貴族のお店









冒険者ギルドにて、ガゼルに依頼を頼んだ後、この後もすることがあるライア達は冒険者ギルドを出る事にする。



ガゼルに「カエデ達に挨拶していくか?」と聞かれたが、さすがにアイゼルを待たせて世間話などするわけにもいかないので、やる事が終わった後、個人的に挨拶に来ると告げておいた。




冒険者ギルドを出発した後は、どうやら王都の西側の商業地区に向かうらしく、ライアは大人しく馬車に揺られて行く。











「……ここは?」



商業地区の中心地に近く、貴族達のお客がメインであるらしい高級なお店が立ち並ぶ場所に馬車が止まると、一軒の大きなお店に降ろされる。




「ここは国から認定されている鍛冶屋の店だ。ここで貴族の印である紋章を作成してもらい、儀式用の鎧も発注するのだよ」



アイゼルの言葉に目の前の高級そうなレストランにも見えるコンクリート調の建物がなんと鍛冶屋だとという事に驚いて、目を見開いてしまうライア。



「……私の知る鍛冶屋のイメージとかけ離れ過ぎてて……」



ライアの知る鍛冶屋とはヤヤ村にある、よく剣と防具を調達していた小さな鍛冶屋なイメージが強い為、これほどの大きさの鍛冶屋は初めて見た。



「ほら、ここで立っていてもしょうがないだろう?中に行こう」



呆けているライアを急かす様にアイゼルは店の中に進んで行き、ライアは「あ、はい!」と遅れないよう後に続いて行くのであった。






――――ガチャ…



「「―――いらっしゃいませ」」




「うぉ……」



店の中に入ると、店員らしき人達がこちらに気付き、入店の挨拶をしてくる。



実はライアはこの世界に転生してから、どの店でも入店の挨拶などは殆ど見た事が無く「いらっしゃいませ」という言葉に少なからずの懐かしさを感じていた。



「ははは、ライア君は貴族の店に入るのは初めてかな?貴族が利用する店などは入店の挨拶がある所が殆どだから、慣れておくといい」



「あ、すいません」



ライアは咄嗟に謝るが、恐らくアイゼルはライアが聞いたこともない挨拶に驚いてしまっていると思ってそう言ったのであろうが、実際には“懐かしい”という感情で声をあげてしまったので、慣れるという行為は不必要だろうと思った。



何しろこの手の挨拶は前世で日常茶飯事であったし、学生時代にはバイトで飲食店なども経験した事があるからだ。



(……まぁそんな事言えるわけもないし、言った所で意味はないけど……)




「いらっしゃいませ、リールトン伯爵様……本日はどういった御用入りでしょうか?」




そんな考えを巡らせていると、どうやらアイゼルの事を知っているらしい店員がアイゼルに話しかけて来る。



「今日はこの子の貴族の紋章とその紋章の入った儀式用の鎧を手配したくてな」



「かしこまりました……はて、リールトン伯爵様のご息女様は4女様のアイリス様までと記憶しておりましたが、勘違いをしており申し訳ございません」



「ん?……あぁいや、この子は別に私の息子では無いよ。つい先ほど新しい男爵位を国王陛下から頂いたインクリース男爵だ」




「えっと……どうも、この度男爵位をいただきましたライア・ソン・インクリースと申します」




アイゼルが店員と話を進めると、どうやらその店員はライアがアイゼルの娘だと勘違いをしたらしく、いきなり謝って来たが、それは間違いだとすぐに教えてあげる。




「おぉぉ!そうだったのですね!それはおめでたい事ですね………息子?」



「………こんななりをしていますが、一応男です……こういう趣味だと思ってください」



「あぁ!なるほどですね」




店員はライアの性別をまだ勘違いしているようだったので、申し訳なさそうに伝えるといきなりにこやかな笑顔を向けて来る。




「そう言った趣味の方はかなり居りますが、インクリース様ほどお似合いで美しい方は見た事が無いですね。これは鎧のデザインも捗りがいがあるという物です!」




どうやらこの店員はこのお店のデザイン担当の方だったらしく、シシリー達メイド軍団と同じく、ライアを着せ替えたいという目で見て来る。



(あぁ……この人もそう言う感じの人か……ていうか、アーノルド様以外にも女装趣味の貴族っているんだ……仲良くなれるかもしれないけど、何気に闇が深かったりするしな……)



世の中にはゴリゴリのマッチョがスカートと露出の多い服を着て、ゴリゴリの厚化粧を施した○○○のような人もいるのは知っているので、もしやそんな方たちもいるのかな?と考えてしまう。




「それは期待が持てるな……紋章に関してはライア君の功績である火竜とダンジョンに関係する物をデザインに入れてもらう事は絶対条件として、それ以外の構図はライア君と一緒に決めておいてくれ」



アイゼルの言葉に「火竜ですか!?それは素晴らしい!」と興奮し始める店員だったが、ライアはアイゼルの言葉に引っかかりを覚える。



「アイゼル様はご一緒に行かれないのですか?」



「あぁ、少し用事があってな……紋章のデザインはそれほどすぐに決まるとは思っていないし、私の用事もほんの1時間ほどで終わるので、待たせる事はないだろう」




「そうでしたか……わかりました」




ライアはほんの少し用事という物が気になりはしたが、ライアに言わないのであればライア関連ではないだろうし、アイゼル個人の用事かも知れないので、無理に聞き出そうとはしなかった。





「それではインクリース様、紋章のデザインと鎧のデザイン、それに採寸を行わせていただきますので、あちらの作業ブースにご案内いたします」



「あ、はい」




そのままライアは店員に案内をしてもらい、店の奥に進んで行くのをアイゼルに見送られるのであった。











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