モンド・メルディ
―――――ライアSide
「こちらが本日行われる会合の会場になります」
(…うわぁ…怪しい人がいっぱいだわ…)
報告会に参加しに来たライアは、入り口で受付を済ませた後、このフェンベルト子爵家に仕えているっぽいメイドの案内で、大きなパーティー会場のような部屋に到着した。
その部屋の中には如何にも魔法使いと言ったローブや研究者が着る白衣っぽい物を着ている者達が4~50人ほど集まっており、その者達は恐らく報告会に参加するであろう錬金術師達なのだろう。
「では、会合の開始までまだ時間がありますので、お食事などでもされてお待ちください」
「あ、はい…ありがとうございます」
そう言ってここまで案内をしてくれたメイドは部屋を出て行き、ライアはこの広い部屋で一人きりになる。
(……とは言っても、他の参加者で食事に手を出してる人いないんだけど……え?そんな中俺だけご飯食べるの?無理無理)
周りを見渡してみれば、部屋の中央にはビュッフェ形式で豪華な食事と飲み物、それにそれを取り分ける食器などが置かれているのだが、それを取って食べている人は見える限りは誰もおらず、精々飲み物を飲んでいる者しかいない。
そんな誰も食べ物を食べていない中、ライア1人がバクバクと食事を摂るなど、小市民的心臓のライアが出来る訳もなかった。
「……俺も飲み物だけにしとこう……」
ライアは豪華な食事を横目に、ビュッフェの隣で飲み物を注いでくれていた使用人にアルコールの弱いシャンパンのようなお酒を貰いに行くのであった。
――――――――――
――――――――
――――――
『今回の……は…見だったよう………!……』
『……!……おぉ!リールトン………?』
『錬金術………?………!!』
(うぅん……多分俺達の事を話してるんだとは思うけど……さすがにちゃんとは聞き取れないなぁ)
飲み物を使用人にもらったライアは知り合いもいないし、周りの人達は殆ど貴族という事もあって、ライアは話しかける事はせず、部屋の端で周りの状況を観察することにしたのだ。
どうやらここに集まった錬金術師達は今回参加するライアの報告が話題のようで、聞き耳を立てれば色々な所で話されているのが聞こえて来る。
もちろん話全部が聞こえるわけでは無いが、話の途中途中で「リールトン」「合成術」などのワードが聞こえるので勘違いなどではないだろう。
(これだけ色んな人に話題にされている中報告書の説明やらスピーチするってどんな地獄よ……この部屋も無駄に広いし絶対大声上げないとダメじゃん……)
ライアはこの後の報告会での発表を考えると、胃に穴が開くのでは?とあまりの緊張にそんなことを考えてしまう。
……今現在、ここにいる人数よりも大勢の民衆の前でツェーンのライブを行っているのだが、何故かそれに関しては緊張をしていないらしいのだが、どうやらライア本体と分身体では色々と感じ方が違うらしい。
「……失礼、そこのお嬢さん?顔色が悪そうですが大丈夫ですか?」
「………え?…あ、はい!」
色々と考え込んでいた所為か、ライアの顔色を心配したのか水色の長髪を垂らした長身の男性が声をかけて来る。
「そうですか?あまり体調が良くないのであれば、別室などを借りられるように話してきますが?」
「あ、本当に大丈夫です!ちょっとこの後の発表の事で緊張していただけなので……」
話しかけてきた男性は、とても心配そうな顔をしてそう言ってくるので、ライアは心配はいらないと緊張していた訳を話す。
「発表…?という事は、もしかして……貴方がライア・インクリース殿?」
話しかけてきた男性は“発表”という言葉に思い当たる事があったようで、こちらの正体をあっさりと見抜いてくる。
「えっと、そうです、私がライア・インクリースです」
「おぉぉ!貴女があの≪合成術≫の発見した!……しかし、インクリース殿は男性と事前に聞いていたのですが、どうやら間違った情報が伝わっていたようですね」
「あ、すいません、それに関しては間違っていないです……こんな姿をしていますがちゃんと男性ですよ」
別に正直に言う必要は無いのかも知れないが、わざわざ心配してきてくれた人に嘘を言うのも嫌だったのであっさりと自分が男だと教える。
「え?……?……本当に男性なのかい?どこからどう見ても可愛らしい女性にしか見えないが……」
「あはは。ありがとうございます……本当に男ですよ」
男性は心底驚いたようで、直球な言葉を漏らしながらライアに確認をしてくるが、ライアの言葉に嘘が無いのだと思われたらしく、今度は信じてくれたらしい。
それからは流れでその男性と報告会が始まるまで一緒に話そうという事になり、初めにお互いの自己紹介を開始し、男性の名前が【モンド・メルディ】というメルディ男爵家の4男という事を教えてもらった。
「へぇ……メルディ様は港街ご出身なのですね……私は海を見た事が無いので、魚料理などは気になりますね」
「魚料理と言っても基本が煮付けか味付けの濃い焼き物だからね、殆ど肉の代わりに食べていると考えてくれていいよ。あと私の事は様付にはしなくていいし、寧ろ名前のモンドで呼んでくれ」
モンドの自己紹介の中に、故郷の町が港町という部分があったので、久しく食べていない魚料理が気になったライアはそう発言するが、どうやらこの世界の魚料理はそれほど発展していないらしい。
そして、貴族に対してあまり無礼をするものじゃないと様付けで呼んでいたが、様付け無しの名前呼びでいいと許可を貰う。
「インクリース殿は男爵位を得た男爵家当主なんだから、男爵家の息子である私より身分は上だからね……寧ろ私が様付けにしないとかな?」
「いや、それはやめてください……えっと、嫌でなければ私の事もライアと呼んでくれれば助かります、モンドさん」
「ははは!そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか!わかったよ、よろしくライア君」
「ふふふ……すいません……こちらこそよろしくお願いしますモンドさん」
さすがに他の貴族に様付で呼ばれていたら、下手をすれば他の貴族に目を付けられたり「元平民が不敬である」と罰せられてしまう!と嫌な可能性を考えたライアの表情を見たモンドは笑ってこちらに手を差し出してきたので、ライアは素直に握手を返すのであった。
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