報告会当日
――――――ライアSide
貴族の紋章の依頼や大工の手配などを終えたライアは、冒険者ギルドのカエデ達に挨拶に行ったり、貴族になれば必要になる知識なんかを勉強しながら錬金術師達の報告会が行われる日まで時間を潰していた。
もちろんパテルとともに新しいスキルを取得出来るように鍛錬も欠かさなかったが、特に新しいスキルは手に入れれてはいない。
そして、ついに明日が錬金術師達の報告会当日になるのだが、ライアは少しだけ悩みが出来ていた。
「ん~……明日の報告会、分身体で行くべきか本体で行くべきか……」
「……分身体だけではいけないのか…?」
そう、実はライアは明日の報告会に分身体を行かせるかどうかを迷っていた。
本来であれば国王との謁見でさえも分身体で済ませたかったライアだったのだが、国王に謁見するのに本人ではない分身体で会うのはダメだとアイゼルに言われて、王都まで遥々ライア本人が来ているのだ。
なので、今回の貴族が大勢来るという報告会もライア本体で行かないと失礼かな?と考えていた。
なのだが、この度晴れて貴族の仲間入りを果たしたライアが無理をして本体を行かせることも無いのでは?と思って決めかねているという訳である。
「分身体だけって、万が一にバレても俺が貴族になったから不敬罪とかにはならないのかなぁ?って思ったんだけど……貴族って言っても一番下の男爵位だし、変に悪印象を持たれちゃうのも怖いし……うぅ~ん……」
「………貴族とは面倒なんだな……」
パテルは悩み事を漏らすライアにまるで自分は関係ないとでも言いたげに言葉を溢す。
「うぅ~……よし、決めた!俺本人で行くよ。よく考えれば報告会に行く事で命の危険なんかがある訳じゃないし!」
「……そうか…」
ライアは後々面倒な事になる可能性などを考えて、別に命の危険もない場所に変にリスクを取るのも馬鹿らしく思えてしまい、分身体では無くライア本人が報告会に向かう事を決意する。
「はぁ……緊張するぅ……何とかきちんと終わらせれるといいけど……」
ライアは自分で行くと決めた事により、余計な緊張感が込み上げて来るのを落ち着かせるのであった。
―――――――――
――――――――
―――――――
翌日―――
ライアは報告会の始まる時間に間に合うように起床し、時間に余裕を持って馬車に乗り込んでいた。
―――ガタガタガタ
「………」
馬車の中にはライア1人で、移動する馬車から外の風景を見ながら心を落ち着かせていた。
そう、実は今日の報告会に向かうのはライア1人だけで、パテルは屋敷でお留守番をしていて、アイゼルも無関係という事で同行は無しである。
(くぅ……別に貴族だけの集まりでは無いってわかっていても、殆どの人が貴族の場所にアイゼル様がいない状況で行くのはこえぇぇ!)
この事に関しては王都に到着した時には聞いていたので文句などは無いが、自分一人で大勢の貴族を相手にするのかと億劫になってしまう。
―――――ギィィィ……
馬車のスピードが落ち、一軒の大き目な屋敷の前で馬車が止まり、目的地に着いたらしい。
「うぅ……着いちゃったか……」
恐る恐る馬車の外に出てみると、まだ時間は早いのにもかかわらず、屋敷の周りには何台もの馬車が止まっていた。
(リネットさんから聞いた時は報告会に集まるのは100人も居ないって話だったけど、馬車の数的にもう結構集まっているのかな?)
ライアは時間的には遅刻ではないのだが、何となく急がなければいけないという気持ちになったのか、心なしか屋敷に向かう足が速くなる。
フェンベルト子爵の屋敷は大きいは大きいのだが、今まで見て来たリールトン伯爵家の屋敷などと比べていまえば、それほど驚く事は無い位の大きさで、何となくホッとしてしまう。
屋敷の玄関方面に向かえば、何やら受付のような物があり、どうやらそこで今回の出席者の確認を行っているようであった。
「すいません、錬金術師達の報告会に来たのですが…」
「はい、お名前をお願いいたします」
どうやらライアの考えは合っていたようで、受付の女性に報告会の名前を出せば、参加者名簿らしきものを出してこちらの名前を確認してくる。
「ライア・ソン・インクリースと申します」
「……ん?申し訳ありません、インクリース様はこの1か月の間に男爵位を受け継がれでもしたのでしょうか?」
「あ、すいません、つい1週間ほど前に男爵位を得まして、名前が変わりました」
受付の女性は名簿に載っている“ライア・インクリース”の名前を見て、男爵位の当主しか名乗れない“ソン”というミドルネームに気付き、事実確認をしてくる。
「なるほど……お家のご事情は分かりませんが、ご当主就任おめでとうございます。名前のご確認も出来ましたので、中に案内させていただきます」
「では、インクリース様。こちらへどうぞ」
「ん?あ、はい」
なにやら受付の女性はライアが男爵家の子供で、親から当主の座を引き継いだと勘違いしているのか、微妙な言い回しであったのだが、案内のメイドが出て来たので、訂正をする間もなく屋敷に案内されていく。
(……そうだよね、貴族になったのはつい一週間前だし、報告会に連絡したのは1か月も前で、名前が変わってたらこうなるよね……気を付けよう)
何となく人を騙した気になってしまいながらも、次は気を付けようの精神で折り合いをつけ、案内してくれるメイドについて屋敷の中に入るライアであった。
――――――???Side
―――バシンッッ!!
「ひぃぃぃッッ!?」
そこは日の差さない薄暗い地下の空間。そこには牢屋らしき鉄格子ははめられた部屋がいくつも存在しており、その中の一室に元は綺麗な布地の高級品であるドレスをボロボロにさせた状態で着ている成人を迎えたばかり程の少女が地下に響く鞭の音に怯えていた。
「ふん!うるさい家畜め……おい!さっさとこいつに“奴隷用の首輪”を付けておけ!」
その少女の傍らには豪華な服を纏い、如何にも貴族らしい男性が鞭を振い、自分に反抗的な態度を取らせないように少女を痛めつけながら、配下らしき者に首輪を持って来るように命令する。
―――――バシンッッ!!!
「ひぃ!?……やめてぇ……お家に返してぇ」
「あぁ?家?お前の家とやらはいったい何処の事を言っているのだ?」
少女のか細い呟きを耳にした鞭を構える男は、まるで少女の家があるのかと心底不思議そうに聞き返す。
「わ、私はジェークス家の娘で……」
「ふははははは!お前はまだあの家に帰るつもりなのか?……お前を“売った”あの家に」
「ッッ!!」
男の言葉にムキになったのか、勢いよく先ほどまで鞭で甚振って来た男を睨みつけるが、それ以上の行動も言葉も紡ぐことは無く、激しく燃える怒りの気持ちを目の前にいる男に睨みつける事しか少女はできなかった。
「ふん、何も言い返さぬか……まぁいい、お前は近いうちに“帝国”に売り払い、新しい家を……いや、新しい
男は少女にそう言葉を言い放った後、大きな声で「おい!首輪を付けたら商品の所にぶち込んでおけ」と部下の男に始末を任せて、地下室から出ていく。
「くぅ……どうして…お父様…お母様…」
少女は悲嘆にくれながら、こちらを商品としか見ていない男の部下に連れられ、奥の隠された部屋に連れて行かれて、大きな牢屋に放り込まれる。
そこには、今牢屋に連れて来られた少女と同じくボロボロになってしまった元は高価そうなドレスを着た少女達が数名閉じ込められているのであった。
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