開拓依頼












アイゼルの自己紹介を聞き酔いが覚めたであろうガゼルは、さすがに貴族と酒場で立ち話はヤバいとの事で、一応他の貴族などが来訪される際に話をするギルドマスターの執務室に案内された。



そのガゼルの執務室は最低限のソファーとテーブル以外は殆ど無く、所々に埃が被っている状態で、普段からこの部屋は全く使われていないことが分かる部屋だった。



そんな埃被りの執務室で再度アイゼルとガゼルは自己紹介からやり直し、冒険者ギルドに来た理由を話し始めると…。





「ライアちゃんが男爵位の貴族に!?!?」



「なぜかそんな事になってしまいまして……」



ガゼルは当然のごとく、ライアが男爵位を貰った事に驚愕の声をあげる。



「かぁ……竜種をぶっ飛ばして、ダンジョン見つけてって、そんな簡単にやれるもんじゃないはずなんだがなぁ…?」



「それほどの功であるから、国王陛下もライア君をアンファング王国の貴族に取り込もうとお考えになられたのだろう」




「それもそうか」



ガゼルのライアのしたことは普通ではないという言葉に、アイゼルはある意味肯定している言葉を返す。



「しかし、ライアちゃんの後ろにリールトン伯爵家がついてるんなら、ライアちゃんの貴族生活も安泰じゃないか?」



「そうなんですか?」



ガゼルがアイゼルの事を見ながら、そう話してくる。



「ライアちゃんは聞いていないのか?リールトン伯爵家は領地経営に関しても、国王からの信頼も高いって有名な家だぞ?」



「私は特に何かをしたわけでは無いよ…全て先代達の功績さ」



アイゼルは自身の家の事をそう評価されることに疑問は持っていないようで、有名なのは事実だがそれは先祖のおかげと話すので、少なからずガゼルの言う通り、リールトン家は有名な貴族であるらしい。



「ライアちゃんは国王陛下と謁見したんだよな?」



「はい、謁見の際に貴族位や家名を貰ったりしましたが……」



ライアは謁見の際に行った事や見聞きしたことを脳裏に思い出す。




「その場にリールトン伯爵も同席していたろ?普通謁見の場に同席を許されるのは謁見を許された者と侯爵家の者や宰相、後は国王陛下と信頼を築けている者達だけなんだよ」




「そうですね……アイゼル様は私が謁見の場に行った際には必ず国王陛下の近くに居りましたね」




ガゼルの話では、その場に参加できるのはごく少数の貴族達だけであるのにもかかわらず、伯爵家という貴族階級で言えば真ん中の位で謁見に同席することを許されているのは、リールトン伯爵家は国王陛下にとても信用されているからなのだという。



ライア的にはどちらかというと、ライアの謁見に際して保護者的な立ち位置で参加してくれているのだと思っていたが、どうやら違ったらしい。



寧ろ保護者的な参加をしたのは、最初に国王と謁見した時に隣に居てくれたモーゼスがその立ち位置だったらしい。




「ま、そんなわけで新しく誕生するライアちゃんの男爵家はほぼ安泰だろうな……良かったなライアちゃん!仮に税金を一切払えない程窮地に陥っても大丈夫になったぞ!あははは!」



「そんな事になっても自分で何とかしますよ!」



ガゼルの言葉に少しだけ向きに返事をしてしまうが、もしもの時に頼れる人が居るというのはとても安心できるし、心強いものだとも思う。もちろんお金などを借りるつもりなどは一切ないのだが。





「っと、すまんすまん、長話をし過ぎたな……確か、ライアちゃんの新しい領地への開拓民の募集の依頼だったな?その件に関しては了解した。1か月以内には参加者のおおよその人数は算出できるように急ぐから、大船に乗ったつもりでいてくれ」



ガゼルは本来の話を思い出して、ここに来た理由でもある開拓民の募集依頼の話に戻してくれる。



「たった1か月で集まるんですか!?」



「あははは!さすがに1か月で開拓民が集まりきるって事はないさ!大体どれくらいの人数が依頼を受けれるのか、どれほどの給金が必要になるのかを先んじて書類を出さないと、ライアちゃんが困るだろう?だからひとまず情報だけ集めて、そっちに渡すだけだよ」




「あ、なるほど…王城に提出する書類があるから……」




どうやらガゼルは開拓の際に国から資金が配給されることを知っていたようで、ライアが王城に提出する書類の為に、どれほどのお金が掛かるのかを先に調べてくれるという事らしい。




「ガゼルさんって……」



「おう?なんだ?」



あまりの気遣いの良さに、この間会ったサボり魔であるガゼルが、本当にギルドマスターなのだなと感心して、心に浮かんだ言葉が出る。




「本当に貴族なんですね……いつもそれだけ真面目にしていれば、受付のカエデさんとか他の職員さんが大助かりすると思うのに……」




「あっはっはっは!………すまんねサボり魔のギルドマスターで!そんなまっすぐな目でド正論ぶつけないでよライアちゃん!泣いちゃうよ!?」




さすがにきちんとしている所を見せたのに、普段の行いを否定されればさすがにガゼルも傷ついたのか、少しだけ涙目になってしまっていた。



そんなライアとガゼルを見ていたアイゼルは「先ほどの酒場で飲んだくれていたのはいつもの事なのか……」と少し呆れの表情を浮かべてしまうのであった。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る