性の方が身分は上なのか、特に文句などは言わないで、ステージの上から降りていく。




『では最初の発表者、ガーリム・ボルトン。ステージ上へ』




そしてライアにとって、緊張の報告会が始まるのであった。














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